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#084 徐々に本気を出すか、最初からか

ちょっと変わった仕事のひとつとして、2輪メーカーが用意する広報車両の慣らし運転をする、というものがある。広報車両とは雑誌やウェブ媒体の取材、イベントなどに貸し出しするための車両だ。ジャーナリストが試乗記を書く場合、ほとんどがこの広報車両をメーカーから借りて行う。

で、メーカーとしては当然いいコンディションで貸し出したいし、乗ってほしいと考えている。タイヤの空気圧やチェーンの張り、エンジンオイルの状態を保っておくことは当然だけど、工場から出荷された直後の車両だと、もしかしたら問題が起きる可能性がある。そこで数百kmほど走らせ、あらためてメンテナンスしてから広報車両として送り出すのだ。

慣らし運転は低回転から始め、徐々に負荷を掛けていく。その過程でギヤをまんべんなく使い、サスペンションやブレーキも積極的に操作しながらコンディションを整える。身体の稼働領域を増やしたり、温めたりするストレッチみたいなものだ。

欧州メーカーの車両でこれをやるのは楽しい。バイクによってはギヤなんかカッチカチでまったく入らず、ニュートラルなんかもちろん出ない。エンジンの回り方はしぶく、雑味もある。サスペンションの動きもぎこちない。

ところが走れば走るほど、バイク全体がほぐれていく様が分かる。ある程度走った後、オイルを交換したり、各部の整備を済ませると格段にスムーズに動くようになっている。

新車を購入したひとは、なんとなく覚えがないだろうか。どんどん滑らかになっていく感じは、数千kmほど続く。その頃にはおっかなびっくりだった新車にもすっかり慣れ、一体感が格段に高まっているはずだ。そうやって距離を重ねながら愛着が深まっていく。

日本車の多くはこの反対で、走行0km状態でも驚くほどタッチが柔らかかったりする。最初がベストコンディションだと、逆に些細なことが気になることもある。

どちらがいい悪いではない。

(※写真のメーカーと本文は無関係です)

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