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#054 宇宙は結構騒がしい

以前、日本女子大学の奥村幸子教授に話を伺う機会があった。教授は天文学や宇宙物理学を専門とし、アルマ望遠鏡(チリにある巨大電波望遠鏡群)の設置にも関わるなど、大きな実績を残している人物だ。

限られた時間ではあったが、「宇宙って皆さんが思っているよりも随分と騒がしいところなんですよ」とほがらかにおっしゃったことが印象に残っている。誰も知らない、見たことがない領域を開拓していくことの心地よさ。それが言葉の端々に表れていた。

インタビューが終わり、取材チームのみんなと昼食をとっていた時のことだ。あるひとが「研究内容がすごいことはなんとなく分かるけど、あれってなにに役立つんだろ?」と言い、もうひとりが「私もそう思ってました。“その研究にどんな意味があるんですか?”って何度も聞きそうになりました」と返した。

ちょっと小難しいこと、日々の生活と直接関わらないことに対して、こういう思いを抱くひとは珍しくない。天文学はさておいたとしても「方程式なんか知っていても社会に出れば役に立たない」と考えているひとも同質だ。

ひとの営みの中、役に立つことの方がずっと少ない。本を読んだり、絵を描いたり、楽器をひくことはもちろん、働いてお金を稼ぐことすら無駄なことになる。地球規模で考えれば、その営みが生むエネルギーによって環境はどんどん汚染されていく。

世の中には知らないで済むことがたくさんある。それこそ星の数ほどある。あるけれど、それを探求するのが文化や教養、知恵と呼ばれるものだと思う。

役に立つとか立たないとか、意味があるとかないとか。そんなことを簡単に言ってしまえるひとの存在こそが役に立たず、意味のないものなのでは?

少なくとも奥村教授は、未来になにかを託そうとしている。そこになにがあるのか、なにを見つけられるのかが分からないからこそ、自身の痕跡を残そうとしている。50年先、100年先の未来に向けた、ある種の遺言と言ってもいい。それは素晴らしく高潔な行為だと思う。


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