神様がくれたピンクの靴


 佐藤和夫著「神様がくれたピンクの靴」を読みました。著者は株式会社あさ出版代表取締役で、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の審査員をされている方です。本書は香川の徳武産業株式会社について書かれており、徳武産業株式会社の現会長十河孝男氏に、盛和塾のご縁で進呈していただきました。読むのが遅くなってごめんなさい。

 徳武産業は、大手シューズメーカーの縫製を生業としていましたが、大手工場が海外生産にを開始、受注が減少していく中で旅行用スリッパ、ルームシューズ、トラベルポーチの3分野で立て直して来ました。しかし、大手通販会社との取引に依存しており、担当者の一存でまたしても厳しい状況に追い込まれてしまったとありました。そうした中で、ルームシューズを作成するノウハウを活かして、お年寄りの転倒リスクを軽減する介護用のシューズの開発を始めました。開発のご苦労が様々書いてありましたが、そうした中で、デザインにも工夫を凝らしたケアシューズ「あゆみ」を気に入って、枕元に置いて寝ているというお年寄りに出会います。更には、車椅子のおばあさんがピンクの靴を履きたくて購入、周囲は歩けない人に靴を売りつけるのかと徳武産業にクレームを入れたそうです。しかし、当の本人は欲しくて購入したわけで、お気に入りの靴を履いて、毎日「歩けますように」と祈り、リハビリにも懸命に取り組んで、とうとう歩けるようになってしまったということでした。

 お年寄りのなかには左右の足の形が違ってしまい、右足は履けても、左足は履けないなんて言うこともあるのだそうです。そうしたお年寄りのために、業界では異例の片方ずつの販売も実施しました。これは在庫管理等大変そうで、素人目にはとてもじゃないけどと思うようなことですし、靴の販売を長年根掛けてきたベテランも反対するようなことだったということです。しかし、その販売に踏み切ります。そしてさらには、完全オーダーに近いシューズを安価に提供しようと、ある程度の型番をつくり、ここの足の状態に合わせてパーツを交換していくパーツオーダーシステムを開発しました。その情熱たるやすさまじいものですし、ビジネスモデルの特許もとれるシステムだったのですが、十河氏は「この手法を独占して、どんないいことがあるだろうか。わが社だけが潤っても、足に悩んでいるお年寄りや障害をもつ方々が幸せになるわけではない。片方や左右サイズ違い販売をより多くの会社が真似して実施してくれれば、それだけたくさんの人たちが助かる。」と考え、特許を取らずにすべてを公開したということでした。

 なんだかもう驚かされることばかりで、自分の経営に照らしてもどこをどう見習ってよいやら訳が分からなくなってしまいました。一つ言えるのは、まだまだお客様やエンドユーザーに対して考えられることがあるということですね。もっと考えたいと思います。

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