見出し画像

仕組み債の実態

7月4日の日経ヴェリタス「お金を殖やすツボ 高金利だけど・・・仕組み債に潜む穴」で取材協力し、コメントを載せていただきました。

仕組み債の商品特性やリスクは複雑で、限られた紙面の中で一般読者の方に説明するのは難しいですね。

私のコメントのポイントは次の通りです。

■ 手数料が開示されていない
■ 仕組み債の購入を繰り返すうちに大きな損失を被る

これらについて、もう少し詳しく説明します。

手数料が開示されていない

債券に組み込まれているオプションのオプション料が、仕組み債の高金利の原資となっていますが、オプション料がその市場価格より低く設定されていて、その差額が金融機関の利益、つまり手数料となっています。

しかし、このような手数料は開示されていません。これでは、顧客本位の業務運営に関する原則で求められている「手数料等の明確化」に即しているとは言えません。

顧客本位の業務運営に関する原則より
【手数料等の明確化】
原則4.金融事業者は、名目を問わず、顧客が負担する手数料その他の費用の詳細を、当該手数料等がどのようなサービスの対価に関するものかを含め、顧客が理解できるよう情報提供すべきである。

当たり前のことですが、金融機関は金融商品の販売によって何かしらの収益を得ています。その収益、すなわち手数料の元と大きさについては開示をするべきでしょう。

仕組み債の購入を繰り返すうちに大きな損失を被る

仕組み債には通常「早期償還条項」というものがあって、参照する株価等が決められた価格まで上昇すると、満期前でも償還される仕組みになっています。

株式市場が安定している状態では、すぐに早期償還となってしまいますが、早期償還となって手元に戻ってきたお金を、また新たな仕組債の購入に充てる人が多い状況です。

しかし、先に説明した通り、仕組み債のリスクの見返りであるオプション料は、市場価格より低いので、一見高金利に見えても、実はリスクに見合ったものではないのです。

したがって、取引を繰り返しているうちに、いずれそれまで受け取っていた高金利を吹き飛ばすような、大きな損失を被ることになってしまうのです。

仕組み債の問題点については、下の二つの記事で詳しく解説しているので、よろしければご笑覧ください。


仕組み債のリスクを分かりやすく説明すると

次に、仕組み債のリスクを分かりやすく説明するためのイラストを作ってみたので、ご覧ください。

上のイラストは、日経平均株価指数を参照する仕組み債をイメージしたもので、当初の株価指数が3万円で、ノックイン価格はそこから30%下の2万1000円と設定されています。

償還までの間に、日経平均が2万1000円まで下落しなければ、高金利を受け取り元本も100%戻ってきます。

しかし、2万1000円に下落すると、さあ大変!崖を真っ逆さまに落ちるように大きな損失を被ってしまいます。一度ノックインしてしまうと、仕組み債の償還金額は赤い点線で表される形で、元本を大きく下回ってしまいます。

仮に、ノックインした後に株価がV字回復して3万円を超えたとしても、償還金額は元本を超えることはありません。

このように、仕組み債はとても恐ろしい金融商品であり、一般の方が購入するべきものではないのです。

仕組み債に関わる紛争の実態

「一般の方が購入するべきものではない」と言いましたが、実際は、金融機関のセールスによって購入した結果、大きな損失を被りトラブルとなるケースが多いようです。

金融商品の販売において発生したトラブルをあっせんによって解決する「証券・金融商品あっせん相談センター」という機関があります。この機関は、英語名を略して「FINMAC(フィンマック)」と呼ばれていますが、四半期毎にトラブルによってあっせんした件数と内容が公表されているので見てみましょう。

下のグラフは、四半期毎のあっせん件数と、その対象となった金融商品の内訳を表したものです。棒グラフ中に赤で示された仕組み債が、金融商品の中で一番トラブルの件数が多いことが分かります。

FINMACあっせん件数2

仕組み債でESG??

最後に、仕組み債にESGの冠をつけて販売しているトンデモ事例を紹介します。

新生銀行は、下のように仕組み債に「グリーンボンド」という冠を付けて販売しています。ESGと言えば、お金が集まりやすいとでも考えているのでしょうか。

画像3

いくら、仕組み債で調達したお金を「環境にやさしい経済・社会の発展に貢献する企業・プロジェクトに融資する」といっても、資金の出し手である顧客が大きな損失を被って、金融機関を訴えるような事案が数多く発生しているようでは、持続可能な資金調達方法とは言えません

仕組み債をこのように販売することは信じられず、もしかしたら、金融機関さえもそのリスクの複雑さと大きさを理解していないのではないかと思ってしまいます。

今後、記事にもあったように重要情報シートによって、どこまで開示が進むのか注目していきたいと思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?