小説を書きたい人はオレンジ文庫短編小説新人賞(旧コバルト短編小説新人賞)の作品と選評を読むべき

この賞です。

この賞は元々紙の雑誌のCobaltに掲載されていた賞で、その後WebマガジンCobaltに移行し、さらにオレンジ文庫公式サイトに移行したものです。紙の方では1983年から始まってたようですね。「第232回」とか半端ではない回数を重ねているのは伊達ではないのです。

ちなみにオレンジ文庫への引っ越しのお知らせは↓これです。

しかし、この賞のすごさは単に歴史を重ねていることだけではありません。何がすごいかと言うと、

  • 受賞作とその選評が読めるのに加えて、

  • 最終選考に残りながらも惜しくも受賞できなかった作品についても、その作品に加えて、ていねいな選評が読める

というところにあります。

(どうも移行して若干サイトのナビゲーションが難しくなった気もしますが)過去の作品と選評は以下から辿れるはずです。現在は第181回から第229回までが公開されているようです。

この短編新人賞は頻繁に開催している(以前は隔月、現在は年4回)こともあり、作品の出来は、えーと、言葉を選びますが、そんなにすごくない(失礼)というか、ふつうに欠点があったりするんですよね。さらに候補には残ったものの受賞できなかった最終選考作品は、受賞できないだけありさらに欠点が大きい。そういう作品について、ちゃんと選評が読めるというのは、要は「うまくない小説のうまくなさと、どうすればよかったかを解説してくれている」わけです。しかも解説をしているのは現役の編集者と作家(今は青木祐子さん、その前は三浦しをんさん)です。これはすごい。

小説を書き始めたひとがほしいものとして、フィードバックがあると思います。ところが、小説を読むのは一般的にかなりコストがかかります。技術記事だと素人が書いてもそんなに読むのが大変ではないことが多いのですが、素人の小説ってめちゃめちゃ読むのが大変なんですよね…(※個人の感想です)。なので、よほどの機会があるか、あるいはよく出来た友人がいるとか、優秀な同人やセミナー・スクールにいるとかでないと、細かいフィードバックはもらいにくそうです。

しかも、運良くそういう人がいるとしても、一般的に自分の小説の下手なところを指摘されてうれしくなる人はあまりいないと思います。わざわざ下手さをさらすために苦労して書きたいわけではないですし、技術記事は文章と自分をある程度分離して評価できますが、小説の場合は作者個人が性格や感情も漏れがちになって、作品を否定することが表現そのものだけでなく作者の感性や感情を否定されているように思われるかもしれません。
つまり、読み手も書き手もしんどくなりがちなわけです。つらい。

その点、この短編新人賞の選評は、自分の書いた小説そのものではないにしても、実際に応募された小説の選評なので、プロではない人の書いた小説に対する一般的な評価として、参考になるところは多々あるはずです。しかも書かれた方以外は自分の書いた作品じゃないのでそんなにダメージも受けないはず(?)です。

そんなわけでぜひとも読まれると良いのではないかと思いますが、たくさんあってどれから読めばいいか…という方にとりあえずおすすめしたい一作は、第196回の新人賞受賞作「二位の君」です。

これ、作者名でわかってしまう方もいるかと思いますが、今や『成瀬は天下を取りにいく』『成瀬は信じた道をいく』で有名になってしまった宮島未奈さんのデビュー作なのです。宮島ムーは彼女の当時のペンネームですね。

で、この作品の選評では良いところはもちろん、問題点も指摘されてるんですよねー。これも確かにうなづけるところだったので、こういうところも含めて参考にしていただけるとよさそうです。単純に話も面白かったですし。


ちなみに私がこの賞で一番好きな作品は、Cobalt2001年6月号に掲載されてた「ひまわり日記」という短編です。終わり方は微妙ですが中盤まではすごかったです。機会があればぜひ読んでみてください(もっともWebでは公開されていないため、Cobalt2001年6月号をなんとか見つけて読むしかないので、普通のひとはたぶん一生機会がないと思いますが……)。

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