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そいつは気づくと止まっている

当の本人である僕はあまり自覚がないうちに、そいつは始まっている。
大体始まる時は右目。いや、左目に及んだ事は、今のところ、無い。(と思う。)
ピクピクと瞼が痙攣を始めるのだ。
後々になって思い返してみると、それは身体的に疲れていたり、気持ちがくたびれていたりすると起こっている事に気づくのだけれど、渦中にいる間はあまりその自覚がないものだ。

この痙攣にまつわる、記憶している中で一番古い記憶は、大学受験の時。
ろくに勉強もしていなかったのに、「俺は勉強している」などと一丁前にその気になっていて、中々進学先の大学が決まらない事に焦っていた頃(当たり前だ、勉強なんてほとんどしていなかったのだから)、急に右目瞼がピクピクと痙攣を始めた。
当時は全然理由が分からずに、毎日毎日、痙攣する瞼が鬱陶しくて仕方がなかった。
このまま一生このピクピクと付き合わないといけないのかと恐ろしい気持ちにもなっていた。
確か高校の卒業式の時にも大学が決まっていなかったんじゃなかろうか。

そんな中、受けていた入試のうちの(確か)一番最後の合格発表の日を迎えた。
その日の僕は兎に角憂鬱で、きっともう今回も無理だろうとヤケになっていて、「合格発表は見に行かない!」と家族に宣言していた。
意気地なしの僕を気にかけてくれた叔母が、なんとわざわざ合格発表の掲示された大学まで足を運んでくれ、そこから僕のケータイまで連絡をくれた。
「こーすけ、合格してるよ〜!」
パァ〜っと心の中に立ち込めた靄が晴れてゆく。
良かった、もう「勉強しなくちゃ」って考えなくていいんだ…(勉強してなかったけど…)
その合格発表の日も漏れなく右目が痙攣していたのだけれど、叔母からの電話の後、気づくとぱったりとその痙攣は止んでいて、その後も暫くの期間、痙攣に悩まされる事は無くなっていた。
そうか〜、きっと「勉強勉強」って自分を追い込み過ぎてたからなんだなぁ〜ハハハッ!などと、当時勉強してたつもりのだけだった僕は独りごちた。

それからこれまでにも何度も、ふとした拍子に右目の痙攣はやってくるのだけれど、振り返ると何となく、大体の心当たりはある。
だから今では、僕はたまにやってくるこの右目の痙攣を自分の心身のコンディションの目安にしている。
やつが始まったら、しっかりと身体を休める。早めに眠ったりしてみる。バスタブに湯を張ってみる。牛乳を温めてみる。チョコレートを頬張ってみる。口の中が甘くなったら煎餅も頬張ってみる。
ちょっとずつの立ち止まりで、しっかりと日々を健やかにする。これを心がけるのだ。

と、これを書きながら、実はまた目が痙攣している。しばらく前からだ。今のところ、心当たりは、やはり無い。
またこいつが止まった頃に、振り返ってみるとしよう。

さてと。今夜はチョコレートを頬張ってみよう。その後はきっと煎餅だ。

ちょっと気持ちが向いた時に、サポートしてもらえたら、ちょっと嬉しい。 でも本当は、すごく嬉しい。