LGBT「先天性説」への異論一「自由」の名によって「自由を破壊」する新しい全体主義

   6名の韓国人学者らの共著『同性愛は生まれつきか?』(楊尚眞氏訳)によれば、21世紀になって同性愛の後天的な要因を示唆する多くの研究が生まれた。日本政策研究センターの小坂実研究部長が『明日への選択』で「LGBT『先天性説』への異論にも目を向けよ」と題して、以下のような最新の研究動向について詳述している。
 第一に、幼児期の虐待と同性愛に正の相関関係があるという。2013年、幼年期の身体的又は性的虐待が同性愛を誘発させるという研究が発表された。同性愛者は異性愛者よりも、幼児期に性的または身体的な虐待を受けた事例が1,6倍から4倍多いとされた。
 第二は、同性愛者と両性愛者が異性愛者よりも「幼年期の家族生活の困難」を抱えているという研究で、「家族の精神病、薬物中毒、拘置所収監、父母の別居、または離婚などをより多く経験する」とされた。
 第三は、「父母の誤った性役割モデルが同性愛形成に影響を及ぼした」とする研究である。「正しい性役割をする父母の下で十分な愛を受けることができずに育った子供から同性愛指向が生ずる」とされたという。
 第四は、寄宿舎、刑務所、軍隊などで偶然に同性愛を経験することや、女性の場合は性暴力のような誤った性経験をすることの影響である。
 第五は、同性愛を美化する映画やビデオ、同性愛ポルノなどの影響である。そうした文化が与える「好奇心と衝動が同性愛形成に及ぼすことができる」とされたという。
 ただし、同性愛には遺伝的な影響が全くないということではない。たとえば、容姿、声,体型などの身体的要素や性格などの心理的要素である。同書は次のように結論付けている。
 「結論的に父母、友達、経験、文化、社会風土などの後天的な要因と身体的な要素、性格、異性に好感を持たれない容姿、などの先天的な要因によって、同性愛性行(種)が心に形成される。後天的な要因が先天的な要因より多くの影響を与え、先天的な要因は間接的である」

 また、アメリカの女性ジャーナリストのアビゲイル・シュライアー『不可避的なダメージ』(Irreversible Damage)によれば、トランスジェンダーは「友達とソーシャルメディアの影響が大きく関係する」と結論付け、「仲間による感染」(peer contagion)というキーワードを提示したブラウン大学のリサ・リットマン博士の以下の見解を紹介している。
 第一に、思春期に性別違和(性同一性障害)を“突如として“自覚した65%の少女らは、長期のソーシャルメディアへの沈溺後、性別違和を感じるようになっていた。
 第二に、少女らの幾つかのグループ内において、性別違和の拡大は想定された数値より70倍も多かった。リットマンは「仲間による伝染」の中身を次のように解説している。「第一に、非典型的な兆候も性別違和と認識されるべきであり、そうした兆候はトランスの証拠だとする信念。第二に、幸福への唯一の道は性転換だとする信念。第三に、自分がトランスだとする自己認識に同意しなかったり、性転換の計画に反対する者は誰であれトランス恐怖症であり、虐待であり、黙らせるべきだとする信念」であると。
 小坂氏によれば、LGBTの活動家らはリットマンを攻撃し、大学はウェブサイトから彼女の研究を削除した。しかし、リットマンの研究は2018年に最も議論された学術論文となり、性別違和問題に関する世界の傑出した専門家たちから称賛されたという。そこで、シュライアーは次のように指摘している。
 「仮に思春期の少女らに見られるトランス急増の原因がリットマンの仮説通り“仲間による伝染”だとすれば、“性転換”へと突進する少女らは最も必要な治療を得ていないことになる。医師たちは、ホルモンや外科手術への少女らの要求に性急に対応する代わりに。何が問題なのかの理解に努めるべきだ。最悪の場合、無用なホルモン治療や取り返しのつかない外科手術で少女たちを後悔させる可能性がある。」
 同書はトランスジェンダーが後天的な要因によって形成されると主張しているわけではないが、「性的指向」と同様に、後天的な要因にも目を向ける必要があることを示唆している。ちなみに、米精神医学会編『精神疾患の診断・統計マニュアル新訂版』には次のように書かれている。
 「性同一性障害の子供たちの大半は、時間の経過、両親の介入、または仲間からの反応によって、反対の性の行動がはっきりしなくなる」(メルビン・ワン『確かな性意識を持つ子供を育てるには』)

 ガブリエル・クビ―著『グローバル性革命一自由の名によって自由を破壊する』も必読の書である。同書によれば、1960年代以降、国連、欧州連合、メディアの支援の下、社会の価値システムを変化させようとする強力なロビー活動が展開され、その目標は「道徳的制約から解放された絶対的な自由」であったという。
 性的少数者のために「性的規範」を解体し、その結果、「健康な社会を可能にする家族の価値が奪われてしまった」のである。「性の解体」について論じた第一章の冒頭には、「過度な自由は国家や個人を深刻な奴隷状態へと導くだけだ」という哲学者プラトンの言葉を掲げている。
 「現在の攻撃の斧は、人間の深い内面にある道徳体系の根源」に向けられており、人間が自由を享受できる能力を与える源である道徳体系の解体化を目指している。この道徳体系の基本的な前提は、「成功的な人間関係を結んで成功的な人生を生きるためには、性という美しい贈り物をよく整えていかなければならないものだ」というものである。
 しかし、その逆のもの、つまり、欲望から生まれる低俗な行動は、道徳体系を破壊し、人間とその文化を歪曲させてしまう。
 
 私が副会長を務める歴史認識問題研究会の学術研究誌『歴史認識問題研究』第9号で、麗澤大学のジェイソン・モーガン准教授は、「ニューレフトの沿革と米国の反日思想の成立」という論文で、大要次のように指摘している。
 1970年代からラディカルとフェミニズムが結合してアメリカの大学が過激化し、社会・文化そのものを全面的に破壊しなければマルクスが予言していた「解放」は実現しないと、マルクスの主張を修正した新しいマルクス主義である「文化マルクス主義」が台頭し、アメリカの各大学で反日ネットワークが拡大されつつあるという。
 日本が「反女性的社会だ」という固定観念が、特にフェミニズムの影響を受けたアメリカの左派の中で強くなり、慰安婦問題について論文を発表したハーバード大学のラムザイヤー教授を「反女性的だ」と罵倒し、糾弾を呼びかけるツイッター攻撃が広がり、同教授を弁護した早稲田大学の有馬哲夫教授までが攻撃対象となり、「差別を煽り、歴史否定発言を繰り返す教授の解雇と再発防止を求めます」という解任を求めるキャンペーンが繰り広げられた。
 『反日種族主義』というベストセラーを出版した大学教授も授業内容が問題視され、解任を求める裁判が起こされた。モーガン論文によれば、「反日ネットワーク」は。「文化マルクス主義に立脚したアメリカの各大学の左派から、日本、韓国、ヨーロッパの左派へと拡大しており、ラムザイヤー・有馬哲夫・『反日種族主義』著者の解任を求める攻撃キャンペーンに繋がっている点に注目する必要があろう。
 モーガン准教授が入手したアメリカの教授たちのラムザイヤー攻撃メールによれば、「反日ネットワークとフェミニストネットワークは、かなり一致する」という。「反日」思想の成立過程の詳細については、モーガン論文を参照してほしい。
 ちなみに、マルクス主義フェミニズムの急先鋒である上野千鶴子氏は1985年と1990年に「マルクス主義フェミニズム」に関する著作を出版し、日本学術会議ジェンダー分科会委員長として、ジェンダー学の構築と普及に努め、多大な影響を及ぼしてきた。
 上野氏は『資本制と家事労働一マルクス主義フェミニズムの問題構制』(海鳴社)において、次のように述べている。「私は、フェミニズムの解放理論の必要を感じながら、その可能性を、英米語圏のマルクス主義フェミニズムの展開の中に探っていた…解放の理論のためには社会理論が不可欠であること、社会理論の構築のためには現状認識のための理論的な装置が必要であること一それを考えていた私にとっては、マルクス主義フェミニストの理論的な実践は、私と多くの問題意識と方向性を共有しているように思われた」

 多様性への寛容や「差別禁止」を訴える人々がいかに「非寛容」で攻撃的であるかを、3人の大学教授解任騒動は雄弁に物語っている。モーガン論文によれば、「文化マルクス主義の目的は、家族の構造を壊して社会全体を破壊することにある」という。
 子供の権利や自由を強調する人々の善意の背後にうごめく「自由の名によって自由を破壊する」新しい全体主義から、子供を救い出し、家族や家庭、文化、社会を守らねばならない。


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