大谷翔平を育てた原田隆史の家庭教育論⑵

 原田隆史は荒れた大阪の松虫中学校を立て直すために自分自身が夢を語ることを決意し、保護者と学校に「1年で学校を立て直し、3年以内に陸上部を日本一にする」と公約した。約束通り3年目で陸上部の選手が日本一に輝いた時、それまで子供の未来を信じていなかった親は、子供の可能性を信じるようになり、親自身が自分を変えようと生活を改め、自らが夢を描くようになったという。
 その後13回日本一の優勝を重ねたが、夢を描くために必要なアブラハム・マズローの「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」という5段階欲求を満たすことによって、夢・志の実現へと導いた。
 どんな子供でも、夢を描けば再生できる。子供に夢を描きたい、夢を実現したいという欲求を持たせ、親が自分を愛し、そして子供を愛すること。愛していることを伝えれば、子供は安心して夢を描くことができる。
 子供の夢が叶う家族とは、子供が夢を描ける「安心できるいきいき家族」、みんながしっかりしている「結果を出せるきっちり家族」、仲の良さがウリの「ほんわか友達家族」、大きく変わる可能性のある「大変身家族」で、子供の家庭内での存在感を向上させる親の行動として、次のように例示している。

<姿勢>
・良いところに着目する
・体調を気づかう
・子供の存在自体を大切にする
・目を合わせて話す
・前向きで明るい言葉を使うようにする
・「いつでも話を聞くよ」という態度をとる
<声かけ>
・感謝の気持ちを伝える
・帰宅時の表情や声に注目して、ひと声かける
・「ありがとう」と言う
・「おはよう」「おやすみ」の挨拶をする
・得意なことを認めてほめる
・結果だけではなく、努力していることをほめる
・成長している部分を具体的に伝える
・「どんな家族がいい?」と理想の家族について話し合う
・いけないことをはっきり「ダメ」と伝える
・自分自身をほめることを教える
<行動とルール>
・スキンシップを取る
・二人きりで出かける
・出かけるときは玄関まで見送る
・帰宅時は玄関まで迎えに行く
・家庭内で家事の役割を決めて、取り組む
・一緒に食事をする
・日々の整理整頓を心がける

 また、子供の家庭内での不安感を減少させる親の行動について、次のように例示している。

<信頼関係>
・「困ったことがあったら言ってね」と言う
・人と比べて批判しない
・嘘をつかない
・自分が悪いと思ったら素直に謝る
・問題行動があったら、最初に理由を聞く
・相手によって態度を変えない
・失敗を責めず、理由や本人の考えを聞き、改善案を一緒に考える
・髪型、服装、言葉遣いなどの注意をするときは、理由や目的を伝えて、納
 得してもらえるようにする
・人格を否定するような行動は慎む
<生活環境>
・してはいけないことを明確にする
・玄関、トイレ、ゴミ箱周辺、水回りなどを清潔に保つ
・家庭内で「使用禁止の言葉」のルールを決める(キモイ、だるいは言わな
 いなど)
・家庭の経済状況にについて話し合う
・自分の部屋を掃除させる
<緊急時>
・災害時の連絡先や避難先を話し合っておく
・予定や行き先は普段からお互いに伝え合うようにする

●子供の夢を叶えるために家族でできる6つの原田メソッド

 では、実際に子供が夢を描き、その夢を実現するために家族でできることは一体何か?原田は次の6つのメソッドがあるという。

<メソッド1>
・靴を揃えるだけで子供が変わる一「心のコップを上に向ける」
 問題を抱えた中学校の生徒の多くには、「真面目」「素直」「前向き」「一生懸命」な態度が見られなかった。何度も「タバコを吸うな」「髪を染めるな」「チャイムが鳴ったら席に着け」と指導しても、「うるさい」「面倒くさい」「面白くない」と言って反抗し、話を聞く姿勢すら見られなかった。そこで我慢強く「心のコップを上に向ける」指導がカギを握っている。師範塾の教育の原点もまず自らの「心のコップ」を上に向けることにあった。
 靴を揃えてきれいにする習慣を続けていけば、子供たちは心穏やかになり素直になる。子供の心のコップを常に上に向けるためには、まず親が靴を揃えているところを子供に見せることが大切である。
 家庭教育の基本は、教育哲学者の森信三先生の「時を守る」「場を清める」「礼を正す」の「再建の3原則」である。「心のコップ」が上を向いていない人は、この3つのどれかができていないからである。
 原田は東京、埼玉、大阪、福岡で10年以上取り組んできた「師範塾」の2期生であるが、松虫中学校の陸上競技部が13回日本一になれた最大の理由は何だと思いますか?と塾長・理事長であった私に質問したことがあった。私が即答できずに思案していると、「挨拶」「返事」「整理整頓」の森信三先生の「躾の3原則」ですよ、と語ったことを鮮明に覚えている。



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