魔物が日本に上陸し、モラルを崩壊させた一「キレる17歳」の背景

2000年5月に愛知県豊川市で成績優秀な17歳の高校生が主婦の体を40か所も刺して殺害し、動機として「殺人の体験をしてみたかった」と供述し、精神鑑定の結果、1回目は「分裂病質人格障害か分裂気質者」、2回目は「犯行時はアスペルガー症候群が原因の心身耗弱状態であった」として、医療少年院送付の保護処分が決定した。
 この事件は文部省に高機能自閉症児に対する早期発見・支援が必要であることを認識させ、後に特別支援教育として制度化されることになった。この事件の2日後に発生した西鉄バスジャック事件の犯人は事件直前にこの事件に関する手記を書いており、乗客3人に切りつけ1人が死亡した。
 さらに6月には岡山金属バット母親殺害事件が起き、「キレる17歳」の背景に一体何があるのかについて世間の注目が集まった。彼らは3年前に神戸で起きた中学生による小学生連続殺害事件の犯人と同年齢で、殺害の仕方に影響を受けていることが明らかになった。

丸山敏秋「悪魔が日本に上陸して」

 倫理研究所の丸山敏秋理事長は、この事件について次のように回顧している(異界と倫理⑫「悪魔が日本に上陸して」一「異界」からの出現・其の3」参照)。

<世紀の猟奇事件の犯人が十四歳の少年と知って世間は震撼したが、その犯行声明を見て私は、ついに来たるべきものが来たかと思った。一言で言えば「悪魔の上陸」である。しかも犯人たる「A少年」には3条件がことごとくそろっているように思われた。第一の「アメリカ渡米のカルト」という点。第二の、宗旨の別なく神聖なるものすべてを穢さずんばやまずといった絶対的流聖行為。そして第三の、人間への限りない蔑視。「汚い野菜共には死の制裁を」(犯行声明文)との言い方に何よりもそれは端的に表れている。
 もっとも、カルトといっても、少年は特定の宗団に属していたわけではない。しかし、ある意味で、彼が信じたのは全く新手のカルトとも言えないことはあるまい。何かといえば、魔的映像教ともいうべき現代的サタニズムの一派である。少年は極めて短直に、アメリカ製の『マイキー』、香港製の『人肉饅頭』といったホラービデオをとおして、負の福音書を実践したともいえるからだ。どこの教会、寺院へ行くでもなく、「お宅」の密室で、未知の魔王の指示どおりに快楽殺人を行うことが可能な現代であり、その未来型人間に彼は属していたのである。>

心の中に住んでいる「絶対零度の狂気」

 A少年は小学校4年生を鉄のハンマーで殴打して死亡させてから、「犯行ノート」をつけ始め、翌月には「懲役13年」と題する作文を書いたが、そこには以下のような「魔物」の文字が躍っている。
 「いつの世も…、同じ事の繰り返しである。止めようのないものはとめられぬし、殺せようのないものは殺せない。時にはそれが、自分の中に住んでいることもある。…『魔物』である」
 「魔物は、俺の心の中から、外部からの攻撃を訴え、危機感をあおり、あたかも熟練された人形師が、音楽に合わせて人形に踊りをさせているかのように俺を操る。それには、かつて自分だったモノの鬼神のごとき『絶対零度の狂気』を感じさせるのである」(高山文彦『「少年A]14歳の肖像』新潮社、参照)
 同作文の最後に、A少年は「人の世の旅路の半ば、ふと気がつくと、俺は真っ直ぐな道を見失い。暗い森に迷い込んでいた」と書いている。Aは特異な能力の持ち主で、「(興味のある本を書店で立ち読みするだけで)頭にスーッと入ったページを覚えていた」「いろんなものから抜き出して、順番を入れ替えて書いた」と鑑定医に告白したという。

A少年に影響を与えた本と映画

 丸山は見た(観た)光景をそのまま記憶する「直観像素質者」であった可能性が高く、恐るべき「悪魔の力」と評している。文藝春秋社の松井清人元社長によれば、両親の独占手記を『週刊文春』に掲載した記者は、猟奇犯罪や犯罪心理学に関する様々な文献を読み漁り、2冊の翻訳本に辿りついたという。『FBI心理分析官異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記』(ロバート・K・レスラー著)と、『診断名サイコパス身近にひそむ異常人格者たち』(ロバート・D・ヘア著)である。
 A少年はこの2冊の前扉に引用されている文章を孫引きし、あの作文を書いたという(松井清人「少年Aが繰り返し観た映画・書籍の実名リスト」PRESIDENT Online(2019/08/14)。たとえば、「作文」の末尾の<魔物(自分)「怪物」と闘う者は、その過程で自分自身も魔物(怪物)になることがないよう、気をつけねばならない…>の部分は、『FBI心理分析官』の前扉にあるニーチェの『ツァラトゥストラかく語りき』からの一文を、ほぼそのまま引用したもの(ニーチェな「怪物」をA少年は「魔物(自分)」に置き換えた)であるという。
 Aにとりわけ大きな影響を与えた書籍や映画は『悪い種子』『プレデター2』『13日の金曜日』等で、戦慄する惨殺の仕方、バラバラにした死体との性行為、幼児虐待、麻薬犯罪など、現実離れした異様な残虐行為が満載されている。

日本人のモラルが魔物に食い荒らされた

 ちなみに、丸山敏秋著『道徳力』のプロローグには、次のように書かれている。

<今、世界中の人々がバランスを失っている。昔の生き方に戻らなければならない…バランスが大きく崩れると、地震、竜巻、病気の蔓延、飢餓、火山の爆発など様々な厄災がやってくる。自分たちの身も心も守らなければならない。…まるで自分で自分を滅ぼそうとしているようなものだ。…今や、すべての人々のバランスが崩れているので、未来にはとても困難なことが待ち受けている。重ねて言おう。あなた自身にかかっているのだ。>

 丸山はある時から日本に巣喰ってきた「魔物」の存在を感じ、次のように書いている。

<その魔物は、1995年から猛威を振るいつつある。この泡沫経済崩壊後の日本を奈落に突き落とすような事件が続いて起こり、以来、列島には沈鬱な空気が蔓延した。現代日本の腐った膿が大震災の後、一気に噴出したようだった。魔物の格好の餌食となったのが、国民のモラルである。…日本人のモラルは、いつしか魔物に食い荒らされてしまった。すなわち、是非善悪を判断する規範意識(道徳意識)が希薄化し、人と人との絆が弱まり、国や民族を愛する心を失い、不正不法が横行して、将来の希望や進路が見い出せず、社会の活力が著しく低落してしまった。とりわけ気がかりなのは教育の惨状である。>

竹本忠雄筑波大名誉教授の警告

 異界から出現する魔物たちが結集し、A少年を操るような悪魔が日本に上陸するための諸準備を着々と行い、「悪の力」が我が国に押し寄せている。筑波大学の竹本忠雄名誉教授は、次のように警告を発している。

<インターネットを手放しで喜ぶには人間は余りに脆弱すぎる。なぜなら悪魔は実在し、上陸し、しかも瞬時に侵入しうるからだ。ディスプレーを通して、人々の心の中に、神戸のA少年事件が教えてくれた教訓はそれであり、この革命的悪の拡散の時代を前にして、我々、ことに日本人は余りにも無防備すぎる。もっと「敵」を知らねばなるまい。「心の教育」を叫ぶだけで事足りようか。かつてキリスト教世界にしかなかった「悪魔学」…少なくともその学習が必要とされよう。闇の力に劣らず強力な、光の復活をもたらすためにこそ…悪魔とは、異界から出現して、この世の世界を破局に導く「悪の力」に他ならない。その力を警戒しつづけてきたホピの長老は、こうも言っていることを付記しておこう。
<お互いを愛し合う気持ちと、大霊と母なる大地に心からの愛をもって、魂の安らぎの中に集うことしかない。>
<結局、最後にはわれわれはひとつなのだ>

 日本と世界を脅かしている「悪の力」と正面から向き合い、異なるものの調和を実現し、世界平和を祈る「祈りプロジェクト」の全国展開を目指したい。


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