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恋は直球ストレートで

少し照れくさそうな顔の彼が、私に手渡してくれたのは洒落たルージュ。
それはホワイトデーの贈り物。
ルージュのパッケージには『恋の駆け引き』と書いてある。
彼にそのことを言うと面白い名の口紅だねと微笑んだ。
どうやら彼はパッケージを見ないで買ったらしい。

恋の駆け引きだなんて難題だわ!

そもそも”駆け引き”だなんて、
どうやってしたらいいのかわからない。
早速、彼に相談。
「ねえ。恋の駆け引きってどうしたらいいのかしら」

一晩中、その話題。
彼は笑って「美穂ちゃんは誰と恋の駆け引きをしたいの?」
誰って貴方とに決まっているでしょと答えると、
じゃあ俺に駆け引きをどうしようかだなんて相談するなよと更に笑う。

ほら、寝るよと急かされて
仕方なく部屋の灯りを消して眠ったゆうべ。


“恋の駆け引き”
……そういえば、遠い昔、当時、交際していた男性と駆け引きをしようとしたニガイ思い出が一瞬よみがえった。
私はその人とコトのさいちゅうに別の男の人の名を呼んだのだ。
浅はかな私の算段では
「ほかの男になんて渡さないぞ」とその人は言うと思ったのだ。
ところが、だ。
その人の顔色がサーッと変わった。
そう、それが私流の”駆け引き”のつもりだったのに、まさか、その人が怒りをあらわにするとは思ってもいなかった。
「どういうつもりで抱かれていたの?」と
その人はホテルのルームを出て行ってしまったのだった。


今、私が「駆け引きってなんだっけ」と
もう、あの事件を憶えていないくらいに素直になれているのは、
現在、一緒にいるKさんと出逢ったからだ。

Kさんといると
飾らない素のままでいられるから
駆け引きの仕方さえも忘れてしまった。

さて、きょうの夕方、帰宅前にKさんからLINEが入った。
一行だけ「愛している」と。
この人Kさんはどこまでいっても計算しない率直な男性だ。
だからこそ、私も計算なしでありのままの気持ちで一緒にいられる。

ホワイトデーの贈り物のパッケージには『恋の駆け引き』とあったけれど
私たちは私たちらしく、直球の笑顔で愛し合うことができている。

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