中年おばさんの奮闘記 in デンマーク!19

義父の病気と義母の一言

 自分で決めた「1週間に1回ビジネスのことについて行動する」ルールは、しばらくの間続いていた。実際に行動したことを誰かに話したいと思い、たまにエミールにフードビジネスの話をしても、彼の反応はいつもイマイチだった。彼と私の思考は全く反対なのである。常にリスクを考えて行動しているエミールに比べて、私はそもそも考えることが苦手である。私の場合、一生懸命考えても結果はいつも「やってみないとわからないじゃん!」という答えにたどり着いてしまう。そんな私たちのやり取りを見て、義母はいつも「エミールとミノは相性が良い。」と言って笑っていた。
 エミールの反応は良く無かったが、義父と義母は私のフードビジネスの話を面白がって聞いてくれた。この時、彼らは私のフードビジネスに本当に興味があったかどうかはわからないが「義娘の意見を否定しない。」という彼らのスタンスが当時の私を救っていたのは間違いない。
 私はいつかフードビジネスを開始した時のために、エミールの友達が遊びに来た時や、誕生会など親戚一同が集まる時には、せっせとフードバイクの試作品を作っては、みんなに評価してもらっていた。

 そんなある時、義父がパーキンソン病にかかっていることがわかり、間もなく前立腺がんも発症していることがわかった。それは家族全員にとってとてもショックな出来事だった。病気のことを調べるうちに、パーキンソン病は今の治療だと治すことは出来ないが、病気の進行を遅らせることは出来ることを知った。家族全員がまだショックで打ちひしがれている時、義母と二人っきりで話をする機会があった。その時、私は義母から「ミノ、フードビジネスをするべきよ!わからないことは、ネルス(義父)に助けてもらったら良いじゃない!病気にかかったネルスには何か生きがいが必要なのよ!」と言われた。義母は元医者なので、病気になった人には何が必要なのか的確にわかっていた。義父は長年高校教師をしていたが、好奇心旺盛の人だったので、町議員やレストランの経営など様々な経験をしたことがある。義母のこの一言が私の背中を強く推し、私の中で「フードビジネス」という言葉が現実味を増して、大きく成長していった。

起業講座に参加

 日本人ママとのミーティングは相変らず「〇〇売るのはどう?」とか「こんなビジネスはどう?」等、夢いっぱいでワクワクするような楽しい話で盛り上がり、参加する度に私はとても興奮し、心は希望に満ち溢れた。しかし、ほとんどの参加者が起業方法や販売方法、会計等の具体的なやり方を知らないのが現実だった。
 私は義母に背中を押されたこともあり、もっと真剣にフードビジネスについて行動してみようと思った。そこで、以前調べた"STARTVÆKST Aarhus"で行っている英語版の起業講座に参加することを決心した。参加する前までは知り合いもいないし、私の英語レベルで大丈夫かな?とかなりの不安があったが、会場に行ってみると様々な国から来た若い人たちが沢山いて、会場は彼らの熱いエネルギーで包まれていた。そして実際に英語での講習を受けてみると、難しい言葉はわからなかったが、会社の種類、起業方法、販売価格の計算方法など、基本的なことは理解できた。
 講習からの帰宅途中、私は勇気を出して講習会に参加し、具体的な情報を得ることが出来たことに、とても充実感を感じていた。

フードバイク

 講習会を受講する前の私は試作品など自分が楽しくなることをメインで調べていたが、受講後は起業のリスクや、経営する上で重要な数字など、頭が痛くなるような情報を調べるようになった。さらに私は、保健所のサイトにある食品衛生管理の英語版講座の受講も開始した。通常だと数時間で受講は終了するらしいが、外国語が苦手な私は1カ月間かけて終了した。時間はかかったが受講を終了した証明書を取得出来た時はとても嬉しく、エミールに自慢しまくった。
 面白いことに、1つのことを調べると調べたいことが次から次へと出て来た。そして、いつの間にか私は毎日のようにビジネスのことについて行動するようになっていた。

 そんなある日、いつものように「どこかに素敵な中古のフードバイクは無いかな?」と、中古サイトを見ていたら、いくつか良さそうなフードバイクを発見した。「おっ!ナイス!」と思ったが、それらは全てコペンハーゲンにあった。コペンハーゲンはめったに行かない場所だが、たまたま、数週間後にコペンハーゲンに住んでいるエミールの親戚に会い行く予定があった。「この機会を絶対逃したくない!」私はエミールを必死に説得し、中古フードバイクの所有者2人と連絡を取り、フードバイクを見せてもらうことになった。
  私たちがコペンハーゲンに到着した日、エミールのいとこのターニャが「今日はコペンハーゲンの街のストリートで音楽イベントがあって、沢山のフードトラックやフードバイクが出店されるはずよ!」と教えてくれた。「なんてラッキーなんだ!きっと色んなフードバイクを見ることが出来るに違いない!」こう考えた私とエミールは、義父母に息子と娘の面倒をみてもらい、イベントが行われるであろう場所まで自転車で行くことにした。この頃になると既にエミールは積極的に私のフードビジネスに協力してくれるようになっていた。
 街の中を自転車で散策していると、前方に一人の女性がフードバイクに乗っている姿を発見した。私はエミールに「あっ!フードバイクだ!」と伝えると、エミールは見逃さないように彼女を追った。私も見逃さないようにエミールの後を追いかけた。彼女の後をついていくと、音楽イベントの会場に辿り着いた。そのイベントにはたくさんのフードトラックがあったがフードバイクは2台しか見当たらなかった。1つはトウモロコシを売っているバイクで、もう一つはパンケーキを売っているバイクだった。私たちはトウモロコシを販売するフードバイクを追いかけていたので、彼女が忙しくない合間を見計らってトウモロコシを買いに行き、私もいつかフードバイクでビジネスをしたいことを伝えると、彼女は親切にも色々な情報を教えてくれた。ビジネス用のキッチンで食べ物を作らなければならないこと、食品の管理の仕方、銀行口座開設方法、どこのサイトで情報を調べられるのか、また必要な検索ワードなども教えてもらった。
 翌日、2台の中古のフードバイクを見に、コペンハーゲンの郊外まで行った。1番目のフードバイクは値段が安かったが見た目も機能性も良くなかった。しかし、2番目のフードバイクは値段が高かったが、見た目も機能性も良く、とても素敵なフードバイクだった。私もエミールもそのフードバイクに一目惚れをし、もしかしたら、このバイクで日本食を売ったらみんな喜ぶのではないかと思った。さらにこのフードバイクの所有者に色々な話を聞くと、彼は昔レストランでシェフとして働いてて、フードバイクだけではなく、フードビジネスについても色々な情報を知っていた。私とエミールは彼に沢山の質問をし、役に立つ情報を沢山得ることが出来た。
 ターニャの家に戻り夕食を食べ、子供たちを寝かしつけた後、私とエミールはフードバイクについて話し合った。フードバイクの金額は40000kr(日本円で約77万円)である。あのフードバイクに40000krを出す価値があるのかどうか、また、フードビジネスについてのリスク、さらに私には40000krの大金がないのでエミールにお金を借りることになるが、そこまで本気でフードビジネスをやる決心をしているのかどうか、等々話し合った。
 エミールはいつものように様々なことを心配していたが、この時の私には「絶対成功する!」という根拠のない自信しかなかった。話し合いの末、私たちは一目惚れした2番目のフードバイクを購入することにした。早速フードバイクの所有者に再度連絡をし、購入する旨を伝えると、少し値引きしてくれることになり、私は38000kr(日本円で約73万円)で購入することが出来た。運よく義父の家には大きな車庫があったので、フードバイクをそこに置いてもらうことになり、ターニャのお父さんであるハンスがフードバイクをトレーラーに載せて、義父の家まで運んでくれることになった。
 まだ始まってもいない私のフードビジネスにデンマークの親戚一同が協力してくれたことに今でも心から感謝をしている。

親愛なる子供たちへ

 ママは起業することを決めてから、起業や経営に関する様々なYoutubeを見始めるようになりました。すると「昔は何かしようと思っても、まずはそれらの情報を調べるところから開始しなければならなかったが、ネットでどんな情報でも調べられる今の時代は行動した者が勝つ!」というようなことを有名Youtuberが言っていました。
 ママは考えることが苦手ですぐに行動してしまう性格なので、たまたま今の時代に適していたのだと思います。
 あなた達が大人になった時、どんな世の中になっているのか、ママには全く想像がつきません。もしかしたら多くの人が言っているようにAIが人間の代わりに働いて、人間は働く必要がなくなっているのかもしれません。

 「才能よりも能力の方が重要だ!」という言葉を聞いたことがあります。
どんな世の中になっても適応できる能力を身に付けていることは大切なことだとママは思います。そのためにはきっと今のうちから様々な経験をさせてあげた方が良いのでしょうけど、ママには十分なお金がありません。
 ママがあなた達に出来ることと言えば、ママがデンマークに来て、どのようにデンマーク社会に馴染んでいったのかをここに記録していくことくらいです。
 いつかあなた達が大きくなって、何か迷いが生じた時、ママの記録が少しでも参考になったら良いな~(まぁ、参考にならなくても良いんだけどね。)とママは勝手に思っています。


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