中年おばさんの奮闘記 in デンマーク!24

初めてのオーダー

 オープン日の前週に、キッチンリーダーのメスから「Xメンバーのイヤンスが12~15人分の朝食と昼食を3日間用意してくれる人を探している。誰かやりたい人はいないか?」といった内容のメッセージが送られてきた。あーちゃんと優子さんに聞いてみたところ、すぐに「やってみたい!」という連絡があったので、私は早速メスに連絡し私たちが彼らのご飯を用意することになった。「Tokyo Kitchenとして初めての仕事だ!」私は本当にビジネスが開始されたことにとても喜び興奮した。私たちは、初めて仕事をもらえたことがとても嬉しかったので、お客さんは何を作れば喜んでもらえるのか利益を度外視して、優子さんを中心に食事内容を色々考えた。その結果、朝食はデンマーク式、昼食は日本食が好きでない外国人がいるかもしれないことを考えて1日目と3日は日本食、2日目はヨーロッパ風のスープを作ることに決めた。朝食用のパンは今まで作ったことが無かったので、冷凍のパンをオーブンに入れて出そうと思っていたが、たまたまエミールのおばさんのスィが我が家を訪れる機会があり、彼女に初めてのオーダーのことを話したら「パンは自分で作ったら?とても簡単だし、冷凍のパンより美味しいわよ!」と言って作り方を教えてくれた。実際、彼女のレシピのパンは本当に簡単で、とても美味しかった。
 初仕事当日、私はイヤンス達の朝食の準備をするために朝の6時半に自宅を出発しなければならなかった。子供たちを起こさないように出かける準備をし、出発しようとした時エミールがちょうど起きて来て「Enjoy your first job! GANBAREー!」と言ってくれた。私は「ありがとう!子供達のことお願い!」と言い自宅を出発した。Xに行く途中買い物をして、8時ちょっと前にはキッチンに到着した。到着するとすぐに前日仕込んでいたパンの生地を冷蔵庫から取り出し形を整えてオーブンに入れた。初めてお客さんに出す料理に私はとてもドキドキし、何度もオーブンを覗き込んでは、上手にパンが焼けているか確認した。途中で失敗した時のためにパンを買いに行こうかなとも考えたが、ラッキーなことに家で練習した通りパンは美味しそうに焼き上がった。彼らは朝食の時間を9時と希望していたので、私はそれまでにコーヒー、ジャム、チーズ、牛乳、食器などを人数分用意していると、イヤンスと彼の仕事の仲間達が続々キッチンに集まって来てみんな朝食を食べ始めた。彼らが朝食を食べている最中、私は彼らのリアクションがとても気になりドキドキしていた。そして、彼らを横目でチラチラと見ては、私が作ったパンを食べてくれているのかを確認した。私の心配とは裏腹に、彼らは沢山パンを食べてくれ「ごちそうさまでした。美味しかったよ。」と言ってくれた。私はこの光景を見て、こんなド素人の私の料理でも「美味しい」と言ってくれ、さらにお金を払って食べてくれる人がいることに感動し、感謝をした。彼らがキッチンを出て行くと優子さんが来た。優子さんも余ったパンを食べ「これ、美味しいね。」と言ってくれたので、私はとても嬉しかった。

 昼食作りは優子さんを中心に行われた。1日目はカレー、2日目は鶏肉スープ、3日目はお寿司を作った。以外だったのはお寿司よりもカレーが人気だったということだった。彼らから「カレーが美味しかった!」という言葉を聞く度に私は「どうだ!日本の食べ物は寿司だけではないんだぞ!」と誇らしい気持ちになった。また、私たちは頼まれてもいないのに勝手におやつも用意した。タイ焼きや抹茶クッキーを作って彼らに食べてもらったところ、日本のレシピでは甘さが足りず、私たちにとって「甘すぎる」と感じたスィーツの方がデンマーク人には評判が良いことがわかった。
 初仕事の初日は緊張していたこともあり、帰宅途中でも疲れなどは全く感じていなかったが、少し慣れてきた2日目からは若干疲れを感じるようになった。最終日の3日目の朝はなかなか起き上がれず「今日が最終日!明日はゆっくり寝れる!」と自分に言い聞かせて起きた。フードビジネスは楽しいことばかりじゃない。体力勝負でもあるということを実感した初仕事だった。

初イベント

 3日間の初仕事も無事に終わり、私はキッチンの掃除をしながら「今日は思いっきり寝れるんだ~!実は今日からエミールが子供達を連れて義父の家に1泊してくれているの~!」と、どうでも良い話を優子さんにしていたら、Xメンバーの中でもイケメンで人懐っこいビクターがキッチンに来た。そして「明日靴のアウトレットのイベントがXで開催されて、毎年200~300人のお客さんが来るから、キッチンをオープンした方が良いよ!」と教えてくれた。私はこの3日間、朝食のパンを焼くために朝早く出勤していたので疲労困憊だった。しかし、そんなに沢山人が来ると聞いたらやってみたくなるのが私の性である。優子さんに「やってみる?」と聞いてみると彼女は直ぐに「やろう!」と応えたので、私たちは急遽翌日キッチンをオープンすることにした。作る料理はイエンス達に好評だったカレーに決め、パンとお米の2種類を用意することにし、お客さんがどちらかを選べることにした。ラッキーなことに、優子さんの友達でドイツに住んでいるアリーシャがたまたまこの日、遊びに来ていたので、彼女も明日のイベントを手伝ってくれることになった。手伝ってくれる人が沢山いて心強くなった私は、早速、必要な食材の買い出しとパンの生地の準備をした。この3日間、毎日パンを焼いていた私は、既にレシピを見なくても作れるほど上達しており、パン作りにすっかり自信を持っていた。調子に乗っていた私は、デンマーク人はお米よりパンが好きだろうと勝手に思い込み、張り切って130食分のパンの仕込みをし帰宅した。まさかこの130食分のパンを処理するのが大変になるなんてこの時の私は知る由もない。
 翌朝キッチンに行くと、Xには誰もいなくシーンとしていた。しかし私は、お客さんが沢山来てくれることを期待して一人でせっせとカレーの準備とパンを焼き始めた。そのうち外では一人二人ちらほら人を見かけるようになり、数十分後には十人程人が集まっていた。このことを出勤途中である優子さんに連絡したら、「もうすぐキッチンに着くから、ホットコーヒーを用意して!デンマーク人はコーヒーが好な人が多いから、絶対飲みたい人がいる!」と指示があった。「なるほど!」何も考えずに昼食の仕込みしている私より、よっぽど優子さんの方が商売上手だと思った。そのうち、優子さんもキッチンに到着し、私はいつものように彼女の指示通り動き、11時前までには大量のカレーを作り終わった。ご飯も炊き上がり、パンもたくさん焼けたので外を見てみると、靴を買うお客さんの長蛇の列が出来ていた。確かにビクターの言っていた通り、200人はいそうである。私は「ヤバい!こんなにお客さんが来られても困る!」と思い焦ったが、その心配も束の間、長い行列のお客さんは靴を買いに来ているのであって、誰も私たちのカレーなんて目にも止めていなかった。そのうち、お腹を空かした人が一人、二人、カレーを購入しに来た。お客さんのほとんどが、カレーを購入する前に必ず「日本のカレーってどういうの?」と聞いてきた。この時私は「Japanese curry 」と書くだけでは駄目だ、写真付きのメニューと説明文を書いたボードを用意する必要があることがわかった。暫くすると3、4名立て続けにお客さんが来たので「お!いいぞ!もっと来い!」と思ったが、お客さんはこれ以上来ることはなかった。試しに日本のように「日本のカレーです。美味しいですよ!いかがですか~?」と声掛けしてみたが何も効果はなく、一番忙しくなるであろうと期待していた正午の時間、私たちはキッチンのテーブルを囲んで自分たちが作ったカレーを食べていた。この時私は久々にかなり凹んでいた。大量に余っているカレーとパンを見て、こんなに虚しいことはない。でもこれが現実なんだ。と思った。
 カレーを食べたら若干元気が出たきたので、私たちは後片付けを開始した。「今日の利益は絶対マイナスだよね。ヤバいね。」とネガティブな会話を優子さんとしていたら、ビクターが再びキッチンにやってきた。彼は「調子はどう?」っと聞いてきたので、「もう!あなたに騙された~!誰もカレーなんて買わないよ!」と冗談っぽく嫌味を言ったら「じゃあ、俺が残りのカレーを全部買うよ!丁度パーティーを開く予定だったから、皆で食べるよ!」と言ってくれた。格安の値段だったが、カレーとパンを引き取ってもらい、食料が無駄にならずに本当に良かったと思った。
 帰宅後、エミールにこの日のイベントについて話したら「デンマーク人は日本みたいな声掛けは好きでないよ。むしろ声掛けに慣れていないから、買わないかもよ。デンマーク人は声掛けしなくても、自分が欲しい食べ物だったら買うよ。」と言われた。私はこれを聞いて、オープン当日はお客さんが来なくても、絶対声掛けだけはしないでおこうと誓った。
 それにしてもこの4日間全く利益を生むことが出来なかった。これで人件費が発生したらかなりの損失だったと思う。他の飲食店の人たちはどのように利益を出しているのか不思議に思った私は、この時から経営についてYoutubeで学び始めた。

親愛なる子供たちへ

 ママはフードビジネスを始めた時、経営について全く知らなかったので経営の知識は家事をしている間にYoutubeを見て少しずつ学んでいきました。また料理をすることは元々好きでしたが、料理に関する知識もそんなにあったわけではないので、料理の知識もYoutubeとネットサーフィンをしながら学びました。今の時代、何か始めたいと思ったら、いつでも簡単に情報と知識を得ることが出来ます。あとは、行動するだけです。ファーはメリットとデメリットをきちんと考えてから行動するタイプです。ママは考えても結局よくわからないので自分の直感に従って行動するタイプです。どちらが正解かはママにはわかりません。ただ、ママが唯一知っていることは、行動を起こしたら、それを一生懸命やるということです。一生懸命何かに打ち込んでいる人はそれだけで成功者だとママは思います。
 



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