中年おばさんの奮闘記 in デンマーク!31

Byens Bedste

 本格的な夏が終わった頃、数か月前に出産を終えたあーちゃんが赤ちゃんを連れてちょこちょこキッチンに遊びに来るようになった。私達は赤ちゃんが大好きなので順番に赤ちゃんを抱っこしては「この匂い懐かしい~!」「頬っぺたプルプル~!」などと言っては赤ちゃんトークに花を咲かせていた。
 そんなある日、一人の男性が1枚のポスターを持って来た。デンマーク語でどうやら「ここに張らせてくれ」と言っているようだった。私は「ポスター張っても良いけど、木曜日と金曜日しかお客さん来ないよ。」と言ったが、どうやら会話が通じていない様子だった。デンマーク語が達者なあーちゃんがたまたま外にいたので、彼が何を言っているのか聞いてもらった。私と優子さんは「どこの会社の人なんだろう?何のポスターなんだろうね?」などと話しをしながら遠くで2人の様子を見ていると、突然あーちゃんが泣き出したのである。私は慌てて彼女に近づき「どうしたの?」と聞いた。すると、あーちゃんは「この賞が欲しかった。」と言った。すかさず私は「何の賞なの?」と聞いたら「Byens Bedsteといって、街で良いお店に与えられる賞。」と彼女は答えた。優子さんが「そんなにすごい賞なの?」と聞くと、「オーフス市の人は皆知っていると思う」と答えまた泣き出した。あーちゃんが泣いたので、私も思わずもらい泣きしてしまった。しかし、優子さんは「何がすごいの?そんなにすごいの?」と言いながら注文が入った餃子を一生懸命焼いていた。そんな彼女の姿を見て私とあーちゃんは思わず大笑いした。
 ポスターを持ってきた男性が帰った後、あーちゃんがByens Bedsteについて詳しく教えてくれた。Byens Bedsteとは、århus stiftstidendeという新聞社が企画していて1年に1度、街一番のお店や企業に贈られる賞だということ。ルールは簡単で毎年århus stiftstidendeが受賞カテゴリーを設定する。そのカテゴリーにふさわしいと思われるお店や企業をオーフス市民が投票しノミネートされるお店を決める。それぞれのカテゴリーの勝者は1か月半後に再び行われる市民の投票と専門家の評価によって決定される。今回Tokyo Kitchenは「新しいお店」というカテゴリーでノミネートされたということだった。
 Byens Bedsteの詳細を知った私と優子さんは「な~んだ!あーちゃんのリアクションを見て、受賞したのかと思ったよ!」と冗談を言ったが、あーちゃんは「ノミネートされるだけでもすごいと思う!」とまだ感動していた。3人で大いに盛り上がった後、せっかくなので頂いたポスターとノミネートされた賞を持って記念撮影をすることになった。3人でキッチンの外に出ると、たまたまこの日は外に沢山の人がいた。みんなByens Bedsteのポスターを見ると、拍手をしてくれ一緒に喜んでくれた。私はこの時、デンマークの社会に初めて受け入れてもらった感じがしてとても嬉しかった。

 「ノミネートされたからには、絶対に勝ちたい!」ノミネートされた直後の私たちの意気込みはすごかった。すぐに広報担当のあーちゃんが得意のリサーチ力でライバル店を調べ、グループチャットにそれぞれのお店の情報を送ってくれた。ライバル店のお店のサイトを見てすぐに私は「あ~、負けた~」と思った。どのお店もテーブルと椅子がありイートインが出来る立派なレストランだった。さらに、エントランスには豪華なシャンデリアがあるレストランもあれば、北欧デザインで設計されたおしゃれなレストランもあった。一方Tokyo Kitchen といえば、室内にイートインスペースはないし、外に置いてあるメニューボードなんかは、道端で見つけた木のボードにガムテープでメニューを張り付けたものを使用している。それどころか週に2回しかオープンしていなくホビービジネスと言われても仕方がないレベルなのである。私はどうしてTokyo Kitchen がノミネートされたのか、むしろそっちの方に疑問を思った。そんな私を気にもせず、優子さんとあーちゃんは、どうやったら勝てるのか戦略を立て始めた。そんな意欲旺盛な彼女たちを見て私は頼もしいと思った。

 私達3人はどうやったらByens Bedsteで勝つことが出来るのか色々話し合った。しかし最終的に考えついたことは、Byens Bedste関係無く、いかにお客さんに喜んでもらえるかということだった。私達が出来ることは、美味しいご飯を作ること。そこで、あーちゃんがお客さんに何を食べたいのかネットでアンケートを取ることにした。その結果、沢山の人が様々な回答をしてくれたが、その中でも「ラーメン」「お好み焼き」と答えた人が多かった。お好み焼きは去年11月12月の2カ月間販売したが、人気だったのは始めの頃だけだった。なので、私とあーちゃんは「ラーメンをやろう!」と提案したが、優子さんは「ラーメンは作るの大変だからやりたくない!」と言った。しかし、私とあーちゃんがラーメンを作ることを熱望したので仕方なく優子さんも賛成した。
 ちょうどその頃、Tokyo Kitchenはオープンしてからもうすぐ1年が経とうとしている時期だった。さらにXも11周年を迎えるイベントを行うという情報を耳にした。なので私たちは沢山の人が来てもらえるように、Xの11th anniversaryイベント日にTokyo Kitchenの1th anniversaryイベントとしてラーメンを販売することに決めた。
しかし、この決定が優子さんのセリフを現実のものにするとは、この時の私たちはまだ誰も知らなかった。

最愛なる子供たちへ

 2022年の4月、ノアが日本の学校では小学校1年生になるので、ママはあなたにひらがなを教え始めました。初めてひらがなを勉強した日、あなたはママの膝の上に座って「し」を10回書きました。そして書き終わったら「アミに内緒ね!」と言ってあなたにクッキーを1つ渡しました。アミに内緒という優越感もあり、その時のあなたは本当に美味しそうにクッキーを食べ「明日もひらがなする~!」と言いました。あの日からあなたは毎日一日も欠かさず勉強するようになりました。
 あれからちょうど2年後の2024年4月、今度はアミが日本の学校の小学校1年生になります。あなたは2歳年上のノアの真似をいつもしたがります。なのでこの1年間ノアが勉強した後、少しだけママと勉強ごっこをしていました。毎日5分ほどママの膝の上に座って本を読んだりひらがなを書いたりしているうちに、あなたは小学校入学前にひらがな、カタカナの読み書き、さらには九九の暗唱が出来るようになってしまいました。九九の暗唱なんかよりももっと大事なことがあることは十分知っているのですが、毎日あなたがママの膝の上に5分ほど座って一緒に勉強してくれる時間は、ママにとってとても大切な時間なのです。あなた達の母国語はデンマーク語なので日常会話はどうしてもファー(父親)との会話が多くなってしまいます。ママはデンマーク語がわからないので、あなた達が楽しく会話している姿を見て寂しくなる時がしょっちゅうあります。なのであなた達と日本語で一緒に勉強している時間がママにとって親子の絆を確かめる貴重な時間です。きっとあなた達は、"どうして僕たちだけ日本の勉強もしなきゃいけないの?他の友達はデンマークの勉強しかしてないよ?"と思っているかもしれません。確かにそうだと思いますし、ママが子供だったら絶対そう思います。しかし、デンマーク語も運動も苦手で子供の遊びも退屈に思ってしまうママにとってこの方法が一番簡単で楽なのです。あなた達が「今は勉強したくない!」と言った時は"無理に勉強をさせない"というルールは必ず守りますので、あなた達がもう少し大きくなるまでママと一緒に勉強してあげてください。

毎日ママと一緒に勉強してくれて、本当にありがとう!

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