中年おばさんの奮闘記 in デンマーク!30

商品

 長かった冬が終わり、本格的に温かくなってくると、外のベンチでご飯を食べるお客さんが増えてきた。彼らと話をしていると、食後のデザートが食べたいというリクエストが多く聞かれた。そこで私たちは、タイ焼き、豆腐ドーナツ、抹茶チーズケーキ、抹茶テラミス等様々な日本のデザートを作って販売した。さらに、今月の特別メニューとして、かき揚げ丼、五目御飯弁当、コロッケなども作り人気がある商品は定番商品にした。
 新商品の中で最も人気があったのは手作り餃子だった。これは日本人女性6人がそれぞれ自慢の手作り餃子を持ち寄りその中で最も美味しかったものを投票で選び、それに改良に改良を重ねて出来たのが今でもTokyo Kitchenで販売されている餃子である。餃子を販売した初日は、私たちが想像していた以上に注文が入り、再びお客さんを長時間待たせることになってしまった。

営業日

 毎週金曜日の営業日には沢山お客さんが来てくれるようになり、特に17時~19時半のキッチンは「忙殺」という表現がピッタリなほど忙しかった。これだけ忙しいなら利益は出ているだろうと思い、毎月会計を行うのだが必要経費を差し引くと、利益がほとんど残らないのが現実だった。今考えると当たり前のことだが週に1回しかオープンしておらず、キッチンも小さいためご飯を作れる量に限りがある。そんな環境で利益を出そうとする方が無理なのだ。そうとは知らずに私たちは売り上げを伸ばすために、低価格でケータリングの注文を受け付けたり、キッチンで日本食付きの日本語レッスンのイベントを行ったりした。それはそれで楽しかったが利益を出すには到底至らなかった。
 ある日家事をしながらいつものようにYoutubeを聞いていると、「社長の役目は利益を出すことである。利益を出せない社長は失格だ。」と一人のYoutuberが言っているのを耳にした。彼の言葉を聞いた私はハッとした。彼の言葉を借りて言うと、今現在利益が出せていない私は社長失格なのである。それは一生懸命仕事に取り組んでいるつもりでいた私にとって頭をハンマーで殴られたような気分だった。そしてエミールがいつも言っていた言葉を思い出した。それは「木曜日もオープンしたら?」ということだった。彼がその言葉を言い出す度に私は子供がまだ小さいからと言い訳をしオープンしてこなかったのである。しかし、今の状況は日本語補習校の仕事も辞め以前よりも時間がある。こんな状況で木曜日をオープンしない理由がなかった。思い立ったが吉日、私は直ぐに優子さんとあーちゃんに「木曜日もオープンしてみるのはどう?」と提案をしてみた。すると2人は「ミノさんが良ければ。」ということで賛成してくれた。
 初めて木曜日をオープンした日、私はそんなにお客さんが来ないだろうと考え、受付けのスタッフ1名と私との2人体制でキッチンを回すことにした。優子さんに「キッチン二人で大丈夫?」と聞かれたが、「大丈夫!大丈夫!木曜日はそんなにお客さんが来ないから~!」と答えた。しかし、そういう日に限ってお客さんがどっと来てしまい、またお客さんを長時間待たせることになってしまった。木曜日も沢山のお客さんが来てくれることがわかり、結局1カ月も経たないうちに、優子さんも木曜日にキッチンに立つことになった。
 

私達のHygge

 デンマークには「hygge」という言葉がある。辞書によると「hygge」とは「居心地の良い空間、楽しい時、リラックス」などを表すと書かれいる。デンマーク人は「hygge」を大切にし、この言葉を好んでよく使う。私達のキッチンがあるXはまさしく「hygge」を具体化した場所だといえる。朝昼は子供を連れた家族や老人達がXの公園や敷地内を散歩し、週末の夜は沢山の若者達がXに集まりそれぞれの「hygge」を楽しんでいる。そんなXで私達も例外なく自分たちの「hygge」を楽しんでいた。私たちの「hygge」は戦場化としたキッチンでスタッフが一丸となり料理を完成させていく時間だった。皆で協力して何かを作り上げていく作業が好きな私にとってこれは最高に幸せな時間だった。しかし、この時間を「hygge」と感じれるようになるまでには、簡単な道のりではなかった。
 
 この頃になるとデンマーク人と日本人の若者を雇い5,6人でキッチンを回すようになっていた。しかし、私たちは、一気に沢山注文が入った時の対処方法を知らずお客さんを長時間待たせてしまうことが度々あった。有難いことに怒るお客さんはほとんどいなかったので、私達は「デンマーク人はなんて心が広いんだろう!」と驚き何度も彼らに感謝した。しかし、毎回お客さんを待たすわけにはいかない。キッチンをクローズした後は、いつもスタッフの皆で賄いを食べながらその日の反省やそれぞれの皆の近況の話しをした。その食卓はまるで大家族のようだった。そのうちスタッフの間でお客さんを待たせてしまった日は、「今日は負け試合だった」待たせずに料理を提供出来た日は「今日は勝ち試合だった」などと話すようになった。
負け試合を繰り返す度に、スタッフ達と色々なアイディアを出し合い私たちはそれらを一つ一つ試していった。その中で最も効果があったアイディアは「15分毎ごとにオーダーを区切る」ことだった。この方法だと、予約注文を優先に作ることが出来、さらに直接注文しに来たお客さんに受け取り時間を正確に伝えることが出来た。また調理する側としても15分ごとに作る個数を把握できるので、効率よく料理を作ることが出来た。また「オーダー表の表記変更」も大きな効果があった。以前はご飯の種類を横並びに表記していたが、それを縦並びの表記に変えたことにより、作らなければならないそれぞれの料理の個数を簡単に数えることが出来るようになった。その他にも様々なアイディアが生まれた。もちろんその中には失敗したアイディアも沢山あったが、様々なアイディアを試していくうちに勝ち試合が多くなっていった。途中でミスが発生し負け試合になっていても、「私たちなら出来る!みんなガンバロー!」と誰かが言うと、負け試合が勝ち試合に変わっていった。試合に勝った後はとても気持ちよく、皆で「成長しちゃったね~!」「私達出来ちゃうのよ~!」と冗談を言ってはお互いに賞賛し合った。
 チームとはとても良いものである。特に様々な年代の人達が混ざったチームではお互いに新しい発見や刺激が沢山生まれる。デンマークの若者達と一緒に働いて気が付いたことは彼らは自分の意見をしっかり述べるということだ。私は一応彼らの上司なのだが、彼らは私にも遠慮なくダメ出しをしてくる。昭和生まれの私は、はじめは自分より何十歳も若い人からダメ出しをされ、正直不快に思ったが、よくよく考えると彼らが言っていたことが合理的で正しいと思うことがよくあった。一方日本人の若者は自分の意見はきちんと持っているが、相手を傷つけないように遠慮がちに述べる。なので、お互い勘違いしたまま話しが終わることがあった。これは国民性の違いだと思うが、デンマーク人のようにしっかり自分の意見を述べられる環境の方が会社や社会のために良いことは間違いない。せっかく日本の若者もきちんと意見を持っているのだから、日本の社会全体(自分も含む)が若者の意見をもっと積極的に聞く姿勢を示す必要があると私は思った。

最愛なる子供たちへ

  先日大雪が降ったのであなた達は大興奮し、普通なら10分で歩いて帰宅出来る道のりをあなた達はわざわざ歩くのが困難な雪山で滑ったり歩いたりするので、帰宅するのに1時間かかりました。帰宅途中、あなた達は「ママ、お腹空いた~!」と言って道端に積もった雪を食べ始めました。ママが「そんなんでお腹いっぱいになるの?」と聞いたらあなた達は声をそろえて「なる~!」と答えたので、ママは大笑いしました。そんなあなた達を見ているだけでママはとっても幸せになります。
 子供は純粋で綺麗な心を持っているので無条件で誰からも愛される存在なのだと思います。
 実は、ママも子供時代はあなた達のように、純粋な心を持っていました。しかし様々な経験を積んで大人になっていくと徐々に純粋な心は失われていきます。子供のような純粋な心を持っている大人もいますが、そんな人は極稀です。多くの大人は純粋さを失っていきますが、その一方で誠実さというものを学んでいきます。仕事、恋愛、好きなこと、嫌いなこと、とにかく何に対しても誠実に向き合っている人は、とても魅力的だし、誰からも愛されます。ママは10代、20代はまだ誠実さの重要さがそんなにわかりませんでしたが、30代になると結構大事、40代になると一番大事なんだと思うようになってきました。さて、あなた達はどのように思うようになるのかな?ママは楽しみにしています。
 



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