中年おばさんの奮闘記 in デンマーク!25

仕事と育児

 4日間の初仕事を終え疲労困憊していた私は、翌日補習校の授業があるので、帰宅後早々寝ることにした。ラッキーなことにエミールと子供たちはこの日も義父の家に泊まってくれていたので、今日はいつものように子供たちの夜泣きで起こされず、朝までぐっすり寝れると思い布団に入った。しかし数時間寝たら目が覚めてしまい、それから寝れなくなってしまった。いつも数時間間隔で子供たちの夜泣きで起こされてしまうので、その睡眠リズムが体に染みついてしまっているのか、それとも、この4日間で初めてのことを沢山経験し、脳と体の興奮が続いて熟睡出来ないのか、原因はわからない。とにかく寝たいのに頭がどんどん冴えてくるのである。仕方がないので私は寝ることを諦めて、かなり早めだが補習校へ行く準備をし、いつものように自転車で出かけた。
 補習校では普段通り授業と教室の掃除を行った。授業している間は、やらなければならないことが沢山あるので、疲労を感じる暇もないほどあっという間に時間は過ぎたが、この日は授業終了後、掃除をしている最中からどっと疲れを感じ始めた。さすがの私も疲れているんだな、これから片道12km自転車をこいで帰宅するのは億劫だなと思ったが、バスを待っている時間を考慮すると自転車で帰った方が早く家に着くことがわかったので、最後の力を振り絞り自転車をこいだ。自転車をこいでいる最中は「人は自転車をこぎながら寝れるのか?」というしょうもない実験をしながら帰宅の途についた。
 帰宅すると、子供たちはまだ帰宅していなかった。私は「ラッキー!帰ってくるまで寝れる!」と思いさっさと寝る支度をし布団に入った。その直後、玄関の扉が開く音と同時に「ママー!」という子供たちの声が聞こえて来た。久しぶりにママに会えた子供たちは大喜び、私も子供たちに会えて嬉しかったが、2時間後に会えた方がもっと嬉しかった。。。とはさすがに言えなかった。
 小さい子供たちの育児をしながら仕事するということは、体力的にも精神的にもなかなか大変なものである。

開店準備

 翌朝、私は子供たちを幼稚園へ送った後「今日こそ二度寝するぞ!」と決意をし、帰宅後、直ぐに布団に潜り込み目を閉じた。しかしどうしてもオープン日のことを考えてしまい、眠ることが出来なかった。出来ないことは仕方ない。私はさっさと寝ることを諦めて、あーちゃんと優子さんとSMSで打ち合わせをしながら、オープン日までに必要なことを準備し始めた。
 3人で色々相談した結果、オープニングデーで作る料理はホットドックと丼ぶりにし、それぞれの中に入れるおかずは「鶏のから揚げ」「BBQ」「とんかつ」「野菜」の4種類を用意し、お客さんに選んでもらうことにした。さらに、ぶっつけ本番は怖いので、オープニングデーの前日に今までお世話になった人達や家族を招待してプレオープンを開催することにした。プレオープンとオープニングデーの買い出しをするために、あーちゃんと優子さんと3人で再び業務スーパーへ行った。食材や飲み物、器、等を購入すると再び5000kr(日本円で約10万円)以上の出費になった。高額出費はこれで2回目なので、前回よりもショックは少なかった。しかし、「こんなにお金を使って大丈夫なのか?もしお客さんが誰も来なくて、お金を回収出来なかったら。。。」と私は再び不安の波に襲われた。
 3人で買い物を終え、Xのキッチンに荷物を運び、オープニングデーに向けて受け付けや料理する場所などを決めていたら、もう幼稚園に子供達を迎えに行かなければならない時間帯になっていた。私達3人は大急ぎでキッチンを出発し、子供たちを迎えにそれぞれの幼稚園へ向かった。
 自分の銀行口座に一体いくらお金が残っているのか気になっていた私は、子供達と帰宅するとすぐに、ネットで自分の銀行口座を確認してみた。すると残高金額はほぼ0に近かった。後にも先にもこの時ほど不安に襲われたことはない。この時の私の気持ちは「何としてでも、出費したお金だけは回収したい!」この一心だった。

プレオープン

 プレオープンの当日、初めて私たちの中で議論が起こった。それは招待客に飲み物も無料であげるのかどうかということだった。「招待するんだから、こういう時は飲み物も無料で提供するのが当たり前!」というあーちゃんの主張に対して、私は「全部無料で提供したら、何も利益が残らない!せめて飲み物だけは個別で購入してもらいたい!」と主張した。銀行口座の残高が0krの私は必死である。結局、最終的には優子さんが「社長のミノさんが言っているんだから、飲み物は個別で買ってもらうことにしよう!」と言ってくれ、飲み物だけはそれぞれ購入してもらうことになった。
 今考えると、飲み物ぐらい無料であげれば良かったのにと思うのだが、お金が無いと心にも余裕がなくなってしまうのは、きっと私だけではないはずだ。

 プレオープンに向けて朝から仕込みや準備をしていたが、あっという間に時間が過ぎ、気が付いたら、事前に募集していたヘルパーの人達が集まり、プレオープン開始の1時間前になっていた。受け付け部門、調理部門、盛り付け部門、ウエイトレス部門にそれぞれ分かれ、各部門のヘルパーにレクチャーをし練習をしたら、もうプレオープンを開始する時間になっていた。
 外には、それぞれの家族とお世話になった人達が来てくれていて、既に行列が出来ていた。いよいよプレオープンの開始である。最初のお客さんは私の家族だった。当時2歳になったばかりの娘はエミールに抱っこされ、4歳の息子は義母と手を繋いで来店した。娘はいつも私を見つけたらすぐに「ママ、だっこー!」と言うのに、普段と様子が異なる私の姿を見て何かを察したのか、エミールが注文し終わるのを抱っこされながら静かに待っていた。息子は静かにじっと私を見つめている。どうやら、小さい子供でもその場の空気は読めるらしい。私は子供達に「バイバイ」と言って手を振ると、受け付けの子から注文票を受け取り、調理場に渡した。さぁ、ここから事前に考えていたシュミレーションの始まりである。受付けで注文作成と会計を行い、作成した注文票を調理場に渡す、調理場では料理を作成し、盛り付け場ではおかずとサラダを器に入れ、出来上がった料理と注文票をウエイトレスに渡す。最初の3,4人のお客さんまでは、この流れ作業が上手く機能していた。しかし注文票が調理場に溜まり始めると、この作業は機能しなくなった。さらに用意していたご飯が早い段階で足りなくなり、極めつけは一番忙しい時間帯に電気のブレーカーが落ちてしまった。現場はもうめちゃくちゃである。自分達が全く予想していなかった重大な問題がいくつも発生し、オープンしてから間もなく、私達は2種類のおかずとパンだけしか提供できなくなってしまった。あまりの出来の悪さに、キッチンをクローズした時、私達はすっかり落ち込んでしまった。それでも、オープン日は明日である。私たち3人はキッチンを掃除をしながら反省と改善策を話し合った。全てを改善するには時間が必要なので、出来る限りのことを改善することにした。まず、お金関係はやはり重要なので、明日のオープン日では計算が得意な私が受け付けを担当することにした。次に、お米がすぐになくなる可能性が出てくることがわかったので、明日あーちゃんがさらにもう1台炊飯器を家から持って来てくれることになった。これで最大15合炊けることになる。さらに大きい電気コンロを同時に2台使うと電気のブレーカーが落ちることがわかったので、明日はBBQの野菜などは先に火を通してなるべく一気に電力を使わないように工夫をすることにした。
 私たちは、何とか無理やり解決策を見つけ出し、夜も遅くなったので帰宅することにした。しかし大きな不安は残ったままである。
 私は、いつものように自転車で帰宅途中、明日のオープン日のことについて考えた。「今日みたいに一気にお客さんが来たらどうしよう!」と不安になっては「大丈夫!先週のイベントでカレーを作った時、誰も来なかったじゃない!」と不安を打ち消し、「誰もお客さんが来なかったらどうしよう!」と不安になっては「大丈夫!Facebookで沢山の人が"良いね!"押してくれてたじゃない!きっとお客さんは来るはず!」と、都合の良い解釈をしながら、一人で必死で不安を打ち消した。
 その夜、帰宅後すぐに布団に入ったが、案の定、不安に襲われてなかなか寝付けない夜を過ごすことになる。

最愛なる子供たちへ

 当時、銀行口座の残高がほぼ0krだったママは、プレオープンでお世話になった人に食べ物を無料で提供することが精一杯で、飲み物を無料であげるという余裕はありませんでした。今思うと「飲み物くらいあげれば良かったな。」と思うのですが、人間とは、自分にお金が無い時、誰かに何かあげたり、優しくすることが難しくなる生き物だと思います。
 もちろん、この世の中には自分にお金がなくても他人のために尽くしている人もいますが、そんな立派な人はこの広い世界の中でも極々僅かな人だけだと思います。
 お金が幸せの全てではありませんが、現実問題として自分も他人も幸せになるためにはお金は必要です。なので、ママはあなた達が大人になった時、自分でお金を稼せぎ、自分も他人も幸せにする自立した大人になって欲しいなと考えています。これは、多くの大人が行っているので簡単そうに見えますが、実際にやってみるとなかなか大変で難しいものです。

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