ゲストハウスにする?バックパッカーにする?(ちょっとした昔話・会社5周年版)
周年の度に(特別企画的に)書いてるこのちょっとした昔話ですが、ちょうど三号店である「Len」の名前が公開になったということで、今回は名前の話を。
http://backpackersjapan.co.jp/kyotohostel/len-kyoto/
会社を創設したちょうど五年前、事業内容を指すために僕たちが使っていた言葉は「バッパー(もしくはバックパッカー)」であった。「ゲストハウス」ではなく。
なぜかというと五年前の当時、「ゲストハウス」という呼び名は低価格で宿泊出来る施設を指す名称として今ほど市民権を得ておらず、一般的な見地からはシェアハウスとよく混同されていた(そしてシェアハウスの認知度もやはり低かった)からだ。
さらにややこしいのが、欧米人からすると「ゲストハウス」というのは安宿を示す言葉としてやや誤った表現であるらしく、英語的に宿機能を表す意味はほとんど無いそうなのである。ゲストハウスが安宿を差すのはアジア圏のみに留まっており、欧米人は同じような施設のことを「ホステル」と言う。
これに加え、創業メンバー四人のうち、バックパックでの旅を経験していたのは代表含め二人でそのどちらもがオーストラリアの滞在が長かったことが理由の一つに挙げられる。
これがなぜ関係してくるかというと、オーストラリア・ニュージーランドではバックパッカーが利用する安宿は「バックパッカー」で広まっているからだ。旅人の方のバックパッカーとどう区別するのかというとそれは純粋に文脈で区別しているらしい。ただし日本人は宿を指す場合に縮めて「バッパー」と呼ぶことも多いらしく表現の棲み分けはできているそうだった。
宿をやろう、というのももともと代表本間の発想に始まっているので、本間君は初めから「バッパーをつくろう」という言い方をしていたし、僕らも当然そういうものなのだろう、とその単語を使って安宿のことを表していた。
さて、その後物件取得に動く前に全国の安宿を渡り歩いた僕と本間君だったが東京に帰って来る頃には同じような施設を差す言葉として最も流通しているのは「ゲストハウス」だろうという風に変わっていた。一般的ではなくとも、少なくとも宿が好きで泊まり歩いている人にとっては。
ちなみに僕らが当時向かう宿の候補を選ぶのに使っていたのが上記、「新・ニッポン放浪宿ガイド250(イーストプレス)」である。放浪宿、としているのがまだゲストハウスという呼び名が浸透していなかった証拠でもあるし、僕らがこの一冊を持って旅をしていたというのもなんだか笑える。たった五年前だというのに、スマートフォンもWiFiも手元になければ、持ち歩きのしやすいパソコンを一人一台なんて発想もなかった(まあお金もなかった)。
しかして、では宿の名前を考えようというときに、さてどうしようということになった。名前に「ゲストハウス」を使うか、「バックパッカー」を使うか、はたまは日本では一番馴染みのない「ホステル」を使うのか、もしくは何も付けないか、ということだ。
確かに日本で一番認識されやすいのは「ゲストハウス」だけど本来の意味はちょっと違うし、かといって「ホステル」というのも雰囲気にも合わないしなんだか語感も良くないし。狙う方向や雰囲気は本間君がオーストラリアで体験して来たもののまま「バックパッカー」だけれどそれはそれで浸透度が低いのかも?などと名前本体を考えるのと同時にずいぶんと頭を悩ませていた気がする。
同時期開業の、長野1166バックパッカーズの飯室さんも「名前問題」は考えたと言っていたし、その頃に開業した人達はみんなどこかしらでちょっと頭を悩ませていたんだろうなあとも思う。
そんな紆余曲折のもと結局は一番分かりやすいように、と「ゲストハウスtoco.」と付けた。が、ブッキングエンジンではtoco. Tokyo Heritage Hostelと言ったりまああまり固いことは言わずに融通を利かせていたと言った方が近いかもしれない(それに最初はSEO効果とコピー要素を含め「東京の古民家改装ゲストハウス toco.」という文言でウェブサイトなどは作成していた)。
さて、それから二年後の僕らはまた頭を悩ますこととなる。二号店は古民家を利用したtoco.とは違って6階建ての倉庫ビル。ここでもtoco.同様ゲストハウスで行くのか、どうかという問題に再び打ち当たったのだ。
本間君はやはり自身が体験したオーストラリアの大型宿を考えると「ゲストハウス」の名はその二号店では合致しないのではと考えていた。しかし「ホステル」に舵を切るのもやはり冒険で、ホステルの名を使った宿は2012年の段階でも数えるぐらいであった。
そして、toco.を利用しながらバックパックを背負った旅人に限らず様々な人に利用してほしいという思いを確信に変えていった僕たちにとって「バックパッカー」という印象も、目指すところから少しずつ離れていってしまっていた。
となると、認知度は低いものの正規表現であるHOSTELを使っていくのがスマートか、というときに考えた苦肉の策が「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」と正式名称の中にBAR LOUNGEと抱き合わせで「HOSTEL」を入れ込む案である。それでもおそらくはゲストハウスと呼ばれるだろうということも享受し、「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」というゲストハウス、と認識される可能性を計画的に肯定した。
名前の力は大きくて、それでもやはり、「HOSTEL…?」というちょっとした違和感は、少し違う宿だということを印象づけることに役立ったし、この試みはきっと、誰も知らないところで密やかに、そこそこ上手く行ったのだと思う。
それから二年と半年、今回の京都店では名称を「Len」だけにまとめた。もちろん必要に応じて所在地である「京都河原町」を加えたり「HOSTEL」「BAR」などの業態を説明的に加えるかもしれないが。ゲストハウスでも、ホステルでも、カフェでもバーでも、ごはんを食べるところでもなんでもよくて、その全てがLenだという風にしたかったからだ。
その代わりロゴには最後にHostel, Cafe, Bar, Diningと四つの機能を併記した。toco.を経て、HOSTELとBARで始まったNui.から、今はカフェとキッチンを含めたそれぞれの分野が、独立するぐらいに宿の魅力を占有していると思ったからだ。
さて、本日2月12日は人知れず会社の創立記念日。Backpackers' Japanという会社が生まれて早5年だ。実は社名が決まるまでも複数案あった。蒔宿、Roji、Trip Box Senseなどなど。
「いいやん、トリップボックスセンス。しかも、すげえことに気づいてしまった、略したら『TBS』になる。やべえ。バックパッカーズジャパンは、だせえ」
などとも言っていた。もちろん彼の発言である。
そんな風についた名前も、不思議なものですっかり定着してしまった。名前というのは、呼称を表すだけでなくもっともっと大事な意味があることを実感する。
長くなりましたが、会社名ももしかしたらこの先変わることかもあるかもしれませんが、どうぞ変わらぬご愛顧を。6年目も引き続きよろしくお願いいたします。
(写真は物件探しがはじまったぐらいの石崎と本間。2010年春)
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