週刊タカギ #21

こんばんは。高城顔面です。
ハンバーグ屋でこのパートを書いています。ヴィクトリアステーションはサラダバーがあるのがいい。


きょうは5/24(金)。一首評を掲載します。

県立の入学式に満開の県民税で育った桜


鈴木ジェロニモ『晴れていたら絶景』(私家版,2023)

突然だが、わたしはお笑い番組が好きである。それもドッキリ系のバラエティ番組や、「平場」とも言われるトーク中心の番組よりも、純粋にネタを楽しめる番組が好きだ。

好きな漫才師はその時々で異なるが、常に好きなコント師は、シュールなネタを得意とするコンビのラバーガールだ。近年では時事ネタを即コントにしてみたり、超ショート尺のコント動画に挑戦したりと、結成23年を越えてなお、精力的に活動を行っている。

そしてもうひとつ、忘れてはいけないのはピン芸人。最近のトピックでいうと、ピン芸の日本一を決める「R-1グランプリ2024」では、芸歴20年目の漫談師・街裏ぴんくが悲願の優勝を果たし、独自の「イマジナリー漫談」がついに世間に受け入れられた。そのほかにも、大会史上初、アマチュアプレイヤーとして決勝進出した会社員、どくさいスイッチ企画と、普段はトリオで活動している、トンツカタン・お抹茶も、それぞれ独創的なネタで印象を残すなど、見どころの多い大会であった。

しかしながら、この「週刊タカギ」は、いちおう、短歌関連の文章を掲載する場である。
前置きはこのくらいにして、今回は芸人としての活動を行いながら短歌を詠む、ピン芸人・鈴木ジェロニモについて取り上げたい。

鈴木ジェロニモは、1994年栃木県生まれのピン芸人。ボイスパーカッションとフリップを用いた独自の「空耳ボイパ」を主な芸風としているが、自身のYouTubeチャンネルでの「説明する」という、食べ物や飲み物の味、物の質感などについて、即興に近い形で所感を述べ続けるという動画コンテンツも人気を博しており、明治製菓の製品とのコラボ動画も存在する。



そんな鈴木が「趣味」として挙げているのが短歌だ。それも並大抵のレベルではない。所属事務所のプロフィールに記載されている、これまでの選考記録によれば、「第4回・第5回笹井宏之賞最終選考。第65回短歌研究新人賞最終選考。第1回粘菌歌会賞受賞。」とある。短歌賞の最終選考に三回残るピン芸人……。これは前代未聞の人物といえるのではないだろうか。

そんな中、私家版(企画制作は、親交の深い歌人・井口可奈が主宰する「芸人短歌」)のミニ歌集として2023年に発売されたのが『晴れていたら絶景』である。さっそく収録歌を見ていこう。

海老天がはみ出している印象を強めるために乗せられたふた
そのような形の岩にそのような名前をつけた観光名所
ごみ箱からごみ袋ごと引き抜いてごみ箱の形状の燃えるごみ


比較的、淡々とした印象の歌を引いた。どの歌にも、確かにそんなものごとってあるよな、という感覚を覚えさせられる、要点を過不足なく押さえているような感覚がある。特に二首目、わたしの住む北海道の知床(出身地・居住地から遠くてまだ行けたことがない)にも、ゴジラの形に見える「ゴジラ岩」と呼ばれる岩があることを思い出した。(調べてみると全国に3カ所同じ名前の岩があってビックリした。)だがしかし、この淡々とした調子が、先述の動画の中で、毅然としたポーカーフェイスでネタを進めていく、芸人・鈴木ジェロニモの姿とも少しリンクしているようにも感じさせられてしまうのだ。

一方で、このような歌も収められている。

味ぽんのCMだから味ぽんを死ぬほどかけて笑って食べる
県立の入学式に満開の県民税で育った桜
オーライがオライオライのエネオスでヨライヨライと叫ぶ新人


どの歌も、第三者視点からの「発見」を感じさせられる歌だ。食品のCMはある程度の誇張を感じさせられる表現がよく見られるし、県立の学校の入学式の時に咲いている桜も、植栽や整備は県民の税金で賄われていることだろう。「オーライがオライオライのエネオス」の中での「ヨライヨライ」は、発語している本人(新人)はおそらくそこまで意識はしておらず、これも主体の「発見」から成り立っている。その観察眼の巧みさ。そして、これらの思考の流れ方が非常にフラットな感覚を感じさせられるのだ。先行する歌人としては、初期の斉藤斎藤や永井祐の中間のようなフィーリングを個人的に感じている。

全67頁(あとがき含む)のミニ歌集なので、歌の引用はこのあたりで抑えるが、そのほかの歌でも、ストレートな直喩の巧みさが光る歌が多く、短歌にあまり親しみのない読者にとっても親しみやすい歌が多いのではないか、という印象を覚えたし、あとがきのお笑いと短歌の表現の違いに対する鈴木の姿勢も、現象の言語化として優れている文章で、なるほど、と思いながら読むことができた。

近い将来、彼の短歌はより多くの読者を掴むのではないか、そんな萌芽を感じさせられるような一冊だ。芸人としても、歌人としても、まだまだ発展途上にある鈴木ジェロニモに、今後とも注目していきたい。


次回更新は、5/31(金)。短歌を掲載予定です。





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