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自動車・航空機用バイオ燃料データブック 1バイオエタノール、2ETBE編

ーーーーーーーーーーーーはじめにーーーーーーーーーーーー

近年、大気中の温室効果ガスの濃度は確実に増加しており、これによって世界の気候変動が深刻化している。その対策としてCO2のような温室効果ガスの排出削減が求められている。

温室効果ガス削減方法のひとつとして、バイオ燃料の活用が挙げられる。バイオ燃料はいわゆるカーボンニュートラルな燃料として、燃やしても空気中の温室効果ガスを増やさない効果がある。

我が国においても、京都議定書締結が発効した2005年頃から、一時期バイオ燃料への関心が非常に高まった時期があったが、その後、その関心は急速に低下していった。
一方、海外においてはバイオ燃料の導入が着々と進んでいる。米国、ブラジル、欧州といったバイオ燃料先進国のみならず、中国、インド、東南アジアといった中進国、開発途上国においても着実に生産量が増えつつある。

我が国政府も昨年、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標を掲げるに至ったことから、再びバイオ燃料についての導入機運が高まることが予想される。

筆者は20年ほど前から自動車や航空機に用いられるバイオ燃料についての調査を行ってきた。従来から収集してきた自動車用・航空機用バイオ燃料についての知識、データをここに取りまとめて、公表したいと思う。
バイオ燃料に携わる方にとって、この書物が少しでも役に立つことができれば幸いである。

2021年4月21日

ーーーーーーーーーーーー目次ーーーーーーーーーーーー
(バイオエタノール、ETBE編)

Ⅰ.バイオエタノール(44ページ)

1.バイオエタノールの物性と品質
(1)バイオエタノールの一般的物性
(2)バイオエタノールの種類と品質 
(3)適用法令 
2 バイオエタノールの製造 
2.1 バイオエタノール生成反応 
(1)デンプン原料の場合 
(2)糖原料の場合 
2.2 穀類からのバイオエタノール製造方法 
(1)乾式法エタノール製造プロセス 
(2)湿式法エタノール製造プロセス 
2.3 糖からのエタノール製造プロセス 
2.4 バイオエタノール濃縮技術 
(1)濃縮の目的 
(2)脱水の必要性 
(3)脱水方法 
3 バイオエタノールの自動車、航空機燃料としての使用 
3.1 バイオエタノールとガソリンの違い 
3.2 バイオエタノールをガソリンに混合した場合の性状 
(1)オクタン価 
(2)蒸発特性の変化 
(3)蒸気圧 
(4)相分離 
(5)燃料消費量の増加 
(6)材料への問題 
(7)防災対策 
3.3 性状変化への対策 
(1)蒸気圧対策 
(2)水分混入対策 
(3)燃費対策 
(4)腐食・膨潤対策 
3.4 バイオエタノール混合ガソリンの品質 
(1)バイオエタノール混合ガソリンの規格 
(2)自動車側の制約 
3.5 バイオエタノールの航空機への利用 
4 バイオエタノールの生産と貿易 
4.1 世界のバイオエタノール生産 
4.2 米国のバイオエタノール生産 
(1)バイオエタノール生産地と生産能力 
(2)米国のバイオエタノール輸出入 
4.3 ブラジルのバイオエタノール生産と貿易 
4.4 日本のバイオエタノール生産と貿易 
4.5 バイオエタノールの価格 
(1)バイオエタノールの市況価格に与える要因 
(2)バイオエタノール価格の推移 
(3)バイオエタノールとガソリンの価格差 
5.バイオエタノールの輸送と小売 
5.1 鉄道輸送 
5.2 パイプライン輸送 
5.3 トラック輸送 
5.4 タンクローリー輸送 
5.5 バイオエタノール混合ガソリンの小売 
引用文献 

Ⅱ.ETBE (11ページ)
1 ETBEとは 
2. ETBEの特性 
(1)物性 
(2)ETBEの混合・流通上の特性 
(3)ETBEのCO2排出抑制効果 
(4)ETBEの酸化安定性 
(5)ETBEの毒性評価 
3.ETBEのガソリンへの添加 
3.1 ガソリンへの添加 
(1)ETBE混合ガソリン製造方法 
(2)ガソリンへの添加量 
3.2 日本におけるETBEの使用 
(1)導入までの議論 
(2)ガソリンへの混合量 
3.3 海外でのETBE使用状況 
(1)概要 
(2)ETBEの生産状況 
4. ETBEの製造 
4.1 ETBEの原料 
4.2 ETBEの製造 
(1)ETBE生成反応 
(2)ETBE製造時の副反応 
(3)ETBE製造装置の概要 
(4)MTBE製造装置の改造 
(5)ETBE製造装置のライセンサー 
4.3 わが国におけるETBEの製造と輸入 
(1)我が国におけるETBEの製造 
(2)我が国におけるETBEの輸入 
引用文献 

別紙ー1 自動車混合用バイオエタノールの品質規格 
別紙―2 自動車ガソリンのJIS規格 

ーーーーーーーーーーーー本文ーーーーーーーーーーーー

Ⅰ.バイオエタノール
1.バイオエタノールの物性と品質
(1)バイオエタノールの一般的物性
バイオエタノールは常温・常圧で無色透明、水によく溶け、揮発性で、引火性があり、芳香をもつ液体の有機化合物である。エチルアルコール(ethyl alcohol)、酒精ともいわれる。
一般的な物性は以下のとおりである。

分子式   C2H5OH
分子量 46.07
融点 -114.5℃
沸点 78.32℃
引火点 13℃
発火点 439℃
爆発限界 下限:3.3容量% 上限:19.0容量%(空気中)
蒸気圧 5.878kPa(20℃)
蒸気密度 1.59
密度 0.78493g/㎝3(25℃)

エタノールには生物起源の原料を用いて製造されたものとナフサや天然ガスを原料として製造されたものがあり、前者をバイオエタノール、後者を合成エタノールとよんで区別することがある。
バイオエタノールと合成エタノールはその物理的、化学的な性質は違いがなく、通常の化学分析では区別することができない。なお、本書では主にバイオエタノールについて述べる。

(2)バイオエタノールの種類と品質
バイオエタノールには水分5%程度を含む含水エタノール(エタノール純度99.5%以上)と、ほとんど含まない無水エタノール(エタノール純度99.95%以上)がある。
また、工業用、燃料用として製造されたバイオエタノールが飲用としての転用されることを防止するため少量のメタノールやガソリンなどが添加されることがあり、これを変性エタノールと称している。
燃料用として自動車ガソリンに混合するバイオエタノールの品質については、2011年に制定されたJIS(日本工業規格)K2190:2011(燃料用エタノール)に、アルコール分(99.5vol%以上)、メタノール(4.0g/ℓ以下)、水分(0.70質量分率以下)などが定められている。

(3)適用法令
バイオエタノールは日本においては以下の法令が適用される。

消防法 第2条 別表第1 危険物第4類 引火性液体 アルコール類
アルコール事業法 第2条 アルコール分が90度以上のアルコール
労働安全衛生法 施行令 別表第1 危険物 引火性の物
施行令 別表第9 名称を通知すべき危険物及び有害物61

2 バイオエタノールの製造

2.1 バイオエタノール生成反応
通常、バイオエタノールは原料として、穀物から得られるデンプンや糖を用い、アルコール発酵によって製造される。この方法は酒類の製造方法と基本的に同じである。人類は古代から同様の方法でバイオエタノールを製造して、主に飲用としてきた。

(1)デンプン原料の場合
バイオエタノールの原料として穀物を使う場合は、原料穀物に含まれるデンプンが抽出されて用いられる。デンプンは図―1.1に示すように、炭素原子5個と酸素原子1個からなる六員環モノマーがグルコキシド結合で多数結合した化学構造を持っている。

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デンプンを加水分解すると重合度が小さくなり、重合度10以上のデキストリンを経て、モノマーが2個結合したマルトース(麦芽糖)(図―1.2)となる。さらに、マルトースが加水分解すると六員環モノマー1個だけのグルコース(ブドウ糖)(図―1.3)となる。

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この加水分解は酸や酵素を添加することによって起こすことができる。デンプンにアミラーゼ酵素を加えるとマルトースまで分解され、さらにマルターゼ酵素によってグルコースまで分解される 

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さらにグルコースは酵母(Saccharomyces cerevisia)が産生するチマーゼ酵素によってエタノールと二酸化炭素が生成する。(図―1.4)

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(2)糖原料の場合
サトウキビやテンサイを原料とした場合は、デンプンではなく、これらの作物に含まれるスクロース(ショ糖)(図―1.5)が原料となる。

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スクロースは希硫酸またはスクラーゼ酵素によってグルコースとフルクトースの混合物(転化糖)に分解される。
グルコースとフルクトースは、どちらも酵母によってエタノールと二酸化炭素に転換される。

2.2 穀類からのバイオエタノール製造方法
トウモロコシのような穀物からバイオエタノールを製造する方法には、穀物の処理方法によって湿式法(ウェットミル)と乾式法(ドライミル)がある。米国においては、従来は湿式法が主であったが、最近では設備建設コストの安い乾式法が選択されるようになっている。2021年現在、米国のエタノールの90%以上が乾式法で生産されている。

(1)乾式法エタノール製造プロセス
乾式法は、まずトウモロコシを粉砕してミールと呼ばれる粉末にし、これに水を加えてマッシュと呼ばれるスラリー状とする。このマッシュに含まれるデンプンは酵素によってグルコースに転換される。これにpH調整および酵母の栄養源としてアンモニアが添加される。
このあと高温で殺菌処理がなされ、そのあとで酵母を添加して発酵させ、糖がエタノールと二酸化炭素に転換される。発酵には40~50時間必要であるが、この間に発酵熱によって温度が上昇してくるので、攪拌、冷却が行われる。発酵が完了した液体はビールと呼ばれる。ビールは蒸留塔で蒸留されて、エタノールが取り出される。このエタノールは含水エタノールであり、純度が95%程度であるため、さらにPSA法等によって脱水されて、純度がほぼ100%の無水エタノールになる。図―1.6に乾式法エタノール製造プロセスのフローを示す。

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図―1.6 乾式法エタノール製造プロセス*0001

蒸留塔でエタノールが分離されたあとの残渣分は遠心分離機を使って油分と固形分が分離され、溶液は煮詰めて濃縮されシロップとなる。固形分とシロップは混合されて、DDGS(Dried Distiller’s Grains with Solubles)とよばれるものとなる。DDGSは栄養価が高く、家畜の飼料として使用される。
一般的に、トウモロコシ 1ブッシェル(約 25.4kg)からエタノールが約 2.8 ガロン(約 11 リットル)、DDGS が 18 ポンド(約8.2kg)、そして二酸化炭素が18ポンド(約8.2kg)生成する。*0002


(2)湿式法エタノール製造プロセス
湿式法では、まず原料トウモロコシの中の不要部分を除去するために24~48時間二硫化炭素水溶液に浸漬される。これによってトウモロコシはスラリー状となる。これを粉砕、遠心分離機、ろ過及び油圧分離機を用いて胚芽、ファイバー(繊維)、グルテン分(たんぱく質)及びデンプンに分離される。
分離された胚からはコーンオイルが抽出され、遠心分離によって分離された液体は蒸発濃縮、乾燥されて、飼料用原料として販売される。グルテン分はろ過されたあと乾燥されて養鶏用飼料の原料となる。

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