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【短編小説】after TwentyTwenty

 隣の部屋からテレビの音が聞こえなくなった。ふと気づいたとき、まさか死んでるんじゃないだろうな、と思ったが数分後にトイレを流す音が聞こえた。生きていると分かれば関心はなくなった。  エアコンがないアパートは窓を全開にしないと夏をやりすごせない。それはお隣さんも同じだった。去年は強い雨のように鳴り響く蝉の声に重なって、お隣さんの部屋からはオリンピック中継が流れてきた。普通なら苦情ものの大音量だったが、文句を言わない代わりに思う存分中継を聴いた。その時期はそれが、俺にとって休日の

    • 【短編小説】記憶の約束

      【筆者注】この作品には暴力的な描写があります。苦手な人は読まないでください(このコメントは作品に含まれません)。  大学進学のために東京へ出てきて驚いたことは、住宅街に隙間なく民家が建てられていることだった。こんなに密集していてうるさくないのだろうかと思ったが、気になることなどたいしてなかった。むしろ、田舎の夜の静けさや、集落の住人の見張りあいにも似たつながりのほうがうるさかった。  わたしの実家は北日本の田舎町にあった。父は政令指定都市にある中小企業に勤める会社員で毎日片

      • 【短編小説】青い空

         どんな天気のときでも、どんな時間でも、その窓から見る空は青く見え、青ではない空が見える。そんな窓を作ったという話を、卒業生のオオカワから聞いた。  築五十年は越えるサークル棟の二階の隅にある、物置のようにさまざまなものがつめこまれた小さな部屋の奥を、当時の自分は寝床としていた。何年も前の学際で使った看板、バスケットボール、トランポリンの鉄枠、かどが欠けた将棋盤、スキー板、錆びた釣竿、そんなものを壁際におしのけてスペースを作り、誰かが卒業式のあとに遺棄していったマットレスを敷

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