北海道200年戦略の視点 1/3 ~戦略検討の3つの視点~北海道再生50年に向けて~

北海道の150年

北海道と命名されてから今年で150年。のちに「北海道の名付け親」といわれる希代の探検家、松浦武四郎が蝦夷地に代わる名称を「北加伊道」と提案し、明治維新政府が「北海道」と命名してから150年が経ちました。北海道がこの150年で得たものは何か。次の50年、北海道200年に向けて北海道の未来をどう切り拓いていくのか。

北海道は今、全国を上回るペースで人口減少、少子高齢化が進展しています。また、札幌一極集中と地域過疎の進行、地方財政の逼迫といった課題にも直面しています。これまで経験したことのないような社会変動の大きなうねりが押し寄せてきているのです。何もしなければ、北海道はその大きなうねりに飲み込まれてしまいます。私は生粋の道産子です。北海道がこれからも発展し、北海道に住んでいることを国内外の方々に誇れる、そうした北海道をつくっていきたいと思っています。50年先を見据えて北海道再生のシナリオを描くのがこの本の目的です。北海道が希望の持てる故郷になってほしいのです。

北海道はこの150年で何を得たのか、北海道は今どこにいるのか、北海道を取り巻く現状を認識するためには、北海道開発がどのような歴史を辿ってきたのか振り返ってみる必要があります。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉があるように、これからの北海道の未来を考える上でも、北海道開発の歴史を知っておく必要はあるでしょう。

北海道開発の原点は、明治政府以来の政策の歴史に遡らなければなりません。明治維新の翌年である1869(明治2)年に明治新政府により開拓使が置かれ、北辺の防衛とそのための移民の推進、士族の救済を目的に開拓が進められました。その後、明治19年に国の直属の官庁として北海道庁が設置され、移民のためのインフラ整備が進められ、明治33年には私も勤務していた北海道拓殖銀行が北海道開拓を金融面から支える目的で設置されました。戦後、北海道は再び大きくクローズアップされ、食糧と資源の供給地として、また人口や産業の適正配置先としての役割を果たしてきました。

まさに、明治政府以来、国策として北海道の開発が進められてきたのです。戦後の国による北海道開発の特徴あるいは仕組みについて振り返ってみましょう。

第1の特徴は、開発の根拠となる法律として、「北海道開発法」が存在することです。もともと太政官直属の「開拓使」を設置して始まった北海道の開拓は、国が直接所管して進めてきたもので、戦後も国による北海道開発が継続されてきました。この法律の目的は、その第二条にあるとおり、「国民経済の復興及び人口問題の解決に寄与するため」に、北海道の豊かな資源を活用して、その時々の国の課題に応えることなのです。終戦から高度成長時代に入るまでの間は、特に食料増産、資源の開発、人口吸収が期待されていました。

第2の特徴は、同じく第二条に「北海道総合開発計画を樹立し」と定めてあるとおり、10年ごとに中期計画「北海道総合開発計画」を定め、計画的かつ総合的に事業を推進していることです。計画を策定し、これに基づく事業を実施していく上で、予算、権限、組織に関して北海道だけに適用される特別な仕組みが用意されています。

第3の特徴として、総合開発に関する予算は、「北海道開発予算」として、各府省庁にまたがる事業についても開発計画を推進できるよう政策調整の上、「一括計上」して国会に提出されることです。この「一括計上方式」は、北海道開発に関わる事業全体の把握や進度調整に役立っています。

第4の特徴は、いわゆる「北海道特例」なるものが存在することです。社会基盤整備などについては、通常国と地方の負担割合が定められていますが、北海道においては、過去100%国費だったこともあり、現在でも最大10数%国の負担割合が嵩上げされています。また、事業の所掌範囲についても、指定河川の改修や開発道路の改築など通常都府県が行っている権限を北海道においては国が行っています。

最後に第5の特徴として、計画策定と調整を担当する組織として中央に「北海道局」が、事業を実施する組織として現場である北海道に「北海道開発局」がそれぞれ設置されており、計画に基づく各事業を効率的、効果的に推進できる体制が整備されていることです。以上のような特徴あるいは仕組みの下、戦後の国による北海道開発が進められてきたのです。

「北海道開発法」に基づく北海道の開発が、社会基盤整備など戦後の北海道の発展に寄与してきたことは疑いのない事実です。

一方で、「もはや戦後ではない」といわれた昭和31年以降、高度成長時代に突入した頃から、資源や食料の供給地としての北海道開発と、高度成長時代に求められた工業化を中心とした経済体制との間で軋轢が生じてきた点も見逃すことはできません。高度成長期以降、結果として、北海道は資源供給基地としての役割を失うとともに、工業化へも乗り遅れてしまったのではないでしょうか。

北海道と命名されてから150年を迎えた今日においても、首都機能のバックアップ構想を含め、北海道の豊かな資源や広大な国土を活かして我が国が直面する課題の解決に貢献するという北海道開発の意義は失われていません。一方で、これからの50年間が「北海道の時代」となるためには、戦後まもなく制定された北海道開発法の理念を乗り越えて、自主、自立の精神を持って新たな発想で北海道の未来を切り拓いていく必要があります。北海道に内在する国内外と競争していくことのできる、あるいは優位性を持っている条件を探り求め、その萌芽を見いだしつつ、北海道再生の方策を考えていく必要があるのです。

戦略検討の3つの視点~北海道再生50年に向けて

北海道を取り巻く現状を認識した上で、北海道をもっと住みよい、そして世界に誇れる地域にしていくため、課題を克服する方策をなんとしても見つけ出したい。こうした問題意識のもと、本論に入る前に、どのような視点で次の50年を見据えた戦略を描いたかについて触れておきたいと思います。

第1の視点は、北海道の地域資源への着目です。特に、他都府県や海外との比較において、優位性を持っている、あるいは独創性のある地域資源は何なのかという視点です。もう一歩踏み込んでいえば、工夫やアイデア次第で価値を感じてもらえるように仕立て直すことのできる地域資源は何なのかということです。私は政治の道を志す前、一時期リスク・コンサルタントとして活動していましたが、どのような案件においても、リスクの洗い出し・評価がスタート地点であり、現状把握が一番大切なのです。

第2の視点は、地域資源の活用度です。優位性や独創性のある地域資源が十分に活用され、高い付加価値を生み出しているのか、価値を感じてもらっているのかという視点です。活用されずに埋もれているならば、その理由は何なのかもしっかりと究明しておく必要があります。さらに地域資源との関わりで、北海道においてこれから戦略的に育てていくべき産業についても考えていかなければなりません。

第3の視点は、そうした産業を戦略的に成長させていくうえでの課題は何なのかという視点です。この時、道民の意識が一つの大きな鍵になると思います。国内外のマーケットを意識した事業展開ができているのか、北海道の魅力を感じたい人にわかりやすい形で発信されているのか、行政や大学等を含めた各機関との協働、連携体制がしっかりと構築されているのか、交通体系や物流、エネルギーなどの各種インフラが整備されているのか、こうした課題が考えられます。

また、課題を克服し、成長産業として軌道に乗せていくためには国や自治体として、どのような施策に取り組んでいくべきかということも問われています。以上3つの視点で、これからの50年を見据えて、北海道200年の戦略を考えていきたいと思います。

ここで、第3の視点で触れた交通や物流などのインフラについて若干補足しておきます。民主党政権時、「コンクリートから人へ」というスローガンが叫ばれましたが、私は北海道の持続的発展にとって「コンクリートも人も」大事であるといいたいのです。北海道は一国に匹敵する能力がある地域です。面積は8万3456㎡で国土の22%を占めています。四国4県、九州7県、それに沖縄を加えた12県を合わせた面積の1・3倍もあるのです。世界
ではオランダの約2倍、オーストリアに匹敵します。また人口は540万人とデンマークやフィンランドと同じくらいです。さらには、経済でも北海道の域内総生産は約18兆円とアイルランドやポルトガルの国内総生産(GDP)と同程度です。天然資源も豊富で、耕地面積は国内の4分の1を占め、農業産出額では圧倒的な1位です。

こうした一国に匹敵する潜在力を持っている北海道ですが、国土面積の22%を占め、豊かな自然環境に恵まれている大地である反面、広域性、低密度性という課題が存在します。昨今話題になっているJR北海道の路線維持問題もそうですが、この広域性、低密度性をどう支えていくのかが北海道にとって最も重要な課題です。これらを克服し、生活圏を維持し、持続的発展を目指していく場合、社会資本の充実は避けて通れない最優先事項です。社会資本の充実によって生活の豊かさを実感できる地域を作っていかなければならないのです。国が現在基礎的財政収支の黒字化を目指し、債務の対GDP比の縮小を目標に掲げている中で、社会資本の充実に充てられる予算は限られています。

限られた予算の中で社会資本整備の効果を最大限発揮するためには、既存社会基盤の有効活用を図っていくことが必要です。社会資本の整備効果は、既存の社会資本を部分的に改修、改善することでより大きな効果を生みだすことができるのです。また、そうすることで、従来とは異なった新たな価値も生み出すことができ、住民のさらなる生活改善や利便性の向上につながっていきます。

北海道のソフト・パワーは北海道の宝です。これをさらに掘り下げていくことが、北海道200年戦略の柱の一つでありますが、それを支えるハード整備、社会基盤整備と相俟って、大きな相乗効果が期待できるのです。