見出し画像

北海道をモータースポーツのメッカに!

モータースポーツのメッカに

さて、ドライブ観光の振興については、北海道開発局の社会実験で示されたように、道路や標識の整備などはもちろん大切な取り組みとして積極的に進めていかなければなりませんが、私はそうした取り組みに加えて、北海道からドライブを楽しむ文化を世界に発信していくような取り組みも必要と考えています。

北海道にアジアのニュルブルクリンクサーキットをつくってみてはどうでしょうか。ニュルブルクリンクサーキットはドイツ南西部にある自動車競技専用コースで、世界中のメーカーから自動車の開発拠点として利用されています。特に北コースは全長20・83㎞もの長さの中に、300mの高低差、大小172ものコーナーがあり、さまざまな走行条件で車両の限界性能を試すことができます。今やニュルブルクリンクは単なるサーキットであることを超え、ここで実証試験が行われたことが車のブランドとなっています。こうした長大なサーキットを設けることのできる場所は日本では北海道をおいてほかに考えられません。

道内には多数のテストコースがありますが、そこではできないテストができる環境としてメーカーに貸し出すと共に、世界的なモータースポーツイベントを開催する、という構想です。

ニュルブルクリンクに匹敵するサーキットの建設には多大な費用と時間がかかりますが、北海道で国際的なモータースポーツイベントを開催することは今すぐにもできることです。

自動車産業はモータースポーツとともに成長してきました。平成22年まで北海道で開かれていた世界ラリー選手権(WRC)を復活させたいと思うのは私だけでしょうか。自動車競技にはF1などクローズドサーキットで行われるロードレースと、公道を利用して行うラリーに分けられます。サーキットレースの最高峰がF1であるように、ラリーの最高峰である「世界ラリー選手権(WRC)」は、世界的にF1と並ぶ高い人気を誇ります。日本のメーカーも古くから参戦しており、1990年代にはスバル、三菱、トヨタといったメーカーがWRCを席巻しました。

世界的な人気を誇りながら日本を舞台にWRCが開催されたのは平成16年~平成22年の7年間しかありません。ラリーは公道を利用して行うため、日本の交通環境ではラリーを受け入れることが難しかったからです(2019年に中部地方でWRC開催を目指す招致活動が行われていますが、本書執筆時点では確定していません)。

長いこと日本でラリーを開催するのは難しいと考えられていましたが、これに風穴を開け、WRC国内開催の道筋を付けたのが十勝地方の自動車愛好者の皆さんです。欧米のようなラリーを実現したいと関係者を説き伏せて昭和55年に陸別町津幡牧場内に特設コースを設け、「オフロードレース大会in陸別」を開催しました。手づくりの4輪バギーや4輪バイクを持ち込んで行うオフロードレースで、昭和61年には恒久的な陸別サーキットがつくられ、大会はここを舞台に毎年継続的に開かれるようになりました。欧米では盛んに行われている種類のレースですが、日本では初めてであり、全国の愛好者から注目を集めています。そしてこのエリアを訪れた専門家から日本では不可能と思われていたWRCのステージレースが実施できる可能性が指摘され、WRC開催誘致活動が始まりました(北海道新聞2017・7・9)。

画像1アジアパシフィックラリー選手権(APRC)として十勝で行われている「ラリー北海道」ポスター

平成14年、日本で初めてのFIA(国際自動車連盟)公認の国際ラリーイベント「ラリー北海道」が実現し、これを土台に平成16年、日本で初めてのWRC公式戦として「ラリー・ジャパン」が開催されました。「ラリー・ジャパン」はWRCの中でも人気の高いニュージーランドのロケーションによく似ているとして高い評価を得ました。

WRC「ラリー・ジャパン」は平成16年から平成19年までは十勝地域で行われましたが、平成20年から会場を道央地域に移しました。地元のスポンサー、宿泊を含めた受け入れキャパシティーが足りないことなどが理由でした。道央圏に会場を移し、札幌ドームでスペシャルステージを開催するなど大きな盛り上がりを見せましたが、WRCからの日本メーカーの撤退も重なり、平成22年を最後に行われていません。道民が一致団結して盛り上げていくことができていれば、現在も続いていただろうと思うと残念です。

WRCはクローズドサーキットで行われるF1と並んで自動車競技の双璧であり、世界的に高い人気を誇ります。これを継続的に行うことで、世界中の自動車愛好家の関心を集めることができます。

WRCは伝統のある自動車レースですが、新しいカテゴリーのレースを北海道から発信するのも刺激的な取り組みではないでしょうか。今、電気自動車の勃興期です。電気自動車の公道を使ったレースを新たに企画するというのも一案です。

オホーツク地域は国内でも有数の日照率を誇ることから、北見工業大学では古くから太陽光エネルギーの研究が行われていました。ソーラーエネルギーの実用性をアピールするため、平成3年、太陽光をエネルギー源とした電気自動車であるソーラーカーの公道を使ったレースである「ソーラーカーチャレンジIN北海道」が始まりました。これが日本で最初の一般公道を使ったソーラーカーイベントです。このレースは平成5年に2回目が行われましたが、3回目を予定していた平成7年、警察が公道の使用を許可せずに中止となりました。平成9年に防災対策の一環として整備された常呂川河川敷の管理道路の使用を平時の多目的利用ということで許可されて再開されましたが、財政難によって平成15年を最後に中止となっています。電気自動車の開発が世界的なテーマになっている今、北見市のソーラーカーレースを継続できなかったこともまた大変残念なことです。

北海道では平成28年6月に「北海道自動車安全技術検討会議」を設置し、自動運転の実証試験誘致などの取り組みを始めました。その具体的な一歩として、警察庁の「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」に則って、道内で公道実証試験を行う際の関係機関への連絡調整のための「ワンストップ窓口」を設けました。

北海道は積雪地帯での自動運転のテストに最適であることをアピールしていますが、積雪地帯を含めると技術開発のハードルが著しく高くなるため、世界的には積雪地帯を除いてできるところから実用化を急ごうという機運が広がっています。そうなると北海道のアピールポイントは逆に大きな足枷になってしまいます。

技術者やメーカーの方々に「来てください」と頭を下げ続けるのは、それこそ昭和時代の誘致の発想です。自動車メーカーに陳情を繰り返して、ひたすら来てくれるよう頼むのではなく、この北海道というフィールドを最大限に活用し、世界中の自動車技術者が「北海道に行ってみたい」「北海道でやってみたい」と思わせる魅力をつくっていくことこそが必要なのではないでしょうか。まさにコンテンツ指向によるソフト・パワーを発揮すべきときです。