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21 世紀型の道路交通を北海道から発信!

平成17年、北海道は全国に先んじて「シーニックバイウェイ」制度を打ち出しました。シーニックバイウェイは「地域に暮らす人が主体となり、企業や行政と手をつなぎ、個性的で活力ある地域づくり、景観づくり、魅力ある観光空間づくりを目指す取り組み」です。道路そのものを地域振興の資源に位置づけた日本で初めての取り組みで、平成29年11月末現在13 の指定ルート、一つの候補ルートがあり、約400団体が活動をしています。この「シーニックバイウェイ」は北海道開発局が全国に先駆けて制度化したもので、平成19年から「日本風景街道(シーニック・バイウェイ・ジャパン)」として全国に普及しました。平成29年12月8日現在、全国で合計141ルートが登録されています。

シーニックバイウェイは、アメリカで1989年に制定された「シーニックバイウェイ法」を日本に取り入れたものです。アメリカでは1950年代に全米を網羅するインターステイトハイウェイが建設されるなど道路整備が進みました。しかし、双子の赤字といわれた財政赤字と貿易赤字がアメリカを苦しめた80年代の停滞期に入り、公共インフラに対する維持管理費が削られ、橋梁の崩落が起こるなど各地で「荒廃するアメリカ」と呼ばれる状況を招きました。そこでアメリカは「総合陸上輸送効率化法」を制定し、1989年からの5年間で150億ドルともいわれる巨費を投じて道路インフラを更新する事業に取り組みました。この法律は、「量の拡大」を目指してきた道路整備から「質の充実」に転換するもので、シーニックバイウェイは方向転換を象徴する政策ということができます。

画像2シーニックバイウェイのルート

アメリカのシーニックバイウェイの目的は次のようなものです。

・道路沿線における景観性、歴史性、文化性、レクリエーション性、考古学性の5つの視点から価値を保存することで、景観の長期維持と充実を図ること
・国内外の旅行者を増加させ、州や地方の経済効果を引き出すこと
・すべての旅行者に幅広い体験学習の場を提供し、教育と理解の機会を与えて充実させること

アメリカでは90年代からすでに道路を単に物流インフラとしてだけではなく地域の振興資源として活用が打ち出されていました(シーニックバイウェイ支援センター『シーニックバイウェイ北海道』ぎょうせい)。

一方、日本では道路交通法などの道路を取り巻く法体系や道路構造令などの規範は、「楽しむ道路」という視点からみればまだまだ不十分です。北海道開発局の社会実験で示されたように、道路交通標識の多言語化や情報提供などにはすぐに取り組むべきですが、道路構造をドライブ観光に適したものへと変えていくことも大切でしょう。

日本の道路は幅員やカーブの大きさなどから、信号、トンネル、駐車場などの付帯設備を含めて道路構造令によって細かく規定されています。道路構造令では「道路の構造は、当該道路の存する地域の地形、地質、気象その他の状況及び当該道路の交通状況を考慮し、通常の衝撃に対して安全なものであるとともに、安全かつ円滑な交通を確保することができるものでなければならない」としており、安全と効率に主眼が置かれ「ドライブを楽しむ」ことは想定されていません。

ドライブ観光の先進地であるヨーロッパでは、気持ちよく車を走らせるための工夫として「ラウンドアバウト」が多く用いられています。これは「環状交差点」と訳されていますが、長く道路構造令では認められてきませんでした。平成28年になって初めて「環状交差点」として道路構造令に盛り込まれましたが、その普及には及び腰です。

ラウンドアバウトは広い面積を必要とするので狭隘な日本には不向きとされてきました。一方、北海道にはヨーロッパ並みの広大な広がりがあります。北海道こそ「ラウンドアバウト」を多数導入して、交差点で止まることのない快適なドライブ環境を提供すべきです。

画像3環状交差点と訳される「ラウンドアバウト」

しかし、現状では全国一律の道路行政の下、国道、道道、市道などが複雑に交わる交差点のため、前方不注意等による追突事故や出会い頭事故が発生していることなどを理由に普及が進まず、ようやく上ノ国町の国道228号大留交差点で調査設計が始まったばかりです。ドライバーに人気の北海道の広大な道路に「ラウンドアバウト」を設ければドライブ観光の適地としての価値は高まりますが、道路構造令では移動を楽しむ「ドライブ観光」は想定されていないため、現状では「安全対策」という大義名分がなければ、道路に「ラウンドアバウト」は設けられないのです。

北海道内の国道の法定速度が60㎞であることも再考すべき時に来ていると思います。ドライバーは道路の状態、交通の状態から最適な速度を選びますが、北海道の道路、特に郊外の道路でドライバーが選ぶ安全速度と法定速度のずれの大きさは、道内で車を運転する方であればどなたも感じるところと思います。一般道路の法定速度60 ㎞は昭和35年、今から58年も前に当時の自動車の性能に合わせて制定されたものです。カローラはまだ登場せず、初代スカイラインの時代です。それも住宅が密集した本州の実情に合わせて規定されたものです。その後、道路の改良も進み、自動車の性能と安全性は飛躍的に高まりました。

たしかに道路交通の最高速度をいたずらに上げることは交通事故の危険性を増大しかねない恐れがありますが、一方で実態に合わない速度規制が交通ルールを軽視する姿勢を生み、かえって交通違反を増やしているという指摘もあります。

このようなことから、規制緩和の流れも受けて、道路交通を管理している警察庁交通局では平成18から20年度にかけて「規制速度決定の在り方に関する調査研究」を行い、最高速度規制の見直しに着手しました。そして現在の一律60㎞制限を見直し、生活道路は原則30㎞、自動車の通行機能を重視した構造の道路では70~80㎞という弾力的な規制を順次実施していくこととしました。北海道では旭川市と稚内市を結ぶ国道40号の開源=更喜苫内間の制限速度が70㎞に引き上げられました。しかし、70㎞制限を実施するためには多くの条件が必要で、広がりを見せていません。

欧米では「85パーセンタイル速度」を取り入れる動きが広まっています。85パーセンタイル速度とは、ドライバーがある区間を走行する車両の速度を低い順番に並べ、全体の85%までが含まれる速度です。資本主義社会では、ものの適正価格を市場に委ねていますが、道路交通の適正な速度を、全国一律に規制するのではなく、大多数のドライバーが選ぶ速度の平均値に委ねようというもので、いわば市場原理の導入です(宗広一徳他「諸外国における速度規制に関する事例」北海道開発土木研究所月報他)。

道路の規格を定めた道路構造令または交通ルールを定めた道路交通法は、自動車交通の未発達な時代、高度成長下で輸送の効率が何よりも優先された時代に定められたもので、都府県の人口密集地での調査に基づいた規制が北海道にそのまま適用されています。これらの法令や規制には、道路が本書で提起したドライブ観光の基盤であることなどは考慮されていません。

道路交通では、自動運転の車両にどのように対応していくかという課題もあります。21世紀に入って20年近くが経過しようという今、道路を巡る法的な枠組みをゼロから見直すべきではないでしょうか。道路交通体系の整備といえば、新規の道路整備だけに目が行きがちですが、新しい時代の道路交通を実現していくにはハードウェアだけでなく、それを支える規制などのソフトウェアも見直していく必要があるのです。

本道でのドライブ観光のいっそうの充実を図るため、21世紀型の道路を北海道から発信していこうではありませんか。