北海道200年戦略の視点 2/3 ~北海道の5つの宝とソフトパワー~

北海道の5つの宝

北の大地はどこよりも早く冷え込み、いちばん遅れて春が来るといわれています。季節の移り変わりだけでなく、景気の寒暖もこの言葉のままといわれますが、いつまでもこの言葉のとおりとあきらめていては北海道の未来を切り拓いていくことはできません。北海道から経済再生の芽を見いだし、花を咲かせるくらいの意気込みで挑戦していかなければなりません。

北海道には「5つの宝」があります。

第1は、「北海道の地理的特徴」です。初めて大西洋の無着陸横断飛行に成功したアメリカの冒険家チャールズ・リンドバーグは、昭和6年、太平洋北回りの路線の調査飛行にアン夫人と共に挑み、8月24日、水上飛行機シリウスで根室に到着しました。北海道の地理的な特徴は、北米や北東アジアに最も近接していることです。

地球儀を上から見ると北東アジアの先進地帯の中ではヨーロッパに最も近いのも北海道ですが、北極海の厚い氷が両地域の交流を妨げていました。近年、地球温暖化と造船技術の進歩で、北極海航路が開かれています。距離的近接性から、北米航空路線のハブ空港の誘致を進めることは当然として、北極海航路が実現した場合には、北海道の港湾が国際物流拠点になる可能性を秘めています。

その第2は、「広大な大地」です。北海道の人口密度は70人/平方kmで1㎞四方に70人しか住んでいません。これに対して日本全体では343人/平方kmです。北海道はこの広大な大地を活かして日本の食糧基地の役割を担っているのです。

第3は、「日本一の自然環境」です。北海道は「広大な大地」が3つの海に囲まれている日本で唯一の存在です。日本海、太平洋、オホーツク海、この3海の独特の海岸風土の相乗として豊かな自然環境が出来上がっているのです。

自然の豊かさは誰もが知るところですが、自然の恵みとして豊富な水資源があることも強調しておきましょう。北海道は世界でも有数の豪雪地帯であり、冬に降り積もる雪が天然のダムの役割を果たすため、北海道は水不足に悩まされることがありません。北海道の豊富な水資源を狙って、近年中国などの外国資本による水源地や森林の買収が進んでいますが、北海道の清らかで豊かな水資源は道民にとってかけがえのない財産です。私が道議会議員のとき、北海道水資源の保全に関する条例が制定され、道や市町村、事業者、道民が一体となって水資源の保全に取り組んでいます。

第4は、北海道の「豊かな一次資源」です。北海道近海は暖流と寒流が交わる世界有数の漁場。森林面積は全国の約22%を占め、農業は日本一です。この北海道農業であってもオーストラリアや北米などと比べて耕地が狭く、経営コストが割高という指摘がありました。しかし農業の優劣を決めるのは土地の広さだけではありません。農業の基盤となる土壌の豊かさにおいて、日本、とりわけ北海道は世界的に見ても極めて優れたものを持っています。土壌の豊かさを象徴する黒土。農業では「黒ボク土」と呼びますが、日本では全農耕地の約26 %がこの黒ボク土です(小原洋「農薬研ニュース・№10
7」農業環境技術研究所)。黒ボク土は火山灰の上に植物遺体が積み重なって出来たもので、日本列島には多数の火山があることが黒ボク土の源泉となっています。北海道は日本の活火山の約3割(北方領土を含む)が存在する場所で、そのことが北海道の土壌の豊かさにつながっています。確かに北海道農業は、面積という水平方向の広がりでは諸外国に劣るかもしれませんが、農業用水を含めた土壌条件、縦方向の豊かさでは世界でも飛び抜けて恵まれているのです。さらに、水資源が豊かである、火山が多数あることは、再生可能エネルギー・自然エネルギーの宝庫であることにもつながっています。

画像1オホーツクの豊かな畑作地帯
一戸あたりの経営面積はヨーロッパ水準に達している

そして最後の第5は「開拓の歴史」です。北海道は、明治になって開かれた新天地に希望を求めた多くの人たちの努力によって開拓されました。原生林を開墾して農地に拓く開拓作業は現代の私たちには想像もできないほど過酷で、自然が与えた試練に敗れて挫折した開拓者も多くありました。私たちはこうした試練に打ち勝った開拓者の子孫です。出身地や門閥を問わない北海道の「開放性」や新しいことに意欲的な「先進性」は開拓の歴史によって培われてきた北海道の優れた宝です。

北海道の「ソフト・パワー」を引き出す

私の目指す「北海道200年戦略」は、北海道の持つこの「5つの宝」を北海道発展の源泉にすることです。しかし、北海道の豊かな自然にしろ、豊かな一次資源にしろ、この150年の間につくられた北海道の開発計画で、これらを計画の基盤に置かなかったものは皆無といってよいでしょう。何が違うのか。私は北海道の「5つの宝」、すなわち北海道の地域資源を「コンテンツ」という視点で捉え直し、北海道の「ソフト・パワー」を引き出すことで、北海道の発展につなげていきたいと考えています。地域資源の「コンテンツ化」、それによる「北海道のソフト・パワー増大」。これが北海道200年戦略の核心です。

では、ソフト・パワーとは何でしょうか? 1990年にこの概念を初めて用いたハーバード大学ジョセフ・ナイ教授は次のように説明しています。ナイ教授は、カーター政権で国務副次官、クリントン政権で国家情報会議議長、国防次官補を務め、米国政府の政策決定に大きな影響力を発揮しました。

「ソフト・パワーとは何か。それは、強制や報酬ではなく、魅力によって結果を得る能力である。ソフト・パワーは国の文化、政策的な理想、政策の魅力によって生まれる」(ジョセフ・ナイ『ソフト・パワー』日本経済新聞社)ナイ教授は、ソフト・パワーとは「魅力によって人を動かす力」であり、世界のグローバル化によって国境を前提とした軍事力、政治力が相対的に弱まり、経済成長によって基本的な物質欲求が満たされた21世紀社会において新たに人びとに影響を与え、人びとを動かす力になっているといいました。しかし、一方で「ソフト・パワーを、大衆文化の力としてだけ捕らえている論者もいる。ソフト・パワーによる行動と、それを生み出す一助になる場合もある文化的な源泉と混同している。これは文化的な源泉と魅力の行動を混同する誤りである」とも指摘しています。

確かに、近年世界的に日本のアニメやマンガ、ゲーム等の大衆文化=クールジャパンが注目を集めていることから、ソフト・パワーと大衆文化が同一視されることも少なくありません。

魅力的な文化があるからといって、すぐに多くの人びとに行動を起こさせることはできません。文化が地域のソフト・パワーではなく、文化を含め地域の魅力によって人びとの具体的な行動を引き出す力がソフト・パワーなのです。

ソフト・パワーについて考える上で、具体的な例として「交流人口」を挙げます。

急速に少子高齢化の進む北海道の人口は2040年には428万人と、現在よりも119万人減少すると推定されています(『日本の地域別将来推計人口(平成30年)』国立社会保障・人口問題研究所)。道民1人当たりの年間所得は約258万円と推計されています(『道民経済計算(平成27)』北海道)から、これだけで北海道のGDPは約3兆円の減少となります。一方、外国人観光客の観光消費額は1人当たり17万8102円(『北海道観光の現況2017』北海道)となっていますから、14人の外国人が北海道を訪れると1人の道民が増えたのと同じ経済効果となります。

外国人が北海道を訪れ、地域で消費するのは観光だけに限りません。平成28年の観光庁の調べによると国際会議の外国人参加者の1人当たりの平均消費額は約37・3万円(『MICEの経済波及効果算出事業報告書』)となっています。観光客よりも20万円も多いのです。北海道で開催される国際会議を増やし、外国からの参加者を7人集めれば道民1人が増えたのと同じ効果があることになります。

観光客に加え、会議や見本市、イベントやインセンティブツアー、ビジネスや公用で訪れた外客を含めて「交流人口」と呼びます。今後道民が119万人減るとしても、外国人の交流人口を増や産戦略本部」の次の説明がわかりやすいでしょう。同本部は地域ブランドを「地域の特長を活かした商品、サービスの開発や高付加価値化と、地域そのもののイメージ(景観、自然、歴史、風土、文化、素材など)を結びつけながら、地域全体で取り組むことにより、他地域との差別化された価値を生み出し、その価値が広く認知され求められるようになること」と定義しています。

さらに「現在、地域ブランドと呼ばれているものには、地域の特長を活かした商品・サービスのブランド(狭義のブランド)と地域そのもののブランド(広義のブランド)があります。これらのどちらか一方では地域ブランドにはなりません。また、両方が存在していても、それぞれがバラバラであれば『地域ブランド』とは呼べません。地域の商品が売れるようになることと、地域イメージが良くなることの両方が結びついた結果、『訪れたい』『住みたい』『誇りが持てる』といった、よいイメージ、評判を形成することで、地域の雇用が促進し、観光などへの相乗効果が生まれ、地域が豊かになる。こうした好循環によって地域が活性化していく状態を『地域ブランド』と呼ぶことができます」と説明しています。

この説明でわかるように地域ブランドは「状態」を示す静的な概念であるのに対して、地域のソフト・パワーは「力」を表す動的な概念です。地域ブランドも地域のソフト・パワーを生み出す源泉の一つであり、また地域のソフト・パワーが充分に発揮されている状態を地域ブランドが確立された状態ということもできますが、私は北海道が世界に向けて能動的かつ積極的に働きかけていくことを期待してソフト・パワーという概念を戦略の中核として選びました。