【ショートショート】「つまらないものですが……」

「つまらないものですが……」
作 taka田taka夫


 休日の昼下がり。
 突然、家のチャイムが鳴った。

「はーい!!」

 誰だろうと思いながら、私は玄関のドアを開ける。
 そこには高校時代の懐かしい友人、妻夫木が紙袋を手に持って立っていた。

「よ、久しぶり!」
「妻夫木!?妻夫木じゃないか!久しぶりだな!!何年ぶりだ!?」
「5年ぶりぐらいじゃないか?老けたな、お前ー」
「老けてねぇよ!!」

 久しぶりの再会に笑い合う私と妻夫木。
 妻夫木は高校時代の同級生で三年間、同じクラスだった。
 私は文化系で彼は体育会系だが、不思議と気が合い、一緒にラーメンを食べに行ったり、TVゲームをして遊んだり、映画を観に行ったり、公園で将来の夢について語ったりと2人で青春をしたものだ。


 高校卒業後。私は地元の大学に行き、妻夫木は東京にある車の専門学校へ行った。
 私は大学を卒業後、地元の中学校で教師に。
 妻夫木は専門学校卒業後、東京の車の整備工場で働いている。

 お互いに違う場所で暮らし、結婚もし、子供も持ったので会う機会はすっかりなくなっていた。
 だが、今こうして5年ぶりに再会したのである。

 今日は妻と子どもが出かけていたので、自宅の茶の間で胡坐をかき、コーヒーを飲みながら、妻夫木と昔話に花を咲かせていた。
 すると、妻夫木は……。

「あ!そうだ、忘れてた」

 そう言って、妻夫木は持っていた紙袋をちゃぶ台の上に置いた。

「ほい、コレ。つまらないものだけど」

 どうやら、なにか手土産のようだ。

「オイオイ、気を遣わなくていいのにー」
「いいから、いいから、もらっとけ」

 妻夫木に促され、私はその紙袋の中を開ける。中には緑色の包装紙に包まれた長方形の箱があった。
 東京土産のお菓子だろうか?
 紙袋から箱を取り出し、包装紙を剥がす。なにも書かれていない白い箱が出てきた。

「開けてみろよ。まー、つまらないものだけど」
「ハハッ、そんな謙遜すんなって」

 私はその箱を開けてみた。

 ……。

 本当に、つまらないものだった……。
 ……なんと説明していいのかわからないぐらい、つまらないものが入っている……。
 妻夫木は謙遜して『つまらないもの』と言ったのだと思ったが、本当の本当につまらないものだった……。
 冗談抜きでつまらない……。

 妻夫木は苦虫を潰したような顔で、

「な、な?つまらないものだろ……」

と、申し訳なさそうに言う。

「あ、ああ……。本当につまらないものだな……」

 私は思わず頷いた。
 物をもらっておいて、こういうことを言うのは大変失礼だとは思っている。
 だが、こちらとしても、まさか本当にこんなつまらないものをもらうとは思っていなかったし、困惑しているのだ……。
 私は妻夫木に、

「な、なんで、こんなつまらないものを持ってきたんだよ……」

と言った。

「し、仕方ないだろ……。久しぶりに友人に会うっていうのに手ぶらで行くのもアレだと思ってよ……」
「いや、だったら、手ぶらで来いよ……。こんなつまらないもの渡すぐらいなら、手ぶらで来いよ……」

 私は妻夫木から渡されたつまらないものを見ながら、そう言う。
 妻夫木はムッとした表情になり、

「……オイ。いくらなんでも、そういう言い方はないんじゃないか?こっちだって、つまらないものとはいえ、一応、手土産を持ってきたんだからよ……」

と、怒っている。
 そんな妻夫木の態度に、私は思わず、

「いや、だからって、こんなつまらないものを渡す奴が居るか、フツー……。なんで、こんなつまらないものを持ってきたんだよ?」

と、言い返してしまう。
 カッとなった妻夫木は立ち上がる。

「ああん!?じゃあ、なにを渡せば良かったんだよ!?ひよこのお菓子か!?人形焼きか!?それとも、ステーキ肉か!!?」

 妻夫木の言い草に、私もカッとなった。

「だから、こんなつまらないものを持ってくるんなら、普通に手ぶらで来れば良かっただろうって、話をしているんだよ、俺は!お前、本当、昔から無神経というか、脳筋バカだよな!?」
「ああん!!そこまで言うことねぇだろ!!?」

 顔が真っ赤になる妻夫木。

「てめぇだって、昔っから、神経質すぎるんだよ!!こまけぇことを、いちいちネチネチと言いやがって……だから、てめー、高校ん時、俺しか友達いなかったんだろうが!!」

 一番、言われたくないことを言われ、私はキレた。

「ふざけるなよ、お前!!お前こそ、そこまで言うことないだろう!!お前だって、俺以外に友達居たのかよ!?ぶっちゃけ、クラスのみんなが、お前の事をウザがってたぞ!!」
「ああん!!なんだと、この野郎!!!」

 私の言った言葉は、妻夫木にとっても一番言われたくないことだったらしく、妻夫木は乱暴に私の服の襟首を掴む。

「この野郎!ふざけやがって!!」
「お前こそ、ふざけやがって!!」

 私も負けずに妻夫木の服の襟首を掴んだ。

 ……。
 数分後……。
 妻夫木との口論は、殴り合いの喧嘩にまで発展。
 家の中はメチャクチャになり、警察が介入するまでになった……。
 私も妻夫木も傷と痣だらけの顔に……。

 それ以来、私は妻夫木とは一生会うことはなかった……。

 あんな『つまらないこと』……いや、あんな『つまらないもの』のせいで、私と妻夫木の友情は修復不可能なまでに粉々に砕けたのだ……。


 ああ、あんな『つまらないもの』さえなければ……。


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