【ショートショート】変身だ!! part2

 どこにでもある廃工場内。

「グハッ!!」

 サメの姿をした怪人・シャークメンから、強烈な一撃を受けた広本。
 彼が纏っていた強化スーツが霧散し、生身の姿が露出する。

 広本昭雄《ひろもと あきお》。彼は所謂、変身ヒーローである。
 謎の秘密の組織が、悪の組織を壊滅させるために作った特殊なベルトを使って、彼はヒーローに変身することが出来るのだ。
 そのベルトはスマートフォン型の起動装置を差し込むことで、広本の身体に合わせて強化スーツを作り出し、広本はそれを身にまとって、人間を超えた超人へと変身する。

 だが、悪の組織が送り込んだサメの怪人、シャークメンは今までの敵とは違う強敵だった。
 このシャークメンの力に、広本は手も足も出ずに地面に転がる。

「くそ!!なんて、強さなんだ!!」

 変身が解除した広本。
 地面に這いつくばり、拳を強く握りしめる。

「サメー、サメサメ!!さすがの変身ヒーローである貴様も、この私には敵わなかったようだな」

 無理のある笑い声を響かせながら、シャークメンは広本に近づく。
 シャークメンは腕を振り上げた。

「トドメだ!!」

 シャークメンが、広本にトドメを刺そうとした瞬間!

「待てい!!」

 誰かの声が廃工場内に響く。
 広本とシャークメンは声の方に振り返る。
 そこには、白衣を着た白髪の老人男性が居た。

「は、博士!!」

 老人を見て、広本は叫んだ。
 そう、この男性こそ、広本が使用するベルトを作り上げた博士である。
 博士の手には、赤いスマートフォンがあった。

「広本君!!新しいパワーアップアイテムが完成した!!これを使って、もう一度変身するんだ!!」

 博士は、物凄いコントロールの良さで、広本の手に赤いスマートフォンを投げ渡す。
 赤いスマートフォンを手にした広本は立ち上がり、ポーズを決める。

「変身!」

 広本は叫びながら、赤いスマートフォンをベルトに差し込む。
 すると、ベルトから音声が鳴り響いた。

「セットオン!!スーパー変身タイム!!ジャー、じゃがじゃじゃじゃじゃーん!!」

 廃工場内にベルトのサウンドが鳴り響く。
 長いんで、省略。

(1時間後……)

「さ、さめぇーー!!!」

 シャークメンは新しい姿に変身した広本のパンチを受け、地面に倒れた。
 新たな赤いスマートフォンで変身し、パワーアップした広本はあっという間にシャークメンを倒した。

「す、すごい!これが、新しい力なのか!」

 広本は新たな力に驚きつつ、ベルトから赤いスマートフォンを取り外して変身を解除した。

「どうじゃ、広本くん。その新しい力は?」
「はい!博士!この力があれば、もう誰にも負けないような気がします!!」

 広本は赤い新しいスマートフォンを握りしめる。
 すると、広本はポケットから以前、変身に使っていた旧式のスマートフォンを取り出す。

「もう、これいらねぇや……」

 広本はそう言って、旧式のスマートフォンを地面に捨てた。
 それを見て、愕然とする博士。

「ちょっ!おま!!なんで、前のスマートフォンを捨てるの!!?」

 広本は赤いスマートフォンを見つめる。

「いや、だって、新しい力を手に入れましたし、もういらないでしょ。旧式なんて」
「なに言ってんだ、おめぇ!?今まで、使ってた変身アイテムを捨てる奴が居るか!?」

 博士は広本の心無い行為に激怒した。
 一方、広本から攻撃を受けて倒れていたシャークメンだったが、まだ息はあったようで、なんとか立ち上がる。
 再び、広本に攻撃しようと構えるシャークメンだったが広本と博士が口論を始めたので、今ここで攻撃したら、なんか空気読めていない感じになるから、とりあえず黙って見ていることにした。

 博士は広本の前に立ち、

「お前なぁ!今まで、使って来た変身アイテムをゴミみたいに捨てるか、フツー!?大事にとっとくだろ、フツー!」

と、唾を飛ばしながら怒っている。
 しかし、広本は、

「だって、新しい姿に変身出来るようになったんだから、もう以前の姿に変身しなくてもいいじゃないですか。だから、もういらないでしょ」

と言って、旧式のスマートフォンを足で踏みつける。

「ああああーー!!!踏むことないだろ、踏むことは!!お前には物を大事にする気持ちってもんがないのかぁ!?」
「いや、だって、もう使わないし……」
「使うだろ、旧式だって!!」

 広本は納得いかない表情で、

「……じゃあ、聞きますけど、この赤いスマートフォンで変身した新形態と、今まで変身してた旧式の形態……どっちが強いんですか?」

と言うと、博士は自慢げに。

「そりゃあ、新形態の方が強いに決まってるだろ。旧式のスペックから3倍もパワーアップしているんだぞ」
「……新形態がそんなにパワーアップしているんなら、やっぱり、旧式いらないじゃないですか」
「あ」

 博士は、自ら墓穴を掘った。
 広本は引き続き、旧式のスマートフォンを足で踏みつける。

「いや、だから、やめろって!!お前、旧式の形態に愛着とかないの!?」
「ないです」
「お前、冷たいな!!」

 すると、博士は地面の上で胡坐をかいているシャークメンに目を向けた。

「おい!そこのサメ人間!!お前も、なんか言ってやれよ!!悪の組織として、今まで使っていた変身アイテムを足で踏んでいるヒーローに、なんか言ってやれよ!!」
「え?オレェ?オレ、あんたらの敵だよ?」

 シャークメンはいきなり博士から話を振られて困惑したが、今までの二人の会話を聞き、こう答えた。

「……んー。じゃあ、まあ、敵とか味方とか抜きで第三者としての僕の意見を言わせてもらいますけど……。今日出てきた新形態って、今まで使って来た形態のバージョンアップってことになるんですよね?それで、総合的に新型が旧式よりもスペックが向上しているんなら、旧式を使う理由はないじゃないですかねー……」

 冷静なシャークメンの言葉に博士は血相を変えた。

「なに!?お前まで、旧式を否定するのか!?」
「それで、これは敵側としての意見なんですけど……。仮に明日、僕があなた方とまた戦うことになった時……旧式の方で変身されたら『え?昨日、新型が出たのに、なんで、また旧式に変身するの?』って思っちゃいますねー……。たぶん、これがTV番組だったら視聴者もそう思いますよ」
「くっ!」
「敵側としても、スペックの高い新型があるのに、スペックの低い旧式で来られたら、なんか嘗められているみたいで、あんまり良い感じはしないですねー……。どうせなら、最初から強い新型の方に変身してもらいたいと言いますか……」

 シャークメンの的確な意見に愕然とする博士。

「ほら、敵だって、旧式は不要だって言ってるじゃないですか」
「ぐぬぬ……」
「だから、もう旧式はいらないです」

 広本は再び、グリグリと旧式のスマートフォンを踏みつける。

「だから、足で踏むのはやめろ!!お前の血は何色だァ!!?」

 シャークメンはタバコを咥えた。

「あの、博士さんー……。じゃあ、逆に聞きますけど、旧式って新型にはない機能とかがあるんですか?旧式の方が新型よりもスピードがあるとか、頑丈だとか。あるいは、旧式には索敵用のセンサーがあるとか」
「新型の方がスピードも強度も上だ。あと、旧式と新型、どっちにも索敵センサー機能はない」

 シャークメンはタバコに火をつけた。

「じゃあ、質問を変えますけど、新型にデメリットってないんですか?」
「デメリット?」

 不思議そうな顔をする博士。

「旧式から、格段にパワーアップしたのなら、なにかしらデメリットがあると思うんですが?出力が上がったから旧式よりも身体に負荷がかかって、使いすぎると身体の調子が悪くなるとか、だんだん理性がなくなって精神が病んで暴走するとか……。新型には、そういうデメリットってないんですか?」

 シャークメンはタバコを深く吸って、煙を吐いた。
 博士はその言葉を聞き、困惑した。

「変身者の安全性を考えているんで、新型には、そう言ったデメリットはない……」
「じゃあ、旧式はもういらないっすね」

 シャークメンはバッサリ言った。

「敵もそう言ってますし、この旧式は壊しますね」

 広本は旧式スマートフォンを思いっきり踏みつけようとした。
 すると、博士は、

「ああああーー!!わかった!!わかった!!!新型にはデメリットつけるから!!新型で変身すると、身体に負荷がかかって使いすぎると死ぬってデメリットつけるから!!!」

と言った。
 それを聞いた広本は激怒。

「はああああ!?せっかく、パワーアップしたのに使いすぎると死ぬって、ふざけんなよ!!ジジイ!?俺の身体をなんだと思ってんだ、ボケコラ!!」
「オメーが旧式を大事にしないから、そういうことになったんだろうが!!タココラ!!」

 博士は逆ギレした。

「もう旧式はいらねぇって話だったのに、なんでデメリットつけるんだよ!!地球の平和守れなくなるだろうが、ボケ!!!」
「物を大事にしないヤツが地球を大事にできるか!ボケ!!物を大事にしないと死ぬって、教訓だ!アホ!!」
「物と地球の平和、どっちが大事なんじゃ、ボケジジイ!!!」
「黙れ!現在教育の悲しき見本が!!正論が全て正しいとか思ってんじゃねぇ!!」

 広本と博士は顔を真っ赤にして、激しく罵り合う。
 そんな二人の姿を、シャークメンはタバコを吸いながら見つめる。

「あのー。別にデメリットとかつけなくても、新型の変身アイテムを無くしたか、故障したかで使えなくなった時のために、予備として旧式も残しておけばいいんじゃないでしょうか……?」

 シャークメンはそう言ったが、罵倒し合う広本と博士の耳には届かなかった。

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