【映画レビュー】「スパイダーマン3」(2007年) ~心の闇に屈した代償~

「スパイダーマン3」(2007年 アメリカ 139分)
監督 サム・ライミ
脚本 アルヴィン・サージェント、アイヴァン・ライミ、サム・ライミ
出演 トビー・マグワイア、キルスティン・ダンスト、ジェームズ・フランコ、トーマス・ヘイデン・チャーチ、トファー・グレイス


【あらすじ】
 MJという理解者であり恋人を得て、絶好調のピーター。
 だが、父(ノーマン・オズボーン)を殺した犯人がスパイダーマン(ピーター)だと誤解したままのハリーがニュー・ゴブリンとなって現れる。

 更に叔父さんを殺したのは、あの時の強盗ではなく、別に真犯人が居たことを知るピーター。
 叔父さんを殺した真犯人はフリント。彼には病気の娘が居て、そのために強盗を働き、ピーターの叔父さんを過って殺害してしまったのだ。
 フリントは刑務所から脱獄したが、逃走中に誤って科学実験所に入ってしまい、実験に巻き込まれる。
 その結果、フリントは全身が砂で出来た怪人「サンドマン」になってしまう。

 心をかき乱されるような出来事が次々と重なってしまい、MJともすれ違い始めたピーター。
 彼の心は次第に深い闇の中へと堕ちていく……。

 そんな時、宇宙から飛来した謎の生命体「ヴェノム」がピーターの身体にまとまわりつき、黒いスパイダーマンへと変貌。
 黒いスパイダーマンになったピーターは暴走を始め、叔父さんを殺したサンドマン、MJを奪ったハリー、そして自分から離れたMJを傷つけていき、徐々に自分を見失って行く……。

 本来なら続編も予定されていたそうだが、諸事情で打ち切りになったため、サム・ライミ監督が手掛ける映画スパイダーマンシリーズは本作で最終作となる。


【ここから先はネタバレを含みます】

 公開日に本作を観に行った私は、この内容に愕然とした。
 スパイダーマンと自分の人生との兼ね合いに苦悩していたピーターの姿はなくなり、調子に乗り続け、ヴェノムのせいとはいえ、暴走し続けるピーターの姿に当時の私はガッカリした。

 あんなに苦悩していたピーターはどこに行った?
 唯一の理解者だったMJは結婚を破棄してまで、ピーターを選んだのはなんだったんだ?
 それに、ハリーのスパイダーマン(ピーター)への誤解が解けたキッカケが、秘書のたった一言だったので更にガックリした(もっと早く言えよ)


【感想】
 公開当時、とにかくガッカリした本作……。
 しかし、時間の経過により、だんだんこの作品が受け入れられるようになりました。


 サム・ライミ版スパイダーマンシリーズの一作目は「ヒーロー誕生」を描き、二作目は「ヒーローの苦悩」を描いた。
 そして、この三作目は「ヒーローの心の闇」を描いたのです。


 ピーターはスパイダーマンになってから、ずっと苦悩し続けてきました。
 それがようやく理解者であるMJを得たことで、少しだけ苦悩から解放され、充実した日々を得るようになり、つい調子に乗ってしまった。
 そして、叔父さんを殺した真犯人であるサンドマンを知ったことにより、彼の内にあった負の感情が溢れ出す。

 この「スパイダーマン3」は、いつかピーターがぶつかる壁を描いた内容だったのだ。

 強敵・ヴェノムとの戦いの末にピーターはサンドマンを許し、自分の心の闇を乗り越えた。
 しかし、その代償は大きく、ようやく和解できた親友のハリーが死亡してしまう。
 自分の心の闇に飲み込まれてしまったピーターへの罰は、あまりにも大きく、取り返しのつかないモノだった……。


 ラスト。
 ピーターは、MJの手を取ってダンスをする。
 残された大切なものを愛おしむように。
 これが、サム・ライミ監督が手掛けた映画スパイダーマンシリーズの最後のシーンであった。

 サム・ライミ監督のスパイダーマンは等身大の若者がある日突然、ヒーローになってしまうという苦悩と挫折を描いた。
 思い通りに行かなかったり、誤解されたり、苦悩したり、喜んだり、調子に乗ったり、時には誰かを傷つけてしまったり。
 スパイダーマンであり、普通の人間でもある青年ピーター・パーカーの人生を描いたのが、このサム・ライミ版スパイダーマンだったのかもしれない。


 スパイダーマン実写映画のエポックメイキングとなったサム・ライミ監督による三部作。
 泥臭くて切ない一人の若者の姿を描いたヒーロー映画です


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