肛門紋認証に人生を賭けた男【有料】
導入
【基本情報】
主人公の阿部写楽は、トーキョー特区内では支配層に属する会社RiQグループに所属する超エリートで、会社の花形部署である「市場開拓・市場創造支援本部・制度課」に所属。
「資本主義の果て」と呼ばれる時代に仕掛ける側の立場にある人間のあれこれを描いたSF短編物語集です。
【概要】
阿部写楽が社内報で担当した「対談」をお送りします。
本編
写楽:当局、衛生部排泄物処理課・課長の幸田さんです。
幸田:先日はありがとうございました。私の出版パーティーに来て頂き、ちょっとした講演までして頂きまして……。
写楽:いえいえ、講演なんてものではないですが……笑。でも、随分と売れ行きは好調みたいですね。
幸田:はい。お陰様で、書店ランキングでも2位を取らせて頂き、増刷が決まったところです。肛門紋認証なんて、こんなマイナーな技術の開発秘話に誰が興味を持つのだろうかと不安でしたが、想定以上の売れ行きに驚いています。
写楽:それは、おめでとうございます。
幸田:ありがとうございます。まさか、こんなに興味を持ってもらえるとは思いませんでした。
写楽:ええと、そちらの本がですね、「小さな不公平が大きな夢に育った。~肛門紋認証技術開発秘話」ですね。
幸田:そうです。肛門認証技術の開発から排泄物処理に関する法整備やに普及する迄の私の闘いの記録を書かせて頂きました。
◆
写楽:幸田さんはトーキョー経済特区当局衛生部排泄物処理課の課長を務めており、長年、排泄物処理費用負担の公平化の仕組み開発に尽力されました。具体的には、肛門紋認証技術を開発し、いつ、どこで、誰が排泄をしたか、どの程度、排泄物処理に負担を掛けたか、リアルタイムに分析するシステムを構築されました。今現在は、これらの技術を応用した衛生管理体制の構築に取り組んでおり、さらなる新技術の開発を通して、健康管理は勿論、医療費や保険料の負担の公平化にも取り組んでいるんですよね。
幸田:はい。そうです。トーキョー特区外の人も聞いてるかもしれないので、一応説明しておくと、特区では公平負担の原則というのがあって、もう十年以上前から、当局上げて取り組んでいます。私の現在の担当に関して言えば、例えば、健康維持の為に真面目に努力をしている人と、怠けている人で、罹患した場合の医療費などが同じ金額というのは極めて不公平ですね。そういう不公平を技術と制度の力で解消する。そういう仕事をしています。
写楽:なるほど。ちょっと分かりにくいので、何か具体例はありますか?
幸田:ええとですね。分かりやすいのは横断橋ですかね。例えば横断橋利用料で説明すると。まずはトーキョー特区では、個人の移動データの全てが特区民1人1人のIDに紐付けされていて、各種移動データがリアルタイムに反映される仕組みになっています。その反映されたデータを元に横断橋を利用した秒数に従い負担額が計算され、その計算結果を元に、ID連携のウォレットから利用料が徴収される仕組みになっています。
写楽:利用者は特に何もする事なく、自然に徴収される仕組みって事ですね。
幸田:そうです。自動で全て計算されるので、私達は特に計算も納付も何の手続きも必要無く、全ては当局のシステム内で完結します。当然、間に人の気紛れが介在する事もありませんので、常に計算式に従う形で公平負担が実現されています。
写楽:その排泄物処理バージョンって事ですね。
幸田:はい。そうです。
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