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04:胸の辺りにスーッと爽やかな風が吹き込むような感じがした

ハイエナコさんは、道端で拾った野良犬みたいな俺の身の上を心配してくれた。

「田島っち、あんた何かあったの?」 

「いや、まあ」と濁す俺に、

「あんたね、散々迷惑掛けたんだから、こういう時は素直に話すのが礼儀よ」

と言われ、俺のダッセー身の上話をする事になった。

俺はここ最近の就職活動で、ブラック狙いで14社連続で落ち続けている事。酒乱でトラブルを起こし続けている事などをいちいち説明した。ハイエナコさんは真剣な表情に、時々凄い声量で笑いながら、ずっと聞いてくれた。

聞き上手なハイエナコさんに俺も途中から「社会がおかしい」みたいな具合に愚痴っぽくなるのだが、途中で、社会のせいにして何か俺ダセー、と思い軌道修正。

次は自らを卑下し出す。

「まあ、でも当然なんすよね。俺が人事部の人間だったら、絶対俺なんて採用しないっすからね」

ハイエナコさんが正面に座り直し、少し前傾姿勢になり。

「あのね田島っち、あんたね。そういう考えがダメなのよ。そういう考え方だから相手に見透かされるのよ」

「まあ、分かってるんすよ。でも、事実だから仕方無いんですよ」

「違う。あんた逃げてるわ。そうやって逃げてるのよ。自分はダメな人間だから、こんな不遇な目に遭っても仕方無いって、そうやって逃げてるのよ。そうやって自分を裏切ってるのよ」

「いやいや、だって、ずっとこうですもん。俺だって嫌ですよ。自分を否定するのなんて。でも事実だから仕方無いんすよ。自分でさえもそう思うんだから……」

「そんな事無いの。そんな事言ったら私の周りなんて皆そうよ。でも、色々な人に世話になったり、頼ったりしながら、皆居場所を見つけるの。仲間を見つけるの。そしたら、誰かがテメエの長所とか人様に役に立てる部分とかをね教えてくれるの。そこから皆努力するのよ。傷ついたり、凹んだり、落ち込んだりしながら、でも色々な人に励ましてもらって、支えてもらって、そうやって何度も立ち上がって人様から求められる自分になっていくの。志田っち、あんたのは逃げでしょ」

「いやいや――」 

こんな感じの問答が繰り返された。

どんな励ましにも、「いやいや違うんすよ」を繰り返す俺。それでも「違うのよ」と言って励ますというより叱り続けるハイエナコさん。15分くらいだろうか、何を言われても頑固に抵抗し続けていると、突然ハイエナコさんがニヤリと笑った。

「田島っち。あんた、やるじゃない」

「えっ?」

「あのね、あたしにこんだけ強く言われ続けて折れない人って滅多に居ないんだから。あんた、まだ大丈夫よ」

「えっ? どういう事っすか?」

「それだけ抵抗する力が残っているって事よ。分かる?」

「は~」

「本当に自分を諦めた人だったらね。あたしがあれだけ強く言ったらね、適当にやり過ごすか、逃げるかするの。でも、田島っちは、ずっと本気でやり合ってた」

「は~」

「あのね。あんたの問題はね、その抵抗力の使い方よね。そこを変えれば、あんたまだまだ大丈夫」 

というと、急に慈悲深い笑顔になった。まだ頭はこんがらがったままだが、胸の辺りにスーッと爽やかな風が吹き込むような感じがした。多分、心に響いたんだと思う。

<続く>

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