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35.ウゼー俺と虎の未来。

2人の関係が終わってからというもの、週に3回も4回もハイエナコさんのお店に通っていた。一人きりの時間を減らしたかったってのもあるが、「あんたしっかりしなさい」という渇を欲していたんだと思う。

ホント、この時はやる気というやる気が蒸発しちまって、営業成績不振という形で仕事にまで影響が出ていた。もう、営業先で先方に会って面と向かって話すのさえ、かなり気合いを入れないと無理、という精神状態で1日に100回くらい溜息をついていた気がする。

しかし、甘やかす人が居るとこんなにダメになってしまう。彼女が甘やかそうがどうしようが、己を強く保てば良いだけなのだ。でも、俺がダメで、意志が弱いから、すぐに甘えて堕落する。もし、あのまま彼女に甘え続けたら、間違い無く元妻の時みたいに苦しめる事になるだろう。

この日もカウンターの端っこで、辛口の日本酒をチビチビ飲みながら自分を責めていた。
「俺ってマジダメな奴っすよね」
「いやいや、彼女もダメ男製造機なのよ」
「いや~、でも、俺が悪いんすよ。やっぱ根本がダメなんすよ」
「そんなこと無いからね。男女の別れなんてお互い様なのよ」
「ん~、でも、もう誰かを不幸にしたくないから、ダメ人間を克服する迄は……。」
「田島っち、あのね、貴方だけが原因じゃないの。貴方が甘やかさない人を選べば良いだけなのよ」
辛いお酒にハイエナコさんの慰めに……。

何か俺ってウゼー奴だな。

帰り。H駅で降りると、暗い夜道をトボトボと歩いた。時間は23時過ぎ。H駅から連なる商店街は真っ暗だった。赤提灯……、いや白提灯の崩れそうな軒先の飲み屋から、下手な「つぐない」のカラオケが聞こえてくるだけで、通りには人っ子1人歩いてなかった。

その商店街の中華料理屋と、中華料理屋の隣の建物との間に染み入るぼんやりとした街灯の白を目で追って行ったら2つの光る目を発見。2つの光る目が、中華料理屋のモノと思われる蓋の閉まったゴミ箱の前で佇んでいた。

「あれ?」
立ち止まってしゃがむと、「ニャー」という挨拶声を発して、コチラに歩いてきた。よく見ると虎だった。

「おー虎。おいおい。お前はこんな生活に慣れちゃダメだぞ。俺言ったよな。川の向こうの保護活動の人達に救ってもらえって」
「ニャー」
「あのな。お前だったらな、ペットにしたいって人居るぞ。最初から諦めちゃダメだぞ。いやいや、分かるよ。俺達にもな、家庭の教育でな、小さい頃から品行方正に過ごした奴がさ、大人になって爆発するケースはあるからな。でも、お前は後悔するぞ。なあブチは何て言ってた?」
「ニャ」
「そうだろ。お前はフーテン猫とか、吟遊猫向きじゃ無いって言ってただろ。いいか虎、お前は保護してもらえ。あと、もし食い物にありつくんだったらな、そこの肉屋さんが提供する飯にしな。座敷猫に戻る為にもな。お前は良い飯処にこだわるんだぞ。ブチにもお願いしておくから。な? 分かったか?」
「ニャー」

どうやら俺の言葉が響いたみたいだった。去り際、何度もコチラを振り返りって、感謝の視線を送っていた。

虎の未来に幸あれ!


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