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ホーチミンの中田商店「ヤンシン市場」

 ベトナム南部の大都市ホーチミンにミリタリーグッズを扱う市場があるという。東京・上野はアメ横のミリタリーウェアで有名な中田商店のような市場と聞き、行ってみることにした。

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 その市場の名前は「ヤンシン市場」という。ところが、マップで検索してもなかなかみつからない。よくよく調べてみると、ベトナム語でヤンシン市場はDAN SINHと書くようだ。発音もヤンシンよりはダンシンあるいはザンシンのような、ダとザの間の発音をする。外国語をカタカナで表現する場合には限界があるので、誰かが最初に言った「ヤンシン」がそのまま今も残っているのだろう。

 ヤンシン市場はホーチミン市1区にある。安宿街のブイビエンからも徒歩圏内だ。イメージとしては中田商店のような、あるいはタイの週末市であるチャトチャック市場のようなものかと思っていた。しかし、実際にはベトナム人の生活に密着した市場であった。

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 ベトナム語がわからないまま大まかに情報を訳してみると、ヤンシン市場が1954年までは賭博場があった市場だったという。それがその年からヤンシン市場という名称で再建され、米軍の払い下げのグッズが売られるようになった。新品もあれば中古品もあったりと、なんでも置いてあったという。

 ベトナム戦争時には従軍記者などが立ち寄り、備品を購入して戦場に向かったという話もある。ピューリッツァー賞などを受賞した報道カメラマンの沢田教一や、アンコールワット近辺でクメール・ルージュに処刑された一ノ瀬泰造もここで装備を買ったと言われている。

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 ベトナム戦争後の1978年から89年ごろは、ベトナム自体は外国との交流が絶えていたものの、ヤンシン市場は最盛期だったという。車やバイク、家屋などの部品や修理機械などを売っていた。この時期は国の情勢も関係して中古品が多かった。

 1990年代に入ると新品の機械や部品などが増えてきて、中古品やミリタリーグッズはどんどん減っていった。1997年には工業製品はベトナム人向けに、ミリタリーグッズは外国人観光客向けにシフトしていて、ヤンシン市場の最盛期は終了したと言える。

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 ヤンシン市場で扱う商品はミリタリーグッズのほか、先のように工業製品、それから服飾も多少あった。敷地はおよそ5000㎡あるということで、大半は屋根がついているので、雨でも買いものはしやすい。

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 こういう雑多な雰囲気はタイのチャトチャック市場に似ている。しかし、今や外国人もほとんど来ないし、情報通り、ヤンシン市場はピークをとっくに過ぎていることが窺える。

 しかし、ミリタリーグッズのショップが集まるエリアはなんともいえない、わくわく感があるのも事実だ。

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 ミリタリーグッズは雑多に商品を並べている店、ある程度決まった商品を扱う店など様々だ。ただ、ミリタリーグッズのエリアはあまり広くない。それでもなかなかの品揃えなので、ミリタリーグッズが好きな人には一見の価値がある。

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 取り扱っているグッズの中で、一番安いのはよくわからない写真とワッペンだ。まるでベトナムから撤退していった米兵たちの残していったもののような雰囲気で売っているが、ボクは正直、コピー品、あるいは量産品ではないかと疑っている。

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 こういったガラクタにしか見えないようなものもあるので、バンコクで言うと、中華街にあるクロントム市場に似ているかもしれない。もう一度言うが、これらは本当にミルスペックのグッズであるとか、ベトナム戦争時に使われていたものだという証拠はない。なんでもコピーする国柄なので、価格的に見てもすべてが本物というわけではないと思う。

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 20年以上前に日本のモノマガジンなどでよく取り上げられていたベトナム・ジッポーも結構たくさんある。これらは確実にニセモノもたくさんあるので注意が必要だ。ボクがこの市場のミリタリーグッズにニセモノが多いと思う理由のひとつがこのライターの存在でもある。

 並べられている古ぼけたライターの中には雰囲気だけを醸した量産型もあるし、ジッポー・ライターそのものがニセモノである場合もある。ただ、ジッポー・ライターは底面の刻印の仕方などで本物か否か、また製造年度などの見分けがつけやすいので、ちょっと勉強すれば少なくともニセモノを掴まされることはないだろう。

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 ヤンシン市場でミリタリーグッズを売る男性だ。観光客相手がほとんどのため、英語はかなりできるから、いろいろと質問はできる。

 ただ、東南アジア全体がそうだが、こういう市場の商人たちは生半可に生きていない。日本の雑誌やネットに出ているような情報は当然ながら押さえていて、かつプロとしての目利き能力が高い。日本の市場価格もしっかり把握していることも多いので、舐めてかかってはいけない。

 とはいえ、東南アジア人の優しさがあるので、彼らとタイマンで交渉の勝負に挑むのではなく、彼らの懐に飛び込んで教えてもらうようなつもりでいけばかわいがってもらえ、案外安くしてもらえることもある。東南アジアにおける買いもの術のひとつだ。

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 こういったブーツもたくさん売っている。これらには非常に興味があるのだけれども、どんな品質なのかがわからないのでいつも買えないでいる。こういったミリタリーブーツは中田商店でもボクは手を出さないので、ヤンシン市場で買うわけはないのだが、ついつい見てしまう。

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 イマドキの若い子はかけ方すらわからないであろう黒電話もあった。これって、本当に使えるのだろうか。いつも思うのだが、うまく電子装置を組み込んで、目覚まし時計にできないだろうか、と。この電話の音ってけたたましく鳴るイメージがあるので、目覚まし時計に改造したら絶対に起きられるような気がする。

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 バッグ類も充実している。あとはTシャツや帽子も多めで、しかもそれほど高くない。ガスマスクなんかも売っていて、よく見ると韓国製のものもあった。

 怪しさはかなりハイレベルなので、ホーチミン観光においてはベンタイン市場に行くくらいなら、ここをぶらぶらした方がよっぽどホーチミン市民の生活を垣間見られて勉強になると思う。

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