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船の米粉麺「クイッティアオ・ルア」

 タイの米粉麺クイッティアオは元々は中国の潮州からやってきた料理だという説が有力だ。クイッティアオには太麺、中太麺、細麺がある。材料は同じだが、食感が違うことで味の違いが出てくる。しかし、タイ麺類には小麦粉からできているバミーがあるなど、麺の種類で料理が決定づけられるわけではない。タイ麺料理はスープも重要な要素となることを忘れてはいけない。

 その中に、日本ではまず見かけないものとして「ナムトック」がある。ナムトック系にも種類がいくつかあるが、その中で最も有名なのが「クイッティアオ・ルア」、直訳すると「船のクイッティアオ」である。

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 このナムトックを語るにはその定義を紹介する必要がある。諸説あるので、そのひとつというイメージで捉えてもらいたい。下記は2017年8月ごろにタイ国内で発行している無料誌「DACO」のクイッティアオ特集でボクが書いた記事の抜粋だ。

・ナムトック系
かつて水路に浮かぶ船で売られていたナムトック。別名をクイッティアオ・ルア(船のクイッティアオ)。省スペースのため器が小さく、女性でも器をテーブルに積み重ねるようにしてたくさん食べる。

大別して牛肉と豚肉があり、最大の特徴はスープに牛か豚の血を混ぜること。砂糖やシーイウダムなどのほかに腐乳やトウガラシも入れ、辛味や酸味の強い濃いスープになる。バンコク都内では船での販売はまずないが、水上マーケットなどに行けば今でも船で作ったものを食べられる。

 大きな特徴はスープに血を混ぜることだ。これで味にどれだけ深みが出るのかボクにはわからないが。血抜きを注文することもできるが、それほど臭みがあるわけではないので、まずは血を入れたものを試してもらいたい。

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 具材もシンプルで、ルークチン(魚のすり身団子)、空心菜、肉が少し入っているくらいだ。

 注文も簡単で、クイッティアオの太さ、スープのありなし、牛肉か豚肉かを頼むくらい。

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 厨房ではどんどん作っているので、注文してからすぐに来るというメリットもクイッティアオ・ルアにはある。作ってないとしても、クイッティアオ、あるいはタイ料理はスピードも魅力のひとつなので、あっという間にテーブルに届く。

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 バンコク都内でクイッティアオ・ルアが有名なのは戦勝記念塔だろう。戦勝記念塔のロータリーの北東側に数軒、クイッティアオ・ルアの店が軒を連ねている。中でも上記画像の「パー・ヤック」が人気だ。

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 これは牛肉のクイッティアオ・ルアだ。麺が汁を吸ってしまっているが、それでも十分においしい。

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 これはちょっと大袈裟だが、こうやって丼を重ねるほど注文するのが普通だ。船で注文するクイッティアオだったので、器が小さく、その分、麺の量が少ないからだ。店によっては成人男性ならひと口で食べてしまうほどの量である。

 ボクの勝手なイメージだが、売れているクイッティアオ・ルアの特徴は丼のふちが欠けている。売れている店はこうやってみんな積み重ねて食べるので、丼が欠けてしまう。あくまでも個人的な印象だけれども。

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 クイッティアオ・ルアはそのまま食べる人もいるが、テーブルにはだいたい豚の皮のから揚げが置いてある。この店は別注文だったかで皿に入っているが、多くの店は袋に入っていて、破ると料金が発生する。待ちながら食べてもいいし、麺に入れてアクセントにするのもいい。

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 この店は珍しくて、ワンタンの皮のから揚げもあった。店によっては魚の皮を揚げているものもある。

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 クイッティアオ・ルアも一応調味料セットがテーブルにある。しかし、スープは標準状態でもわりと濃い。また、クイッティアオ・ルアは最初からスープにトウガラシ、酢、砂糖が入っていることがほとんどだ。空腹で食べると胃が熱くなるので注意だ。辛いのが苦手なら注文時に忘れずにトウガラシ抜きにするべきである。

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 これは豚肉のクイッティアオ・ルアだ。豚肉にすればルークチンは豚肉の、牛肉なら牛肉のルークチンが入る。わかりにくいが、これも麺がひと口分くらいしかない。女性でも2口3口で食べられる。

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 クイッティアオ・ルアの基本はナムトック系のスープだが、中にはこういう普通のクイッティアオと同じようにナムサイ(透明スープ)もある。スープなしもあるわけだし、麺をバミーにすることもできるので、クイッティアオ・ルアの定義は最早「丼」にあるのかもしれない。

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 戦勝記念塔だけでなく、タイ各地に人気のクイッティアオ・ルアの店が点在する。バンコクとその周辺で集合地帯として有名なのが戦勝記念塔、それからアユタヤのチャオプラヤ河沿いなどがある。あとは、後述するグルンテープ・グリーター・タットマイ通りもクイッティアオ・ルアの店が多い。

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 クイッティアオ・ルアはどこも昔ながらの店構えになっている。

 木の前にある水タンクも、最近はかなり減ってきた気がする。前はどの屋台にもあって、自由に飲んでよくて、中を見ると消毒液が入っていて赤くなっていて。あの薬品臭も今では懐かしい味だ。

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 最近は1杯が20バーツくらいになっているので、以前のように丼を積み上げて食べるには割安感がなくなってきたのは残念なところだ。

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 センヤイ(太麺)のクイッティアオ・ルアだ。

 ボクはいつも何杯も最初に頼んで、来たら2~3杯をまとめてしまってから食べている。ちまちま食べるのが面倒だからだ。

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 これはヘーン(スープなし)だ。日本の油そばみたいな感じかな。こうなるとナムトック系もなにもない気がする。

 最近は大盛りのピセートも普通にある。そうなると一般的なクイッティアオの丼と同じくらいの量になる。それでもお得感がないので、最近はクイッティアオ・ルアはやや高めのクイッティアオ料理って感じでしょうか。

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 最近知ったのだが、シーナカリン-ロムグラオ通り(地元民はグルンテープ・グリーター・タットマイ通りとも呼ぶ)という新しく開通した通りにもクイッティアオ・ルアの店が多い。人気店も少なくないみたいで、昼時は結構な数の車が路上駐車していたりする。

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 この店なんかはなぜか鳥がたくさんいて、小鳥の鳴き声を聞きながら食事ができる。だからなにって話だが。

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 これってなんだろうか。最初はガチョウとかの一種かなと思っていたが、烏骨鶏だろうか。最近観た動画でネコに飼っている烏骨鶏の雛を食べられてしまい、エアガンで復讐するというのがあったのだが、その鳥が似ていた。

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 忘れていたが、クイッティアオ・ルアの店には豚の皮などのほかに生野菜もある。皮は有料だが、これは無料だ。もやしと香草が入っていて、好きなだけ入れることができる。

 ちなみにこの香草は大体ホーラパーである。ホーラパーはタイ・バジルとも呼ばれるバジルの一種だ。バジルのご飯であるガパオ・ライスのバジルとは種類が違うが。ホーラパーはベータカロチンが豊富で、ガンの予防に効果的であると言われる

 タイ料理の香草は漢方の生薬のような意味合いがある「サムンプライ」としてタイ伝統医学にも使われている。タイ伝統医学には中国伝統医学の「医食同源」の考え方はないものの、タイ料理の中には病気予防に効果的なものが少なくない。たとえば、トムヤムクンのトムヤムスープも香草が多用されるため抗ガン効果があるとされ、タイ人の食生活がタイ料理中心だった時代、タイ人の死因の第一位がガンではなかったくらいである。

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 この店のシーナカリン・ロムグラオ通りの人気店のひとつ「プン・トー」のクイッティアオ・ルアはこんな感じだった。

 なぜかスープがかなり辛った。ボクは牛肉を、妻は豚肉を頼んだのだが、豚肉はほどよい辛さなのに、牛肉は異様な辛さであった。単にトウガラシの投入ミスだとは思うが。

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 この店のメニューだ。クイッティアオ・ルアの普通盛りで20バーツ(一番上)、大盛りで30バーツ(2番目)なので、やっぱり最近のクイッティアオ・ルアは高い。

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 この店にはデザートもあった。タイの伝統菓子というか。陶器の、醤油皿くらいの大きさのものが合わさっている。

 菓子の名前は「カノム・トゥアイ」だ。直訳は「器の菓子」である。もうちょっとひねることはできなかったのだろうか。

 いや、こうやっていちいち名称にこだわるのは日本人の悪いクセかもしれない。名前はむしろシンプルな方がいい。タイ語の名詞なんて多くがシンプルで、初めて聞く単語でもすぐにそれがなにかわかる。屋台なんかは店名も用意していなくて、クイッティアオの屋台は「クイッティアオの屋台」と呼ばれる。それでいいのだ。

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 器を開いてみると、それぞれにココナッツが詰まっている。ここはこのふたつが必ず1セットで、10バーツという値段設定だった。

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 スプーンで掬うと、ココナッツミルクの下にサンカヤーのクリームが入っていた。サンカヤーとはバイトゥーイから作ったタイの伝統カスタードクリームである。

 サンカヤーの材料はほかにもあるみたいだが、代表的なのがバイトゥーイで、クリームが緑色になるのが特徴だ。香りはクセがあるので、好き嫌いが分かれるでしょう。

 バイトゥーイとはパンダンリーフのことで、タコノキ科の植物だ(ニオイタコノキというのかな?)。マレーシアなどでも多用され「東洋のバニラ」という別名もあるとか。これも一応サムンプライの一種で、滋養強壮とか、心臓系への効果、体温を下げるといった効能があるようだ。

 話は逸れたが、クイッティアオ・ルアはやや料金的に高い印象があるものの、スープは濃いめなのでパンチがあり、ときどき食べたくなる。タイに来たらぜひクイッティアオ・ルアを堪能してほしい。

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