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タイ「クワイジャップ・ユアン」とラオス「カピヤック・セン」は同じ?

 タイの麺類と言えば米粉麺のクイッティアオだが、その米粉麺の一部に「クワイジャップ・ユアン」というものがある。クワイジャップは一般的には米粉麺を作る過程の中でできあがるシートを小さく切って丸めた、マカロニのような麺類だ。しかし、これにユアン、すなわち「ベトナム」をつけるとたちまち形が変わり、一見うどんのようなモチモチとした麺類になる。

 クワイジャップ・ユアンはタイ国内の一般的な呼び方で、ラオスなどではカオピヤック、あるいは「カオピヤック・セン」と呼ばれる。まったく同じ料理にしか見えないのだが、果たして同じなのかどうか。

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 そもそもなぜクワイジャップ・ユアン、ベトナムのクワイジャップと呼ばれるのか。

 まず、タイは多民族国家であるということを前提にしなければならない。同時に、様々な国と陸続きになっている。これによって民族の移動や移住があちこちで起こった。そもそもタイの主要民族である小タイ族も元々は中国から移住してきた移民の子孫であるとされる。

 そんな移住民族の少数派にベトナムから来た民族がいる。様々な時代に移住してきたとされるが、アユタヤ王朝時代の移民が多かったらしく、今のタイ東北地方などに多く移り住んだようだ。このベトナムの民族をタイではユアンと呼んだ。

 東北地方のウドンタニー、ウボンラチャタニー、サコンナコンなどにベトナム人の子孫が多いという。そのため、これらの地域にはベトナム由来の料理も多い。春巻きのようなものであるネーム・ヌアンが特に有名だ。そして、その中にクワイジャップ・ユアンがあるのだ。ベトナムからの移民が作りが始めたのがクワイジャップ・ユアンの発祥説のひとつだ。

 ところが、当の主にクワイジャップ・ユアンを食べる地域ではクワイジャップ・ユアンと呼ばない。そのときの呼び名が「カオピヤック・セン」なのだ。結局のところ、地域で呼び名が違うだけで、どれも同じ、というわけだ。

 場所によってはカオピヤックとだけ呼ぶ。しかし、別の地域ではカオピヤック、すなわち「濡れた米」はおかゆなどを指す。そのため、そういった地域では混同しないよう、カオピヤックに麺という意味のセンをつけカオピヤック・センと呼ぶ。

 タイ東北地方は元々ラオス領内だったこともあるので、文化的にほぼ同じ地域と言っていい。そのため、ウドンタニーに近いラオスにもクワイジャップ・ユアンが伝わり、カオピヤックと呼ばれるようになっていると見られる。ベトナムと隣接しているものの、あくまでもカオピヤックはタイから伝わったとされているようだ。

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 クワイジャップ・ユアンとクイッティアオの違いは、米粉を主原料にすることは同じなのだが、クワイジャップ・ユアンはさらにデンプンともち米の粉を加える

 これによってクワイジャップ・ユアンはモチモチ、というかクニュクニュとした食感になる。うどんのような雰囲気というのか。また、この麺のデンプンともち米の成分が若干溶け出すのか、食べているうちにスープにとろみがついてくることもある。

 タイ国内ではウドンタニーやウボンラチャタニーならこの麺屋をよく見かけるが、バンコクはかなり限られている。それほどメジャーな料理ではない。一方、ラオスなら、少なくとも首都のビエンチャンであれば人気店が多数ある。

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 上の2枚の画像はビエンチャン市内にあった、ナンプーカフェという食堂だ。ここのカオピヤックがシンプルでおいしく、地元民が昼になるとたくさん訪れる店だった。残念ながら2016年ごろに閉店してしまったと地元在住の知人から聞いている。

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 こういったシンプルなカオピヤックで、麺がたっぷり入っていた。具材はムーグロープ(ブタの三枚肉のから揚げ)と空心菜やネギなどだった。タイ国内だと東北地方の料理ということで、ムーヨー(豚肉のすり身を蒸したソーセージのようなもの)が主要な食材になるので、ラオスのカオピヤックは妙に新鮮な印象だった。

 スープの味は極めて薄い。タイのクイッティアオも薄味だが、それ以上の薄さだ。そのため、タイの麺類のようにテープルにあるナンプラー(魚醤)や酢、砂糖、トウガラシなどを使って好みの味に仕上げていく

 バンコクではほとんど見ないクワイジャップ・ユアン食堂だが、スーパーならどこでも乾燥麺を売っている。ボクの妻がよく自宅でクイッティアオを作るのだが、たまにクワイジャップ・ユアンを使うこともあって、これが案外イケる。

 ボクの個人的な好みで言えば、クワイジャップ・ユアンは濃いめのスープに合う。うどんのような食感であると同時に麺の表面が柔らかくなっているので、スープを吸いやすいからだ。とはいえ、タイでもラオスでもクワイジャップ・ユアンあるいはカオピヤックは薄味と決まっている。タイ人は特に食に関しては保守的で冒険をしない。だから、今のところ、クワイジャップ・ユアンの濃いめスープはどこにもないのが残念なところだ。

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