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イェンタフォーは色合いがあれだが意外とイケる麺類のひとつ

 タイの麺類と言えば米粉麺の「クイッティアオ」でしょう。潮州料理の麺料理「粿条」がタイに伝わったものだとされる。「粿条」の中国語読みが「クエティオウ」なんだそうで。まさにクイッティアオの原点だ。ベトナムのフィーティウ、カンボジアのクイティウも同じルーツだとされる。

 そんなクイッティアオは麺の太さによって食感の違いが楽しめるし、スープのあるなし、炒めるなどいろいろとバリエーションがある。スープもあらゆる種類があり、しかも店によって個性があって、とにかく奥が深い。

 その中で、珍しいと思うのは「イェンタフォー」と呼ばれるスープだ。赤い色のスープで、日本人の感覚だとちょっと抵抗感がある。しかし、食べ慣れるとタイの高温多湿の中において、胃を活性化させる爽やかな味わいとして感じられるようになる、実に不思議な麺料理なのだ。

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 イェンタフォーはスープが赤い色をしていて、甘酸っぱい味だ。多くの店で入れられる具材はシーフードである。空心菜などの野菜のほか、ルークチンというイカなどから作られたすり身団子、すり身を揚げたもの、豆腐を揚げたもの、キクラゲ、血を固めた豆腐みたいなもの(豚の血?)などが入っている。干したイカを水で戻したものを入れている店もある。

 クイッティアオと言えば、こういった調理台でささっと作られ、供されるものだ。タイ料理はスピードが命で、クイッティアオは素早く食べられる軽食としてもいける。

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 クイッティアオはできあがった段階ではかなり薄味になっている。それを卓上の調味料4点セットで味つけしていく。ナンプラー(魚醤)、酢、乾燥トウガラシ、砂糖がセットになる。それぞれが陰陽のように味を引き立て合う。

 スープの中にはトムヤムスープなんてのもあって、こういうのは濃いめなので、それほど味を加えなくていい。一般的なクイッティアオよりもトムヤムスープは完成形で供されるのだ。ちなみに、トムヤムスープと言っても必ずしもトムヤムクンのようなスープではない。タイ式の辛味噌を「ヤム」している、すなわち和えているスープと思った方がいい。

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 イェンタフォーもわりと味的には完成度が高いとボクは思う。だから、特になにもつけ足さなくてもいいのではないか。

 そもそもイェンタフォーはなぜ赤いのか。

 これは「紅腐乳」という調味料が入っているからだ。腐乳は中国の調味料で、簡単に言えば豆腐に麹をつけて塩水の中で発酵させたものである。紅腐乳は特に紅麹につけることで赤くなるのだとか。

 イェンタフォーはおそらく潮州料理ではない。というのは、タイでは「イェンタフォー」の語源は客家語だとされる。客家語の「釀豆腐」のことで、これの読み方がヨンテウフーであり、タイ語訛りになってイェンタフォーとなったとか。

 ただ、釀豆腐自体は紅腐乳とは関係ないみたいだ。釀豆腐は豆腐をくり抜き、そこに豚肉を詰めて焼いたり揚げたりしたもののようである(正直このの豆腐料理は詳しくなく・・・・・・)。

 この作り方の料理は別にタイにある。それは「ルークチン・ケ」と呼ばれている。直訳すれば客家のすり身団子だ。豆腐に肉を詰めて揚げているものがそれだ。

 推測するに、どこかで間違って釀豆腐の呼び方が、紅腐乳を使ったスープと混同され、イェンタフォーと呼ばれるようになったのだろう。

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 上の画像は真っ赤なイェンタフォーだ。これぞイェンタフォーの王道と言えるものではないか。具材やスープの色合いがまさにイェンタフォーだ。

 一方、その下の画像もまたイェンタフォーである。具材を見ると、上の画像とそれほど違いはない。ただ、スープがあまり赤くない。具の上に少し赤い調味料が見える程度だ。それでもこれはイェンタフォーなのだ。

 このふたつのイェンタフォーの違いは、なんと紅腐乳を使っているか使っていないかの違いだ。「いや、イェンタフォーは紅腐乳の赤じゃないの?」となるかもしれないが、近年はイェンタフォーは赤いスープ、あるいは赤い調味料を使った甘酸っぱいスープのクイッティアオを指すようになった。紅腐乳の使用が定義ではないのだ。

 最近はイェンタフォーの調味料の赤や酸味に紅腐乳を用いず、トウガラシやトマトを使うようになっている。上記下段のイェンタフォーはトマトを使っているものだ。

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 このトマトのイェンタフォーはシーロム通りソイ・コンベントにある「イェンタフォー・コンベント」で食べられる。創業からおよそ40年が経っており、一番上の画像に写る調理中の女性、シリポーン・パーンスワンさんが店主である。

 元々はシーロム通りのインド寺院そばで叔母が店を出していた。そして、その叔母からシリポーンさんの母がレシピをもらって店を開業している。イェンタフォーの赤みの素はトマトなどを使い、紅腐乳は不使用だから、ほかのイェンタフォーとは違う。

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 これがこの店のイェンタフォーの素である。外見的には他店の紅腐乳を使っているものと大差はないが、中身が違うわけだ。

 トマトを使っているからか酸味が柔らかく優しい。具材も鮮度重視だそうで、50バーツ前後でこれだけおいしいイェンタフォーが食べられるのだから人気にならないわけがない。毎日、近隣のオフィスビルやBNH病院から人々が朝食や昼食を食べに訪れている。

 今はこういった騒動になっているので、営業時間や場所が変わっているかもしれないが、とにかくボクはここで食べて、イェンタフォーを見直した。また近々食べに行きたい。

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