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ココナッツアイスは昔ながらのアイスクリーム

 タイの伝統菓子の中に「アイティム・ガティ」がある。最近はアイサクリーム・ガティとタイ人も呼ぶようになった。昔はアイスクリームがアイティムだったのだ。ガティとはココナッツミルクのことだ。要するに、アイティム・ガティはココナッツアイスのことだ。タイでは今も昔ながらの製法で作る人も少なくない。中が二重構造になった円筒形のタンクで作り、そのままそれを荷車に乗せて売り歩く。ときに湿気ったコーンに載せ、ときに食パンやコッペパンに挟んでくれる。昔ながらの製法だと今のアイスのようなクリーミーさには欠けるが、ホッとする味がする。

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 アイティム・ガティはどこにでもある。そして、年中ある。特に郊外の住宅街などで売り歩く屋台は安く、おいしい。それを前述のように、コーンかカップで食べる場合もあるし、タイでは食パンやコッペパンに挟み、練乳をかけたりして渡してくれる

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 タイ式のゼリーなどのトッピングがある店も多い。赤い豆や寒天のようなもの、果物、タピオカなどといろいろある。毎日暑いタイでは道端でアイティム・ガティの行商を見かけると、多くの人が駆け寄り、楽しそうに注文している姿を見かける。アイスクリームは国境を越えて、夏に人をワクワクさせるものなのだ。

 アイティム・ガティは伝統菓子といっても歴史は長くない。アイスクリームの製造機が発明されたのも近代で、タイに入ってきたのは長い歴史の中では最近と言ってもいい。そして、冷たい菓子なのでどうしても氷がなければ作ることができない。だから、アイティム・ガティが生まれたのは、タイでも氷が手に入る時代になってからの話である。

 アイティム・ガティの作り方は簡単だ。今ならアイスクリーム製造機で作れるが、かつては木桶に氷を張り、塩を入れて温度を下げ、金属製の筒に材料を入れてグルングルン回して作った。今の筒はステンレス製が多いようだ。それでもぐるぐる回すやり方は同じなので、行商のタンクを見せてもらうと、手作りなら遠心力でアイスクリームが筒の壁に貼りついている様子が見られる。

 昔はココナッツミルクに氷を混ぜたりしたこともあったようだ。また、ココナッツの実を入れたり、タマリンドの種を煎って砕いたものを入れていたという。要するにアイティム・ガティの初期版は食感が全然違ったらしい。

 欧米でアイスクリームといえばミルクや生クリームを使うが、タイでは牛乳は高価だった。だから、色合いも似ているし、英語なら同じミルクだから、と誰かが言ったのか言ってないのかわからないが、安価で手に入れやすいココナッツミルクが代用された。そうして、タイ・オリジナルのアイスクリームが誕生したのだ。

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 最近はレトロブームにもなっているタイだ。こういった昔ながらの伝統菓子をお洒落に出してくれる店も増えてきた。とはいっても、アイティム・ガティができるお洒落とはなんだろうか。せいぜいこれくらいだ。

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 本物のココナッツの実にアイティム・ガティを入れて出す。これくらいがアイティム・ガティのせいぜいのお洒落だろう。だからこそ、このシンプルさがまたいい。

 ちなみに、これを食べたのはチャトチャック・ウィークエンドマーケットである。時計塔の近くにあった店だったと記憶している。

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 食や文化、人種的にかなり近いラオスにもアイティム・ガティがあった。ラオスはタイの北側と東北側で接している社会主義国で、歴史的にタイにかなり似ていると言っていい。言葉もそうだし、食べものも似ている。

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 ラオスの首都ビエンチャン、オペラハウス近くにあったこの店は、アイティム・ガティのほか、いろいろなアイスがあり、もち米と一緒に食べていた。

 一見もち米と甘いものは合わないような気がする。タイでは完熟マンゴーなどと一緒に食べるし、伝統菓子の中にはもち米を使ったものが多い。その場合、もち米はココナッツオイルやミルクなどを合わせてあって、甘くなっている。

 日本だって大福だとか、餅に小豆という組み合わせが普通にあるじゃないか。だから、アイスクリームともち米だって、思いっきり変なものというわけではない。

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 このビエンチャンの店は、ビエンチャンで発行される日本人向け無料誌で紹介されたようで、店主がそのページを切り抜いて飾っていた。創業から50年は経っている店だったのだが、ラオスも今回のコロナ禍で外国人が入国できなくなるなどの措置が取られたので、国内の経済も大変なことになっているだろう。この店も今も残っていればいいのだが。

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