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デパートでスーパーカーを買うタイ

 タイ、特にバンコクは2010年前後からなんでも揃い、なんでも食べられる街になった。それ以前は発展しているとはいえ、ほしいものが手に入らないということがままあった。この変化はネットの発達、スマートフォンの普及、そしてタイ人、特にバンコクの人たちの所得が上がってきたからというのが大きな理由だろう。今も地方は変わらないところがあるが、バンコクは中流層の数が増えた印象だ。

 ただ、その兆候はそれ以前からあった。BTSサイアム駅前の高級デパート「サイアム・パラゴン」の登場で随分、陳列される商品やタイ人の物欲が変わったとボクは感じている。たとえば、ここに日本から進出してきたラーメン店がテナント料もあってか200バーツ超の価格をつけてきた。それ以前は日本式のラーメン店はせいぜい100バーツ台だったが、これ以降、バンコクに進出するラーメン店はパラゴン以外であっても200バーツ300バーツの設定にするようになった。案外、パラゴンの店舗の影響力は大きかった。その店はその後バンコクから撤退しているけれども。

 それくらいサイアム・パラゴンの開業は衝撃的だった。ボクが最も驚いたのは、品揃えだけでなく、スーパーカーのメーカーがテナントに入っていることだった。

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 サイアム・パラゴンは2005年か2006年にオープンしたデパートだ。それ以前は高級ホテルがあったものの建物は低く、BTSサイアム駅のプラットホームからプラトゥーナーム方面までよく見えたものだ。そこが取り壊され、パラゴンができあがった。

 これまでタイのデパートではあまり見なかった、日本のデパ地下的に下のフロアに飲食店が満載ということに、初めて入ったときに感動した。そして、同時に値段の高さにも思いっきりショックを受けた。

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 そして、なによりデパートの中で車を売っていることにもパラゴンの本気を見た気がした。少なくともボクが日本に住んでいたころに商業施設内で車を売るなんて見たことがない。今は実家近くの越谷レイクタウンなら国産車の販売店があるが、それでもスーパーカーを置いているなんていうのは日本では今もそうあることではないでしょう。日本をよく知らないからあるかもしれないけれど。

 また、タイでも高級車をデパート内で売るなんて見ることはなかった。商業施設の催事スペースでたまに日本車などの展示をすることはあったが、常設はたぶんパラゴンがタイで初めてではないだろうか。

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 これは最近のパラゴンの画像で、フェラーリのグッズショップのようになっていた。まあ、これくらいならわかる。これならグッズショップなので、フェラーリファンが来ることもあるでしょう。

 ただ、タイはモータースポーツの流行が特殊で、F1はあまり観られていない。隣国のマレーシアならF1が開催されているが、タイは2012年くらいから開催の噂があったものの、ついぞ開催されず。タイ国内ではGTカーレースに似たスーパーカーレースが最高峰シリーズで、若い人はドラッグレースを好む傾向にある。あとはドリフトか。だから、フェラーリファンなんてタイにはそんなにいないと思うのだが。

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 このマシンは本物なのだろうか。ボクはアイルトン・セナが全盛のときにF1を観ていたが、それ以降は全然わからない。タイ人は手先が器用だから、こんなモックなんかは作れそうな気もするし、富裕層は金持っているので、買い付けてきそうな気もするし。

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 パラゴンは高級デパートとはいえ、中流以上の層も足を運ぶ商業施設だ。とはいえ、さすがにスーパーカー、ラグジュアリーカーのブランドのブースにおいそれと入る人はいない。さすがに「空気を読む」ね、タイ人も。

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 ポルシェなんかもこのように展示している。だいたい、タイにおいて誰がこんな車を買えるというのか。特定の層しか買えないのだから、出店している意味もよくわからない。

 タイは車がとにかく高い。日本よりも高いので、十数年前までは普通の車でさえ買う人が限られていたのに、今になっていくら中流層が厚くなったからといって、さすがにスーパーカーに手を出す人は少ない。車も高ければ、すなわち部品も高いので、維持費も日本の何倍にもなる。

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 実際にどれくらい高いのか。プライスリストが出ていない高級車メーカーも多いので、値段が日本とタイで確認できる車で見てみよう。

 たとえば、ベンツのレース部門とでも言おうか、AMGというブランドがある。日本のスーパーGTには出ていないかもしれないが、ドイツや他国のスプリントレースや耐久レースなどでよく見かける、AMGのレースマシンを元にした市販車「AMG-GTR」だ。日本のカタログだと「Mercedes-AMG GT Coupé」という名称になっているはず。

 この車種の中で一番高い、一番レース仕様に近いクラスがGTRになる。価格は下記の通りだ。

Mercedes-AMG GT R=24,260,000円
Mercedes-AMG GT R=18,000,000THB(≒62,478,774円)

 両方とも税込み価格で、タイは消費税7%になっている。レート的には執筆時点で1バーツが3.47円のようなので、1800万バーツは6200万円超だ。つまり、日本で2430万円の車がタイでは6250万円というわけだ。

 2012年ごろにタイのスーパーカー選手権を観に行ったときに、ランボルギーニの正規代理店の社長がランボルギーニで出場していた。そして、そのときにわざわざ日本のランボルギーニのチームメカニックを呼び寄せて整備していたのだが、メカニックから聞いたら、呼ばれてきたものの、レース場で車を見たら部品の組み方とかめちゃくちゃで、日本ではあり得ないレベルだった、と言っていた。

 日本の2.5倍以上も金を出して、日本よりもずっと低い整備力で維持しなければならない。買える人も限られているので、いざ買い換えるとなっても買い手を見つけることが難しくて、売るに売れない。全っ然メリットがない。

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 パラゴンのスーパーカーもこうやって車の横に仕様諸元や価格などを提示しているが、一体誰のために出しているのやら。

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 そもそも一部のスーパーカーショップは扉を閉ざしていて、一般人が入ることすらできない。ただ看板を置くためだけに出店しているようなものだな。

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