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MBKの偽シャツは意外と丈夫

 外国人にもタイ人にもよく知られた商業施設「MBKセンター」はかつてはマーブンクローンセンターと呼ばれていた。ボクが初めてタイに来たときはタイ人も外国人もマーブンクローンと普通に呼んでいたものだ。確かにちょっと名称が長いからMBKの方がいいのかもしれないが、ボクからするとMBKはまだしっくりとこない。

 そんなマーブンクローンは外国人にも注目されることもあって、外国人向けの土産物もある。こんな時代になってもまだ堂々コピー品を売っている店もあるが、ここで売られているTシャツやポロシャツはなんだか怪しいものもあるにはあるものの、案外、縫製がしっかりしている。

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 MBKは1974年創業の物流系企業が、1985年に開業した、当時タイ最大の商業施設だ。創業数年でリテール業に進出したようで、マーブンクローンは規模の大きさに開業から話題になったようだ。

 マーブンクローンはその最初の会社の社名から来ているのだが、創業者のシリチャイ・ブングン氏の父であるマーさんと、母のブンクローンの名前を合わせ、マーブンクローンという名称になった。両親の胸像がパヤタイ通り沿いの正面出入り口に飾ってある。

 1990年に社名がMBKに変わり、その10年後、2000年にMBKセンターに商業施設の名称も変更となった。ボクが初めてタイに来たのが1998年なので、その2年後には変わっていたわけだが、初めの印象が強くていまだにマーブンクローンと呼んでしまう。

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 どれだけインパクトが強かったかと言えば、毎日通ってしまうくらい、ムチャクチャ楽しかった。今は値札がついていて、ほとんど値下げなんかされないけれど、当時は値札がない店が多くて、いちいち交渉しないといけない。そのおもしろさがあった。

 それから、いろいろなものが売っていて飽きなかった。当時は大半がコピー品だったけれど、なんでも安かったし、若い人もたくさんいて活気があった。そのころにできたタイの友人とも待ち合わせるとだいたいマーブンクローンだった。映画館も安かったし、映画館フロアにはボーリング場があったり、遊びはなんだってここだった。

 今はだいぶ減ったが、名刺やステッカーをオリジナルで作ってくれるショップもたくさんあった。帽子や服だって、頼めばなんだって作ってくれる。そんな場所でもあった。

 2000年代に入って、ほとんどの人が携帯電話を持つようになると、さらにマーブンクローンが輝く時代になる。当時はノキアがみんなの憧れで、あとはモトローラとかも人気だったな。多くがむしろ中古端末で、買い替えたいときはまずはここに来て端末を売却し、新しい携帯電話を買った。アクセサリーも充実していて、今のスマホのような外側のケースではなくて、ボディそのものを変えることができたりと、楽しみもたくさんあったものだ。

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 上の方の階に今は土産物店だけを集めたフロアがあるが、当時はここまで大きくなかったし、ひとつに集まっていなかったはず。その代わり、タイの代表的な商品のロゴが入った怪しいTシャツを売る店が多かった。

 当時はシンハビールのロゴか、白地のTシャツにタイ語でグラティンデーンのロゴが入っているものが人気だった。グラティンデーンは海外ではレッドブルと呼ばれる。要するに、偽物だけど、レッドブルのオリジナルのロゴTシャツが手に入った。人気は白地に襟とか袖の縁が紺色になっているタイプ。ちょっと体操着みたいだけれども、欧米人はみんな着ていた。

 ほかにも無地のポロシャツもあった。ロゴが入るタイプもあって、ワニのワッペンみたいなロゴとか、もうちょっと時代があとになると猿の惑星みたいなロゴが入っているのもあった。なんなら、アイロンで押しつければポロシャツに貼れるそういったブランドの小さいワッペンも売っていたり。

 こういった偽物のシャツは一見、洗濯したらヨレヨレになりそうなものだが、意外と丈夫なものが多かった。プラトゥーナーム市場、ボーベー市場などだと安い服は確かに最初の洗濯で伸びたり色落ちすることも多々あった。でも、それなりの値段だとちゃんとしたブランドの服と大差ないほど丈夫だ。

 たぶん、これはタクシン・チナワット元首相が在任中のころからだと思う。今でこそタイの政情不安の元凶みたいな人ではあるが、在任中にファッション関係に力を入れた。当時カンボジアとベトナムに服飾の世界的メーカーが進出していることを見て、タイの服飾業界も向上させようとしたのだ。その結果、タイの縫製技術が向上し、若いデザイナーがたくさん現れてタイのファッションが世界でも注目されるようになったわけで。

 その関係か、コピー品まで向上した。無地のポロシャツならコピーもなにもないが、先のようにブランドのロゴを偽造したりするので話が変わってくる。でも、実際に丈夫で、ボクも購入したポロシャツが何年も着られたくらい。ボクなんかファッションに興味がないので、オリンピック開催スパンよりも長く服を買わないのだけれども、4年なんて余裕で乗り越えられたくらい丈夫だった。

 ちなみに、マーブンクローン以外で丈夫なTシャツというと、実はゴーゴーバーで売っていたりする。店によって違うので全部というわけではないが、ウェイトレスなどの店員が来ているユニフォームが実は結構頑丈だ。これも何年着ても毛玉ができないくらい。当時は仲よくなった店員に頼むと購入できた。今は土産用に本物のユニフォームとは違うバージョンを売っている店も多いので、その場合はもしかしたらよくないかもしれない。

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 余談だけれども、こういった象の柄のパンツを「タイ・パンツ」と呼ぶらしい。ボクがタイに来たころはこのパンツはまだなかった気がする。こういったパンツを穿いている、自分探ししているバックパッカーならわんさかいたが、彼らはこういったズボンは日本出発時に大概穿いていたし、おそらくインドとかその辺りでなにかに感化されて着始める輩もいたと思う。

 だから、ボク自身はここ数年まで全然知らなかったが、観光客は特にこれを好んで穿くケースが多いらしい。言われてみれば、確かに日本人を始めとした外国人観光客に穿いている人をよく見かける。タイ人で穿いている人をほとんど見たことがない。それなのにタイ・パンツと呼ばれるわけで。

 おもしろいのは、タイ在住の日本人の多く、特にこのパンツを話題にする人は高確率でタイ・パンツを嫌悪している。日本人はみんな同じような服を着るから異様に見えるというのはあるのかもしれないが、それでいえば自分探しのバックパッカーもだいたい見た感じは同じような格好してたからな。「コイツ、自分探ししてそう」ってヤツは高確率で自分探しの話するんだよ、これが。今はタイ・パンツが主流なんでしょう。

 ある友人はタイ・パンツをとてつもなく嫌っていて、普段、とても温厚だけど、タイ・パンツを穿いている日本人を見ると体を震わせながら呪詛かと思うような言葉を口にした。本人たちには聞こえていないけれども、なんでそこでスイッチが入るんだろうなと、不思議に思う。だから、マーブンクローンとかでタイ・パンツを見ると、そのことばかりを思い出してしまう。

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