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タイ料理だけどタンドリー的なチキン「ガイ・オップ・オーン」

 タイ料理のヤキトリといえばガイヤーンが名称的には一般的だが、一部地域にはその土地特有の味つけをしたガイヤーンもある。また、特殊なところでは、バンコクから西に行ったところに太陽光を鏡で集めて焼くという店があるなど、調理方法が特殊なケースもある。

 そんな調理法で注目するなら、壺あるいは窯で焼くガイヤーンもある。鏡のガイヤーンと違ってこのタイプは各所にあるようで、ボクはタイ東部の港町シーラチャーの郊外で初めて食べた。

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 この手法で作ったガイヤーンは「ガイ・オップ・オーン」という。直訳すると壺で蒸した鶏肉なので、正確にはガイヤーンではない。でも、蒸し焼きなのでガイヤーンと言ってもいい気もするし。

 ヤーンに関して言えば、日本語だと単に「焼く」と訳すケースが多いが、正確には直火でじっくり焼くといった意味合いがある。ほかにも「焼く」にはピンとパオがある。ピンはムー・ピンという南部の豚串焼きが有名で、これは炙りで焼いたもの。パオはエビの炭火焼きグン・パオなど、ボクのイメージでは魚介類の調理によくある気がする。このパオは強火で一気に焼き上げるというような意味合いがある。

 オップは蒸すという意味だが、「蒸す」もタイ料理の用語だとほかにもヌンというものがある。魚の形をした鉄板の上に主にプラーガポン(バラマンディ、スズキの仲間)を載せて、醤油味(正確にはシーイウ・カーウなので中国の白醤油)やブアイ味(梅味)のスープで煮込んだ料理がヌンと呼ばれる。前者であればプラーガポン・ヌン・シーイウ、後者はプラーガポン・ヌン・ブアイとか。

 ヌンはわりとちゃんとした蒸し器や鍋などで強く蒸す、あるいは煮るイメージがある。一方オップは、五香粉などをふんだんに使った春雨とエビの蒸し煮グン・オップ・ウンセンに見られるように、強い火ではない中で長めに蒸すような感じかなとボク個人は思う。あとは蓋をして蒸すような。つまり、オップは必ずしも水蒸気に当てるものではなく、蓋をした調理器具の中で、直火に当てないで火を通すものなのかな、と解釈する。

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 だから、ガイ・オップ・オーンは壺の中で直火に当てないよう、わりと低温で調理したガイヤーンのひとつなのかなと思う。

 引きの画像だとオーンの柄がわかるが、なぜかタイの壺、特に水瓶はだいたいこの柄だ。そして、大概どの家にも最低ひとつはある。さすがにコンドミニアムにはないが、一戸建てなら絶対あると言っていいかもしれない。

 このタイプのオーンは雨を受けて水を溜めるためのものなので、水道が通っていない地方の農村などは小さなものから巨大なものまでいろいろなタイプがある。この15年前後でだいぶ変わってしまったが、かつては乾季に入ると雨が一切降らなかったので、農村では死活問題にもなるので、この水瓶は必須アイテムだったわけだ。

 ボクが人に連れて行ってもらったシーラチャーの店は店名が「ガイ・オップ・オーン・レストラン」だ。そのままである。東南アジアは店名にこだわらない飲食店が多い。今でこそ店名がついたが、バンコクの「レバ刺し屋台」で有名な店も、人気になる前は店名がなかった。

 タイの場合、店名がない店は大体料理名がそれに代わっているケースが多い。あるいは店主の名前で呼ばれる。ベトナムは、特にハノイだと番地で呼ばれるというか、番地を元にした番号を店名にしているケースが多い。陸続きとはいえ、国によってやり方は様々だ。

 最近は言われなくなったが、90年代のタイでは屋号が番号だと、それは基本ラブホテルだとされた。その印象がボクには強かったので、初めてのベトナムではちょっと戸惑いがあったことを憶えている。

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 シーラチャーのガイ・オップ・オーンはこのように焼き上がりは真っ赤な色合いになっていた。様々なスパイスや調味料を塗っているからだろう。

 鶏肉をオップする調理法で有名なのは、インド料理のタンドリーチキンではないだろうか。タンドリーという専用の焼き窯で蒸し焼きにする。鶏は串に刺すから出し入れは簡単だろうが、ナンは生地をタンドリーの内側に貼りつけて、焼き上がったらはがすという。タンドリーの中は500度近くになるらしいので、そこに手を突っ込んではがすのかと思うと、タンドリーチキンよりナンの方がありがたく思えてくる。

 ガイ・オップ・オーンはいわばタイ版タンドリーチキンだ。壺の形状などを見るに、ガイ・オップ・オーンは本場タンドリー窯よりは低温で調理されていると思う。そのためか、肉質は柔らかい。ガイヤーンはたまに脂が出きってしまってからっからの状態になっている場合があるが、オップ・オーンであればジューシーさは損なわれないようだ。

 マップはボクが行ったシーラチャーの郊外にある店だ。ほかにもバンコク周辺やタイ各地にガイ・オップ・オーンはあるようなので、興味がある人は調べてみてほしい。

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