見出し画像

現金を忘れてベトナムに行ってしまった話

 2018年6月、勘違いから現金を持たずにベトナム・ホーチミンに行ってしまった。まったくのゼロというわけではなかったが、必要最低限以下だったので、地獄のような数日を過ごした。

画像3

 事の発端は、その数ヶ月前のホーチミン滞在に遡る。普段、宿はアゴダで取るのだが、2017年の単行本取材からこのときまで毎回同じ宿に泊まっていた。ブイビエンの裏路地にある宿で安いし、Wi-Fiもそこそこのスピードで仕事もしやすいところだったからだ。ところが、最後に泊まったとき、それまでクレジットカード決済だったのが、いつの間にか現地現金精算に変更されていた。

 これはのちにわかることだが、ベトナムの安宿は今多くがアゴダとの契約を現地現金精算に変更している。手数料の関係なのかと思う。ボクとしては収入が日本にあるので、クレジットカードで支払った方がいい。

 そのときは現地に着くまで現金精算に気づいていなかった。普段タイではあまり飲み歩かないが、ベトナムに来たら屋台でビールを浴びるほど飲む。そのつもりで現金を持ってきていたので、宿の支払いはとりあえず問題なかった。飲み代は減ってしまったけれど3000バーツくらい(約1万円くらい)は残っていた。ベトナムはビールが安いので、結構飲んだけれど十分だった。むしろ多少余ったほどだ。

 この記憶が残っていたので、今回は3000バーツを持っていけばいいかと、それだけ財布に入れて自宅を出発した。ベトナムではカードを使うこともない。ボクが行くのは屋台などばかりなので。宿もカード支払いを確認して選んだので、クレジットカードそのものは安全性を考えれば持って行かない方がいいと判断した。

 ベトナムもATMがだいぶ増えたが、正直ボクはまだ信用していない。クレジットカードのキャッシングは当然だし、キャッシュカードも心配なので、使いたくない。万が一なにかあっても、日本と違い、タイのクレジットカードやキャッシュカードはすべて保有者の責任になるので、なおさら使いたくないのでキャッシュカードも持っていかなかった。

画像4

 そして、いつものようにスワナプーム空港では早めにチェックインして、誰よりも早く搭乗ゲート前に陣取った。そのときにふと思い出した。このときのホーチミン行きはちょっとした買いものがあって予約済みで行くことになっていた、ということを。それがおよそ3000バーツである。

 つまり、ボクは飛行機に乗る直前に、現地で使える現金がないことに気がついた。出国済みだし、もう間もなく飛行機も出る。そのときホーチミン在住だった友人はみな撤退していて、頼れる人もいない。

 ボクは急いで自分のバックパックをあさった。毎回、余った外貨はバックパックに入れてある。前回、3000バーツも飲みきっていなかったはずだ。そして幸運にも20万ドン、つまり約10米ドルが残っていた。ないよりはマシだが、この金額でホーチミン滞在を乗り越えなければならない。

 幸い、宿は確保できている。問題は食事だ。こんなときに限って滞在日程が6日間と長かった。普段は4日5日程度なのだが、フライトの関係でそうなった。単純計算では1日3.3万ドンだが、ほかにもいろいろと必要だ。それをまずは洗い出さなければならない。ボクは1時間ちょっとのフライトは本を読むか寝てしまうのだが、さすがにこのときは頭の中で金の計算、現地に着いてからの行動など、シミュレーションをしていた。

画像5

 まず、ホーチミンの空港からホーチミン市内までの交通機関利用だ。空港から安宿街ブイビエンまではエアポートバスがあり、これが片道2.5万ドンだ。空港往復で5万ドンが消える。

 それから、せっかくホーチミンに来たのだから、ビーフシチューのフォー「フォー・ボーコー」をせめて1回は食べたい。これが8万ドンだ。ここで交通費と合わせれば、残り7万ドンだ。

 屋台でビールも2本くらいは飲みたい。ベトナム人の顔見知りがいつもいる屋台がある。そこのビールは1.2万ドンだ。これで2.4万ドンがかかり、あとは水も必要なので、2リットルのペットボトルが1.2万ドンくらいか。

画像6

 これで合計16.6万ドンなので、残り3.4万ドンになる。フォーの日と最終日になにも食べないとすれば4日間の食事である。1日8500ドンくらいなので、屋台は難しい。ベトナムはタイと比較して屋台が高い。量が多い分、値段設定も高いという印象だ。

 そこで考えたのが、インスタント麺だ。東南アジアのインスタント麺はノンフライではなくフライ麺が主流なので、麺自体をスナックのように食べることができる。これでなんとか生き延びることが可能なのではないか。

画像1

画像2

画像7

 現着して、実際にコンビニで見ると、1袋4000ドンくらいだった。これなら1日2袋食べられる。ただ、宿はゲストハウスのようなものなので、お湯や器がない。だから、ボクは予定通り、インスタント麺を生で1日2袋食べて4日間過ごした。

画像8

 さすがに毎日、ぱさぱさのフライ麺を主食にするのはきつくて、この滞在で5キロ痩せた。最後の夜には水がなくなってしまった。フライ麺で喉が予想以上に渇いたというのもある。コンビニをハシゴして安い水を探した。フォーもビーフシチューではなく普通の牛肉麺にしたので、少しだけ現金が余ったので水を買うことができた。

 水を探している間、とてつもなく惨めで泣きたくなった。取材旅行でときどき着替えを忘れていくことがあったが、さすがに現金を忘れたのは初めてだった。予定を立て、準備をするというのは大切なことだと学んだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?