見出し画像

新しい中国移民がバンコクで行きつく先

 バンコクは元々は王宮やワットポーのエリアが中心地で、内堀と外堀の運河の外はそれ以外のエリアだった。そして、中華系の移民やベトナム系、インド系などはさらにその外に居住エリアが置かれた。先日延線部が開通した地下鉄が走るヤワラーは1800年代から形成され始めた中国系移民たちの町だった。今でこそ政治や経済を牛耳るのは中華系のタイ人だが、当時彼らは肉体労働などをする、タイ社会では下っ端の存在だった。

 第2次世界大戦前後から移民はだいぶ減ってきているが、タイ政府の方針が変わって、新移民を受け入れなくなっているのもその数が減っている理由のひとつだ。そのため、実際には中国からタイに移ってくる人が今も少なくない。このケースは移民というよりも、法的には我々日本人と同じように移住に当てはまる。

 しかし、ヤワラーはすでに完成された、元中国人の街だ。新移民たちはこのエリアに入ることは難しい。そのため、新たに移住してくる中国人たちは違うエリアに集まりつつある。そのひとつがラチャダーピセーク通りのソイになる。

画像1

 ラチャダーのホワイクワン区にあるプラチャラット・バンペン通りがバンコクの新中華街だ。ここに新移民たちが集まり、エリアが徐々に中国化しつつある。先日、下記のジョンフアという店を紹介したが、そこがまさに新中華街になる。

 かつてタイ政府は中国移民を移住させてあげる代わりに徹底的な同化政策を採った。居住権利を与える代わりに、移民の子どもたちにはタイ式の教育を受けさせ、完全にタイ人になるように仕向けた。そのため、マレーシアやシンガポールの中華系住民とタイの中華系は、彼らの中に流れる中国人の度合いが違う。

 しかし、戦後になってから政府は方針を変え、新移民の受け入れにだいぶ消極的になった。そのため、それ以前のタイ人化している移民と新移民ではマインドが違う。そもそも中華系タイ人の先祖は故郷が共産化する以前の体制の中から移り住んでいるので、親族などが双方にいてコネクションがある人以外は同じ中国人とは言え出自が同じだとは互いに思っていないように見受けられる。

画像2

 ラチャダーの一角に中国人が増えた理由はよくわかっていない。ホワイクワン区役所に行って問い合わせてみたものの、役人も「気がついたら中国化していた」というくらい、気にも留めていなかった。タイ人も気がつかないうちにあっという間に増え、一気に中華系の店や会社が増えた。とはいえ、近隣住民はかなり臨機応変で、そこはタイ人らしい。屋台やマッサージ店もちゃっかり中国語のメニューを置いて、中国人客を受け入れていた。

 なぜこのエリアが中国化したのか、ここからはボクの推測を書きたい。中国大使館がラチャダー通りにあるし、ホワイクワンは下町でありつつ、意外と大きなホテルが少なくない。しかも、大衆的なホテルばかりだ。中国人の大半は初めてのタイ旅行はパッケージツアーを利用する。中国政府がタイ旅行を推奨しているため、一般の人はパッケージを利用しないといけないらしい。

 このパッケージツアーの中には宿泊地をホワイクワン区にしているケースも少なくない。だから、旅行などでビジネスチャンスを見出した人たちが、再びタイに舞い戻って来た際、土地勘がないので以前来たことのあるホワイクアンにとりあえず滞在するのではないか。

 伝手がある人はヤワラーや親族のいる場所に居を構える。しかし、そうでない新参者はとりあえずホワイクワンに来る。そうして徐々に中国人コミュニティーが大きくなってきた中、どこかのタイミングでその数が爆発的に増加し、こうなったのではないか。2010年ごろは目に見えて中華街っぽくなかったが、2014年にはかなり中華街化した印象だ。

画像3

 タイに伝手のない新移住者たちなので、彼らの大半はタイ語を話さない。英語も話せない人も少なくない。ホワイクワンの店は観光客も新移住者も含めて、そんな中国語しかできない人たちだけをターゲットにしたところも少なくない。飲食店の中には従業員が一切タイ語も英語もできないところもあるので、中国語ができないと食事もできない。

画像4

 しかし、その分、本格的な料理も少なくないので、中華料理に関してはかなりいい。ヤワラーは潮州料理が多く、タイ料理も潮州県の影響が強いため、タイ料理との違いがあいまいで、中華を食べているという感覚が薄くなる。

 その点、この新中華街はこれぞ中華といった料理を安価に、そしておいしく食べることができるというメリットがある。だから、中華を食べたいときには今、行くべきはここだとボクは思う。

画像5

画像6

 しかし、残念なことに、新中華街は今は風前の灯だ。一部はまだ存続しているが、結構多くの店や会社が廃業に追い込まれている。というのは、今回のコロナ禍において、最も影響を受けている観光業の顧客は中国人だ。年間何百万人、日本の何倍もの数が来ていたのに、今や日本人の入国者よりも少ない。

 このエリアが最も欲している顧客が一切来ないのだ。閉店に追い込まれるのは当然のことであろう。新中華街も結局は外国人の街だ。コロナ問題が終息して、果たして再興するのかどうか。なんとも言い難い状況であるのは間違いない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?