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タイ人にとって即席麺は和食?

 今と違い、90年代後半、あるいは2000年初頭くらいは和食を食べるタイ人は富裕層くらいしかいなかった。それでも、一般層のタイ人も知ったような口で「和食を食べたことある」と言っていた。そのほとんどが即席麺、もしくはインスタント麺と呼ばれる、あの袋の麺だった。当時はトムヤム味くらいしかなかったのに、よくもまあ日本料理を知っているように言えたもので。

 タイではインスタント麺は日本の料理あるいは日本発の食べものという認識だった。実際、インスタント麺は日本で発明されたもので、日本から技術が海外に出た、あるいは真似されたものだから、間違ってはいないのだけど。

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 タイのインスタント袋麺と言えば「マーマー」が一番人気のブランドだ。去年の非常事態宣言における夜間外出禁止時にはスーパーの棚から一斉に消えたのがマーマーだった。その日暮らしが多いタイ人もさすがに食料を買い置きしておきたかったのでしょう。

 第2の人気ブランドは「ヤムヤム」だろう。こちらはマーマーほどの人気ではないが、ブランドとしては大きく、スーパーやコンビニにもたくさんのフレーバーが並んでいる。ただ、マーマーとの人気の差が歴然で、非常事態宣言の際にマーマーが全種類品切れになったのとは対照的に、ヤムヤムは売れ残りがあった。タイ人はあんなときでさえ、買いたくないものは買わないほどのグルメになったらしい。

 歴史的に一番最初にタイにインスタント麺を持ち込んだのがどこの企業なのかわからない。ただ、この2大ブランドで言うと、最初に始まったのはヤムヤムの方である。1971年にタイの企業が開発し、翌年に味の素グループに入っている。そのため、現在はヤムヤムは味の素社の製品ということになっている。これが、タイ人がインスタント麺を日本料理という理由のひとつになるのだろう。

 ちなみに、マーマーが開発されたのはヤムヤムの次の年、1972年のことのようだ。タイ・プレジデントフーズという企業の製品で、親会社は台湾から来た企業である。日本はわりと最初に開発、あるいは販売した企業の製品が好まれると思うが、タイの場合はわりと後発が人気になる傾向がある気がする。たとえばタイスキのMKは人気ブランドの中では遅い方だ。栄養ドリンクのM-150もそうだ。元々はリポビタンDの登場で誕生した市場なのに、タイではM-150の方が売れている。

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 タイの即席袋麺は量がものすごく少ない。日本の袋麺の3分の1くらいではないだろうか。タイ人は1食の量が少ないので、インスタント麺も量がかなり少なく設定されている。その分安く、ひと袋がだいたい10~15バーツくらいだったろうか。高いフレーバーでも50円しないのだから安いと言えば安い。

 ただ、さすがにこの量だと若い男性には足りないので、2つ3つを同時に食べる人もいる。最近はジャンボサイズも出てきたし、日本のものと変わらないくらいの量があるタイプもマーマーから出ている。そのタイプは今の日本のようなノンフライ麺で、味もわりとレベルが高いと思う。

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 タイのインスタント麺は今でも瞬間油熱乾燥法が多い。だから、チキンラーメンのように、湯を注がずにそのまま食べることもできる。タイ人の中には袋を開ける前に麺を砕いて、袋を開けて粉末スープを振りかけてスナックのように食べる人もいる。

 ボクもたまに酒のつまみにインスタント麺を砕いたものを食べる。粉末スープをかけないで食べる方が好きだ。以前ベトナムに金を持たずに行ってしまったことがあって、そのときになんとか生き延びられたのもまた瞬間油熱乾燥法の袋麺のおかげだった。

 タイのインスタント麺のスープの味はほとんどがトムヤム味だ。特に20年くらい前はそれしかなかった。先のマーマーが新しく出したノンフライ麺のものもトムヤム味だったりする。インスタント麺の登場からたぶん30年はトムヤム味だけだったのではないだろうか。それくらい、トムヤム味が主流で、当然味は辛い。

 近年はいろいろなフレーバーがあるが、一時期はグリーンカレーが大人気になっていた。平時なのにも関わらず品薄状態が続いていた。たぶん、日本人のタイ土産で人気が出て、タイ人も食べるようになったとボクは見ているが、どうなのでしょう。

 最近は即席麺メーカーも増えたし、どちらかというと中国やベトナムで強かった日清も品揃えが増えてきている。その日清は醤油味だとか、とんこつ味を出している。袋麺だけでなく、カップヌードルもあって、シーフードはほぼ日本と同じだと思う。あとはカレーが来てくれないかなと思うのだが、タイにはまだない(ボクの自宅が郊外だからないだけで、都心にはあるかもしれない)。

 一時期は日清だったか、どこかのブランドだったのかが憶えていないが、やはり醤油味、とんこつ、それからみそ味のラーメンがあった。バーミーのように黄色い麺で、たぶんノンフライだったはず。もう今はそのブランドはないが、当時は感動したものだ。もうかれこれ15年くらい前だったろうか。いや、もうちょっと最近だったかな。

 量がタイ人向けで少ないものだったし、トムヤム味の倍くらいの値段だったが、いずれにしても、当時は和食系のフレーバーがなかったので、みつけたらいつも買っていた。おいしいかそうでないかでいうと、まあ、そんなにおいしくはない。でも、当時「なかった」というプレミア感がついてたので、あるだけでも嬉しいというか。

 それでいえば、こんなにも和食ブームになっているタイなのに、インスタント麺の日本的フレーバーはほとんどのものがおいしくないのはなぜなのか。即席麺が完全にタイ人向けになっているのはわかる。在住日本人でインスタント麺にハマっている人なんていないし、これからも顧客ターゲットにはなりえない。だから、量も味もタイ人向けなのはわかるが、それにしてもとんこつ味などは食べ終わると胸やけがするというか、ちょっと胃の調子が悪くなる。もうちょっと本格的、つまり日本に寄せた味でも今のタイ人にはわかってもらえると思うんだけどな。

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