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レスキュー・ボランティアはこんなこともする【排水溝の落とし物探し】

 最近思い出したようにレスキューネタが続いているが、タイ人は日常生活でコントをしているようなところがあるので、そういった人間の巣の部分が見えやすいレスキュー活動ではなかなかおもしろいシーンが見られる。

 ボクが所属していた報徳堂のチームはホワイクワン署のエリアを担当していた。ラチャダーピセーク通りとラートプラオ通りの一部、地下鉄で言うとMRTラマ9世駅からパホンヨーティン駅辺りまでが管轄だった。

 近年、といっても10年以上過ぎているが、ラチャダーはだいぶ静かなエリアになった。以前はソイ6と8の近辺は巨大ディスコが並び、かつ朝まで営業しているレストランを装ったクラブもあった。さらにはソイ4にもパブ街ができたし、裏手のカルチャーセンター通りも一時的にパブ街が形成されていて、21時過ぎから賑わい、深夜2時以降は各地の店で飲み足りなかった若者たちが大挙して集まって来た。

 そういうエリアは不良少年・少女たちの乱闘事件や傷害、酔っ払った男女のいざこざなどが至るところで発生していた。タイ人は総じて酒の飲み方が下手なので、アルコールが入るとすぐにトラブルになる。

 そういった事件事故をたくさん目の当たりにするが、中には急性アルコール中毒だったり、急病だったり、病人の搬送もある。必ずしも傷病者の救急案件だけでなく、いろいろなことが起こる。中でも印象的だったのは、酔っ払った少年が財布をなくした事件だった。

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 その少年は財布をラチャダー通りのどぶに落とした。画像のように鉄格子になっていて、そこからするっと落ちたらしい。広い道路の上で、落とした場所がたまたまここっていうのが天才的である。

 落としたのは、この画像のライトを持っている女性の左にいる、ちょっと赤毛っぽい少年だ。彼が、我々になんとかならないかと言ってきた。

 すぐに中を見てみると、確かに財布が浮ていたが、つかの間、その財布はどぶの底に沈んでいった。少年はちょっとゲイのネコ側の方のタイプなのか、なよなよとしていて、泣きそうな声でどうにかしてほしいと言う。

 とはいっても、どうすればいいのか。そうこうしているとうしろから野太い声で我々に声がかかる。

「ワタシの弟の頼みよ! なんとかしてよ!」

 そこには大柄のMtF、日本で言うニューハーフが立っていた。本当の兄弟だそうだが、この場合は姉妹になるのだろうか。

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 ちょうどその場に「ラマ9レスキュー」という通報専門のレスキュー隊員がいて、その兄ちゃんが熱く、オレがやる! と言い出す。こうなると周りもおもしろがって、レスキューの男たち全員で鉄の蓋を開けてしまい、ラマ9隊員が本当に中に入った。

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 意外と深く、170センチくらいの男の首まで沈む。ゴミなども浮いているので、なんというか・・・・・・、ボクにはできないな。

 レスキューは救急救命のほかにもこういったこともやるのだ。たまに寺院のイベントの警備の仕事もあるし、だいぶ前だが北京オリンピックの聖火リレーがバンコクに来たときも警備をした。あと、わりと頻繁にあるのがヘビの捕獲など。

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 どぶの入り口の周りを囲って、そこから中を照らす。少年も縁に座り込み、だいぶ落ち込んでいるようだ、と思ったら寝ていた。それに気がついた姉(兄)は弟の赤毛を掴み「寝るな、バカ!」と怒鳴り、頭をグワングワン振っていた。

 財布はみつからなかった。

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