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旅先の食で迷うとき:社会科バンザイ

旅先の食事で何が狙い目かを考える時、社会科の「地理」「歴史」「公民」の分野から考えるとうまくいく場合があります。
食材は地理的要因と、料理法は歴史と、食料生産の計画は政治と結びついているからです。

具体的に書いてみましょう。私は北海道民ですので、北海道を例にして説明してみます。


地理:魚が四方八方から獲れる

これは本当に面白い特徴です。
南は津軽海峡があり、太平洋側は親潮(千島海流)が流れ、日本海側は対馬海流が宗谷へ向かっており、寒流のリマン海流が大陸側を走っている。

ここに内浦湾(噴火湾)や数々の湖沼も合わせれば、獲れる魚介類が多岐にわたるのは当然です。
特に貝類の豊富さは目を見張るものがあります。

ただ、そうはいっても北国なので獲れない魚介類はありますし、そういう魚の食べ方を知りません。例えば、函館市では地球温暖化の影響で獲れ始めたブリを目の前にして困惑しており、どうにかブリのカツをご当地グルメにしようという動きがあります。

…って、いつの間にか「函館」が「北海道」になってやがるーw

地理:果物の偏り 

北海道では、収穫可能な果物が他の地域と異なります。

原則として、柑橘と柿は育ちません。国民的アニメによくある「庭で実がなる柿の木」は、北海道から出たことのない人にとっては都市伝説クラスのような光景です。

多いのは、いちごやブルーベリー、りんご、ぶどう、さくらんぼ、プラム、プルーン、メロン、スイカ、そしてハスカップですね。

いかにもな北海道の果物といえば、ハスカップくらいですかね。品種的には全く異なるようですが、ジャムなどに加工されるとブルーベリーのような雰囲気が生まれます。

現在では、地熱を使ってマンゴー作りなど変わった果物もあることはあります。

そういえば、余市町・仁木町で果物が盛んに育てられるようになったきっかけって、これなんですかね。

歴史:アイヌ料理の血

アイヌ料理そのものも現代でも伝承されていますし、和人の食生活と混ざって出来た料理もあります。

「ギョウジャニンニク」は北海道では重要な山菜となっています。ニンニク系の刺激のあるネギとでもいいますか。「アイヌネギ」とも呼ばれるくらいアイヌ民族がよく食べてきたものですが、北海道民は民族関係なく好きな人の多い山菜です。

というか、道民は割と気軽に山に入って山菜を採る性質があるようです。津軽の人も山菜好きですし、和人(特に東北の民)・アイヌどちらのルーツでも山菜を好むようですね。で、時に行方不明になったり冬眠から目覚めた熊と出会ったりしてニュースになります。
他の都府県ではこんなにニュースになっていない気がしていたのですが、これを書いた2024年には秋田でも熊の害が話題になっていますね…。

「三平汁」「石狩鍋」といった鍋物は、アイヌ料理の鍋物「オハウ」から派生したという説もあります。(オハウのイメージは「ゴールデンカムイ」あたりで確認していただいて…)

「ルイベ」という、北海道の気候で半ば自に出来たのだろうという料理もあります。海産物、特に鮭鱒を凍らせたものです。身の中のアニサキスも滅ぶので安心して食べられます。マイナーですがオススメです。

桜鱒のルイベ

歴史:甘いものを好むワケ

北海道も北国の例に漏れず味付けが濃いのですが、濃さの方向性が塩辛さ以上に甘みに向いています。

これには、歴史的に肉体労働者が多かった(第一次産業+港湾+鉱山)ので、糖分の需要が高かったことが考えられます。

そして明治期、ビートの栽培が始まり、砂糖が生産できるようになります。ここで需要と供給が釣り合ったのですね。

また、豆や乳製品も道内で大量生産されるようになり、スイーツ作りにもってこいの土壌となっていきました。

北海道はスイーツが強いですが、やはり地域性はあります。上にあるようなものを生産している十勝(特にその集積地となる帯広市エリア)や、炭鉱町で需要が大きかった砂川市に有名店が多いのは、自然な成り行きです。

なお、牛乳を生産しているエリアであればソフトクリームやヨーグルトやチーズのような乳製品が美味いのですが、ある程度の平地があれば牛が飼えるためか、「乳製品の美味いところ」は全道各地にわたっています。

公民:地産地消の推進

北海道は食料自給率からすると、一応「食っていける」程度の食料自給率を単独で持ち合わせています。季節ごとに大きな偏りはありますが。

そんなお国柄ではありますが、いいものが道外の大都市圏(今でも高級昆布は北前船ルートである大阪や京都に運ばれていたりします)に買われがちで、昔は特に「地産地消」の機運が弱かった。
そこで、北海道の政策として「地産地消」を強く推し進められてもいます。

例えば、小麦を北海道産に切り替える「麦チェン」活動などがあります。パン屋やラーメン屋のような小麦をよくつかう業種はもちろん、コンビニの焼きそばの麺などにも及んでいます。
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/shs/mugi/mugi_change_what.html

もちろん、全てが「地産地消」運動がなければ買われないというわけではないのです。とうもろこしやアスパラは採れてすぐが一番美味しいことを、北海道民は体感で知っています。「さっき畑で採ってきた」級は農家さんの身内でないとなかなか出会えませんが、「朝採れ野菜」なら都市部でも手に入る場合があるからです。

地理・歴史:料理が素材頼りで、新しもの好き

ここで北海道民の悪癖ですが、食材の素材が良過ぎることの裏返しで「料理に手をかけることを面倒臭がる」特性があります。

「素材の質が微妙な分、よく手をかけて美味しくする」関西とは真逆、と聞いたことがあります。そもそ料理技術のレベルが違いますしね。

郷土料理も素材の味でゴリ押し系が多めですよね。
強いて言えば、松前漬は松前藩発祥のものですから、江戸時代の和人の発想が垣間見られます(笑)。

もちろん、北海道の料理が全てそうというわけではありません。
手間を惜しむ県(道)民性が災いして弱くなりがちなのは和食ですが、寿司屋のみならず良い料亭もそば屋もちゃんとありますし、札幌に東京の味を持ち込んだあんみつ屋もできました。
…ということも言っておかないとね。

また、開拓民の血を引く人も多いので、新しもの好きの傾向も強め。「内地」と同程度の歴史を持つ料理は遅れをとっていません。つまり…ラーメンとかフレンチとか洋菓子とかは強いわけです。

これは創作料理を生み出しやすい性格ともいえ、豚精肉のやきとり(※)をのり弁を合わせた「やきとり弁当」、出汁とスパイスで作ったシャバ系カレーから発展した「スープカレー」、ピラフにカツを載せてデミグラスソースをかけた「エスカロップ」といった料理が生まれています。

※豚肉の「やきとり」自体は、昔の北海道で鶏肉より豚肉の方が安い時代があって、函館や室蘭で普及したものです。この場合は経済上の要請ですね。


ネタは尽きませんが、今回は北海道の食生活を紹介すること自体ではなく、「社会科」をベースにした食事選びのヒントを紹介してみました。

学校で習ってきた知識にはこういう応用もあるのです。そんな例でした。

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