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野良デザインの蒐集

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本来の用途の枠を超えて使われる道具たち。街で出会った匿名の創意工夫「野良デザイン」の蒐集をテーマに、街を歩くことがちょっぴり楽しくなるような記事を投稿しています。
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#考現学

野良デザイン#189|ペットボトルのライトホルダー

幅の狭い路地に面した、ある家屋の玄関口。灯りの少ない軒先に、本来 土に差し込んで設置されるガーデニングライトが一本掲げられています。先端に電灯が取り付けられた、棒状のライトの根本には、2Lペットボトルが活用されているようです。 上半分が切り取られたペットボトルを容器として、モルタルを流し込み、ライトの支柱の径に合った窪みを設けることで、頭の重いライトをホールドしています。 横に添えられたコンクリートブロックのおかげもあって、ライトは風に煽られることなく、立位を保持していま

野良デザイン#180|金網フェンスのコートラック

休日の公園。鬼ごっこに勤しむ子供たちを、金網のフェンスが囲う。その編み込まれた鋼線が形作る菱形に、袖やフードなどの端部を通すことで、衣類が固定されている。 大きい服と小さい服。掛けられている位置の違いが、持ち主の背丈や年齢を物語る。 フードが垂れる重みで衣類が落ちないよう、フードを菱形に二重に通す工夫が見られる。 金網フェンスのコートラック ボールの飛翔範囲を制限する道具 → 衣類を一時的に保管する道具 Habitat|Hyogo, Japan

野良デザイン#179|タイヤのパイロンウェイト

とある屋外駐車場で出会った野良デザイン。砂利敷きの広い敷地に、杭とロープで区画分けされた簡素な駐車場。その中に点々と置かれたパイロンが風で飛ばされぬよう、車用のゴムタイヤが被せられている。 パイロン用に設計されたゴム製のウェイト(写真左側)に比べ、重心が高くなるぶん、安定性が悪化するが、分厚めのタイヤは重量がかなりありそう。 駐車場という「場」に文脈のある活用は、乱雑な配置さえも風景の味にしてしまうようだ。 Habitat|Chonburi, Thailand

野良デザイン#178|コンクリートブロックのパイロン

路地に面した敷地境界いっぱいに、塀が設けられた住宅。車がすれ違うことが難しい程度の幅の道。ドライバーへ塀の存在を示す為、黒と黄色のパイロンが置かれている。 よく見ると、パイロンの脇には、黄色く塗られたコンクリートブロックが置かれている。どちらが先に置かれたか、あるいは風に吹かれるパイロンの保険として置かれたものか。 寝かせたコンクリートブロックの活用は、住宅地の景観的観点から唐突なパイロンと比べ、サインとしての機能と、景観に対する親和性のバランスが取れたアイディアのように

野良デザイン#176|ペール缶のカメラフード

とある郊外の、工場を兼ねた民家の軒先で見つけた野良デザイン。敷地への侵入者を牽制する防犯カメラには、雨よけのフードが被せられています。 このフード、実はプラスティック製のペール缶を切り抜いて作られたものなのです。工事現場などで見かける、ペンキや塗料などが入っている、円筒状の容器です。 下から見上げるとこんな感じ。地上への視野を確保できるよう、信号機のフードのように斜めに切断されている様子がわかります。 また、電源やデータ移送用のケーブルを通せるよう、雨水の侵入リスクの低

野良デザイン#175|ポリタンクのプランター

下町風情が残る住宅地。路地の両脇には、各戸の敷地と路面を区切るブロック塀が並びます。その塀のほとりには、銀色の見慣れぬプランターがずらり。 寒いシーズンでは石油、最近ではキャンプなどのアウトドアシーンでも活躍を見せる、ポリタンク。その頭頂部を切断し、土を詰めてプランターとして活用しているのです。 ポリエチレン製の容器に、大口のキャップ口が備えられた設計が特徴的なポリタンク。その特徴の一つを切り捨て、丈夫な容器としての一面に焦点を当てた、明快な活用です。 塀と排水溝の間の

野良デザイン#174|看板の用具ホルダー

とある墓地の入り口に立てられた看板。墓地利用に関する注意書きが記された板が、金属製の角柱の枠に取り付けられ、これまた同じ角柱でできた2本の脚で自立しています。 2本の脚は看板背面に固定されており、脚と看板の間の隙間を利用して、傘や、スコップなどの道具が収められています。看板の構造が、傘など棒状の用具のホルダーとして活用されているのです。 この墓地、実は小学生の通学路にも接しており、通学時間帯には誘導員のおじいちゃんが常駐しているのです。看板の脇に置かれたパイプ椅子は、彼ら

野良デザイン#173|ビール瓶の忍び返し

タイ バンコク郊外の居住区。工業地区に隣接し、砂がかった舗道の脇には、中層階建ての集合住宅が立ち並びます。各敷地はフェンスや塀で覆われていることが多いが、その中に興味深いブロック塀を見つけました。 コンクリートブロックを積んで塗装した、人の背丈よりも少し低い簡素な塀の上辺に、馴染みのある茶色のガラス片が忍び返しとして取り付けられているのです。とても攻撃的な見た目です。 実はこのガラス片、ビール瓶を粉砕して作られているようです。こちらの写真のガラス片で気づきました。酒場の乱

野良デザイン#172|ペール缶の雨樋

おいしい匂いで満ちた町中華の店先。道路に面して敷地いっぱいに店舗が建てられ、エントランスの横には大きなメタルパイプが鎮座している。店内の調理場につづく換気扇から滴る油などを受ける為の雨樋として機能しているようだ。油煙が建物外壁を汚さないよう、換気扇にはフードが被せられ、そこから滴る油を誘導するよう設計されている。 その地面に至る端部には、樹脂製のペール缶が置かれており、集めた油をキャッチできるようになっている。元々セメントを保管・流通する為の容器が、屋根に落ちた雨水を集める

野良デザイン#171|クーラーボックスのプランター

コンクリートに覆われた大地。路地裏の片隅には、さまざまな容器に蓄えられたわずかな大地に、緑が植えられている。 その一つは、要冷蔵の生鮮食品などを輸送するためのクーラーボックスが活用されている。 発泡スチロールで成形された容器は、外気から受ける熱の影響を遮断する。冬には植物の根を寒さから守り、暑い時期には日射から受ける過度な熱の影響を抑える、植栽に適した素材かもしれない。 その側面にはいくつかの穴が穿たれている。発泡スチロールは高密度な素材故、雨水を逃す必要があるようだ。

野良デザイン#170|ビールケースのテーブル

歩道に面した居酒屋の軒先。大きな宣伝看板をバックに、大量のお絞り、たばこの吸い殻入れ、そして小さな立ち飲みテーブルが2台並ぶ。 そのテーブルは、居酒屋でお馴染みの樹脂製のビールケースを積み、木とシートの天板を載せて作られている。 テーブルの足元は、厚さ10cmほどの木枠に収められており、安定性が高められている。道路に向かって傾斜がかかっている、不安定な設置環境から生まれた工夫だろう。ほろ酔いでも心置きなく飲食を楽しめそうだ。 以前蒐集したビールケースの椅子との相違に、同

野良デザイン#169|布団バサミのサイクルカバー留め

閑静な住宅街。タイルが敷き詰められた車道に面する駐車場に、自転車が3台留められている。 それぞれの車両には銀色のカバーが掛けられており、U字の布団バサミで固定されている。 ポリプロピレン製のアーチ状の部材を組み合わせ、バネを仕込んだ製品。本来布団などの大判の洗濯物を固定する為の道具が、自転車カバーを固定する用途に用いられている。 自転車のサドルの支柱部分を挟むことで、カバーが風で飛ばされにくく工夫されている点がユニークである。 自転車の使用時には、隣家との境界に設けら

野良デザイン#168|自転車カゴのゴミ箱ホルダー

電柱の麓に置かれたゴミネット入れ。PP製の蓋付ゴミ箱を流用したネット入れは、金属製の自転車用のカゴに入れられ、定位置化されている。 塗装が剥げ、剥き出しになった鋼線が錆びており、長いこと屋外で雨曝しになっていた様子が伺える。もしかするとごみ収集用のネットは、このカゴに入れられていたのかもしれない。そこから、ネットを雨水から保護する為、蓋付のゴミ箱を導入したり。 地域の美観や衛生を良くしようとする、住民の方々の試行錯誤が垣間見える野良デザイン。

野良デザイン#167|ガロンボトルのポール立て

タイ・バンコクの郊外で出会った野良デザイン。海外の冷蔵庫のスタメン、プラスティック製のガロンボトルを、道路の動線整理用のポール立てとして活用している。 ガロンボトルの上部をカットしてモルタルを充填し、金属パイプを差し込んだつくりのポール立て。 ボトルの持ち手を残している点もユニーク。ポールを運搬する際の把手として活用できそうです。帽子を持っているような見た目も可愛らしい。 道端に置かれるには不自然な物品が、どこか馴染んで見える、不思議な光景です。 眞木孝明