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「職質されるような見た目」 のイメージをつくり上げているのは誰か

この記事のことを話す。

ある男性が職務質問を受けたときのことが書かれている。ドレッドヘアであることなど、見た目(が理由であることは警察官側は濁しているものの)で判断され、職質を受けたことを訴えている。

バハマと日本のミックスの男性が、警察官から職務質問を受ける様子を撮影した動画に、波紋が広がっている。動画は1月下旬、東京駅の構内で撮影された。SNSに投稿されたのは、約1分間のやり取りだった。

警察官:私があと思ったのは経験上ですよ、私の経験則として別にドレッドヘアーが悪いわけではない、悪いわけではないですけど、ドレッドヘアー、おしゃれな方で結構薬物を持っている方が私の経験上今まで多かった、そういうことです

男性:久しぶりにドレッド見たから止めたわけではないんだね、ぶっちゃけ本当に微塵もないのね?

警察官:そうそう、私のことを気になっていると思ったのと、先ほど言った、そういった

すごく偶然だけど、その男性は会社の元同期の友人で(なので直接の面識はまったくないが)時々インスタで見かけていたので、勝手に見知っていた。元同期もその彼もダンスをするのだけど、それがとても楽しそうで、(わたしはとても運動音痴なので)かっこいいな〜と眺めていた。

まず大前提として、警察官に(疑いの目とともに)いきなり話しかけられたら怖い。

わたしは、過去に一度だけ職質(みたいなもの)をされたことがある。

学生時代、とにかく白いファッションにハマって、白いシャツに白いスカート、白いキャップに白い靴下で白いスニーカー。上から下まで文字通り全身真っ白で、池袋北口のへいわ通り(あまり平和な雰囲気ではない)で友達を待っていた。この記事の彼のように、スマートフォンを眺めていたので半径15cmくらいの世界しか見ていなかった。たぶん2chのまとめとか見ていたと思う。

突然、横からグイと2人の警察官に顔を覗き込まれた。びっくりして視線をあげると目の前にはにこやかな警察官。「ここで何してるの?」「人待ってるの?」目は笑っていない。「あれ、わたし立ち入り禁止のところに立ってるのかな?」「変な鼻歌でも歌ってたか?」5秒程度の逡巡の末、「あ、大丈夫です」と謎の言葉を残して早歩きでその場を立ち去った。30秒くらい歩いて恐る恐る後ろを振り返ると、警察官は見えなくなっていた。ただ話しかけられただけだし、別に後ろめたいことは何一つしてなかったけど、すごく怖かった。記事のように明らかな疑いの眼差しとともに話しかけられたとしたら、どんなにびっくりするだろう……と思う。

「そもそも警察官の存在に気付いていなかったし、いきなり前に出てきたから驚いただけです、と伝えましたが『すぐ終わります』と制止され続けました。帰宅する人が増える時間帯で、人がたくさんいる中で職務質問されてすごく恥ずかしかったです。友人や知り合いに見られたくないという気持ちもありました」

警察官にとっての職務質問は、数ある中の一事案かもしれないけれど。

警察官になった友人が3人ほどいる。いずれも中学〜大学時代の友人で、スポーツを頑張っていたり、友達思いでいつも元気だった印象が残っている。一人ひとりの頑張っている姿は目に浮かぶし、警察学校が厳しかったことや、日々の苦労話を聞いたこともある。新聞やテレビで目にする事件や事故の比にならないくらいに、警察が介入しなければならない事案はたくさんあって、警察官になった彼ら・彼女らが奮闘することで解決している問題も数え切れないはず。わたしが寝ぼけ眼で流し見しているニュースのひとつひとつに、いろいろな思いが詰まっているのだろう。

話を職務質問に戻す。詳しい数まではわからないけれど、日々いろいろな方に職務質問をしている警察官と、わたしたち一市民。毎日のように職務質問をして(くださって)いる中での一事案は、わたしたちにとっては青天の霹靂レベルの一事案なのだ。そのことを、忘れないで欲しいな、とも思う。

先入観を抱くことで、真実が見えなくなってしまう。

先の記事の件について、警視庁は以下のように回答している。

「本件取り扱いについては、警察官が相手方の挙動を不審と認めて職務質問を行い、その際相手方の承諾を得た上で所持品検査に及んだものであり、違法な行為ではないものと認識しております」

職務質問の際、警察官が男性に対して「ドレッドヘアー、おしゃれな方で薬物を持っている方が経験上多かった」などと発言したことへの認識を尋ねたが、回答しなかった。

そもそも、ドレッドヘアやその他、いまの日本に多くいるような見た目「ではない」人に対して潜在的に疑惑を抱いていたら(≒先入観を抱いていたら)挙動が不審に見えてしまうのは想像に難くない。苦手な人の言動は(例えそれが通常だとしても)変に見えてしまうし、警察官だってそれは例外ではないと思う。

「ドレッドヘアー、おしゃれな方で薬物を持っている方が経験上多かった」

この言葉にも、ちょっとした疑念をわたしは抱いている。これまで職務質問をした人の何割が “ドレッドヘアー、おしゃれな方” だったんだろうか?無意識に見た目が派手かつ少し変わっている人を選んでいなかっただろうか? 

外国人の人権問題に詳しい弁護士の針ケ谷健志氏は、「薬物を持っている疑いのある人に職務質問するときは、例えば目がうつろ、歩き方がおぼつかない、警察官との受け答えが全くできていない、といった『不審事由』がある場合に行うのが通常です。今回はそういった要件は見当たらず、違法な対応だったと言えます」と指摘する。

いろいろな経験に基づいて職務質問を行っている警察官の行動も、もちろん理解できるけれど、『不審事由』が認められる人の判断軸は、先入観によって大きく左右されてしまうのではないか。

「職務質問されるような見た目なのが悪い」の暴力性について。

先の記事についていたリプライがかなり地獄だった。具体的な投稿はここでは掲出しないが、「見た目を変えたらいい」「結局職務質問をされるような言動をしているのではないか」「日本にいるんだから日本に溶け込め」といった投稿が多く寄せられていた。

いろいろな事件が起きたときに、「襲われるような格好をしていたのが悪い」「いじめられるような見た目が悪い」とセカンドレイプを行う輩がいるけれど、思考回路はほぼ同じだよね。(※あくまで「不適切な職務質問」を受けた人に対する言葉を指していて、「職務質問」単体への批判ではない。

「職務質問されるような見た目」が、“ドレッドヘアー、おしゃれな方” だとするならば、善良な“ドレッドヘアー、おしゃれな方” を隠れ蓑にして後ろの方で「しめしめ」とやりたい放題の「職務質問されないような見た目」の人がいるのではないだろうか。

「日本にいるんだから日本に溶け込め」の “日本” は、わたしたち。

「日本に溶け込め」「日本人らしい」「日本の心」。今回寄せられた言葉以外にも、「日本らしさ」みたいなものを押し付けられる度に、「いや、わたしが日本です」と言いたくなる。「日本に溶け込め」で語られている“日本” は、「いわゆる日本人」のイメージ像であって、個々の日本人を指していない。そんな虚像の「いわゆる日本人」よりも、いま目の前にいる日本人に、向き合うべきだし、「いわゆる日本人」のイメージを固定化することの無意味さを、(わたしも含めて)もっと知るべきだと思う。

ドレッドヘアの日本人もいれば、金髪の日本人もいるし、日本語が苦手な日本人もいるかも。黒髪の日本人もいれば、ピンク色の服しか着ない日本人も。罪を犯してしまう日本人もいれば、まったく嘘をつけない日本人だっているはず。

「女性は」「男性は」「若者は」「高齢者は」「日本人は」と主語を大きくすることで、よかったことなんてあったっけ?

攻撃的なリプライを寄せているあの人も、ドレッドヘアの彼も日本人。この二者間だけでも、たぶん意識にものすごい違いがある。「日本人は」なんて書き出しは、到底できそうもない。

そんな偉そうなことを書いているけれど、悲しいことにわたしの中にも無意識の差別と偏見がまだまだ眠っている。ときどきとんでもない偏見を持っていることに気づかされて、その度に自分の無知と浅はかさを思い知らされるのだ。常に学びの姿勢を忘れないことを、自戒を込めてここに記す。

P.S.

今回のこと、かなり批判的に書いているけれど、警察官の方をおしなべて批判したいわけではない。警察官含め、わたしたちの中にある意識の問題だ。

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