知財部の業務:STF

企業知財部の業務として、技術の権利化業務がある。
この業務を5年程度経験すると、権利化するだけならば、先行技術調査と当該発明を詳細に対比させれば、ほぼ権利化出来る…と思うに至る。
発明者が特定のSTFに固執しなければ、が条件となるが。
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/kijun_wg/document/seisakubukai-08-shiryou/08.pdf

発明者は苦労した開発の経緯を、明細書と請求項に記載して欲しいと考えるのが一般的である。つまりSTFを開発経緯の縮図としたがる。「誰も、このSTFには辿り着かなかった!」と、主張したい…この気持ちは理解する。
私も開発側の人間であったことがあったから。

ただ権利化する側面からSTFを(先行技術と共に)俯瞰すると、とても筋が悪い主張となっていることが多々ある。発明者は特許出願を論文などの発表と同一視し、STFを権利化する側面で捉え直そうとする認識がない。
生真面目な職人肌気質であるならば、経営者的な投資効率の視点で自己の行動を効率化することが相反する…とは思う。

…作業行為に没頭する自己を維持する。これが発明者や開発者として重要な要素。その没頭している作業中に、例えば「俺、こんな事して(人生に)意味あんのか?」なんて飛んだ自問する回数は少ない方が開発は進む。
そうです、生真面目な方々ほど自己の筋から外れた提案(STF)は嫌う傾向があるように、私には思えるのです。

そうです、私は筋の悪いSTFに固執する発明者に困っているのです。
なぜ、権利化が困難な茨の道を行きたがるのか。
様々な価値観があることは理解します。しかし特許出願の書面は権利化してナンボ。ただし投資効率が無形過ぎるので…

まぁ解決策はあります。
発明者のSTFを別のSTFで乗っ取れる様に、明細書を仕組めば良いだけ。
当初STFが審査官によって爆沈したら、次のSTFで勝負すれば良いだけ。
金かかるけど。
原始帰属ですから、発明者より権利化担当者がSTFを決定する権限が強いような気がするので、許容範囲かと。

単一性やシフト補正の拒絶が出るほどのSTFを仕込むのは、気が引けますが…権利化の重要度が高いと判断した場合は、分割出願を覚悟の上で明細書の仕込みをすることで対応。
ただ、この仕込み作業、発明者の協力を得られない(本音を伝えたら…協力してくれないし)ので、工数がかかるのが問題。

私は技術オタクだし(先行技術調査で技術読むの好き)、先行技術の問題点洗い出して(妄想の発展とも言う)「こんな装置/方法、ツヨツヨじゃね?」としたSTFをひねり出すのは、好きなので…こういった工数を消費しても良いんですけど、残業になったりするし、出願担当のJob descriptionに無い業務である可能性があり…

ですから、協力してくれる発明者に出会うと、とても幸せなんですよね。
当初は考えもしなかった技術思想に出会えてしまった経験があります。
ただ…深~ぁい所まで見つめたSTFが出来上がったのは嬉しいことではありましたが、事業面ではオワコンを危惧する状況であったがために、もったいない作業になりそうで…

要するに、STFの生成作業は、事業に役立つのであれば正当化される、と考えているのです。発明者も出願担当者も、事業への寄与を考えながらSTFを生成するのが基本なのです。が、難しい。
経営者じゃないから。

さて、私は経営とか投資(今回の場合は無形資産の評価)にも関心がある出願担当者なんですが…STFって前記視座から見ると、遥か彼方にある遠景の一点( Pale Blue Dot)でしかなく、めちゃ重要と思うけどその他要因が凄まじく…つまりマクロ視点ではSTFの存在感はほぼ無い。
うーん。

知財部は無形資産管理がJob descriptionに入るのが一般的で、昨今の経済産業省施策は無形資産増大を考えろと法人に言うので、無形資産担当部門は考えますけど…
一つの点が光っただけでは意味がなく。多数の点を光らせて、やっとモヤッと見えるようになるんでしょうかね。
そうすると、個々の発明者が当初からツヨツヨSTFを提言してくる組織にすることが、無形資産増大につながることになって。
これって、知財部のJob description範囲?
先がなげーな。


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