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『父が娘に語る経済の話。』著:ヤニス・バルファキス

本書は、色々な例えを交えながら、経済の基礎がとても分かりやすく書かれているので、「経済のことも少し勉強しなきゃなあ。」「でも、数式とか出てくるやや学術的なものは読むの大変だなあ。」と思っている方々にオススメです。

【概要】
著者は2015年のギリシャ危機の際に、同国財務大臣を務め、EUから財政緊縮策を迫られる中、大幅な債務帳消しを主張した人物。

・ 経済格差は何故あるのか?
地域間格差:不毛な地域では、生きていく為に農作物など「余剰」を貯蓄する必要が出てきた。そして、「余剰」を管理する為に、文字、通貨、国家、軍隊、宗教、経済、テクノロジー等が誕生。結果、欧米諸国が、肥沃なオセアニア地域等を侵略することになった。
域内格差:権力を集中させた方が、「余剰」を管理するのに効率的であった為、寡頭政が始まり、富が支配者に集中。同じ額を稼ぐにも、元手が大きい方が容易な為、地域内格差が拡大。

・経済格差を助長させる、この市場社会は、どうして出来上がったのか?
市場社会:生産に必要と言われる3要素(原材料や道具など「資本財」、農場や鉱山といった「土地」、「労働者」)が商品となった社会。
市場社会の誕生:封建制では、農奴は領主に仕えていたが、自らの労働力を売っているわけではなかった。大航海時代、貿易の発展を経て、第一次囲い込み運動が起こり、農奴が追放された。農奴は自らの労働力を売って、生きていく必要が出てきた。

・経済発展に不可欠な借金と利息
前述の通り、元手なくしてお金を稼ぐのは難しい為、借金と利息、が拡大。借金によって利益が生まれ、余剰が生まれる。
現在、銀行が貸すお金は、預金者が預けたお金ではなく、紙の上/画面の上のお金。
借金→利益という歯車が崩れた時、借金→債務者の破産→銀行は返済不能ローンを抱え込む→預金者が心配して現金を引き出そうとする→銀行は現金もってない→預金者は無一文であることを知る→皆が支出を抑える→不況になる。

・では銀行が悪いのか?
銀行は経済格差や不況を増幅させるが、根本原因は労働市場と金融市場の特性にある。その特性とは、集団の悲観的予測が現実となること。
労働市場:労働賃金の低下→企業にとってのコスト低下→雇用促進とはならず、労働賃金の低下→消費者の購買力が低下すると予想→失業率増加となる。
金融市場:金利の低下→企業にとっての借り入れコスト低下→借り入れ増とはならず、金利の低下→景気悪化を予想→借り入れ減となる。
つまり、市場社会を苦しめる原因は、人間の心理・行動。これらを操ることは非常に困難。それを理解した上で、市場社会に於いて、権力者から身を守るには、どうしたら良いかを考察すべき。

・ 通貨と民主化
通貨は信頼されなければ機能しない。愚かな支配者が通貨の発行権を濫用すると、文字通り悪化が良貨を駆逐し、国家は衰退する。政府が中央銀行にマネーサプライを増やさせる行為は、同様だという主張もある。
然し、通貨が債務と税金に固く結びついている以上、中央銀行が政治的に独立することは不可能。
となると、権力者の好きにさせない為には、通貨を民主化させる必要がある。通貨を民主化させるには、国家を民主化させる必要がある。
誰もが経済について確りと意見を言えることが、真の民主主義の前提。意見を言えるようにする為に、経済とは何か、資本主義・市場経済がどのように生まれたかを、理解する必要がある。