ピープサイトについての考察

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M1ライフルのピープサイト考察 まずはどんな照準器から。 種類:ピープサイト 特徴:弾着修整を容易に行える調整ノブ    1Clickで1MOA単位で修整可能。    歯車同士で噛み合っているのでかなりきっちり回せる。   コラム的に横風修整の簡易計算方法も載せました。


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ピープサイトの照準像について。 銃の指向を出す為に照星に目のピントを合わせるのですが、その際に照門と標的はぼやけます。 ただしピープサイトは標的の輪郭のボヤけ具合を減らす効果もあるよーっと聞きますので、一見矛盾してるような。 そこを調べてみました。

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射撃において超重要な目について 前からきた光は水晶体で屈折し網膜上で結像します。 特に視線の中心にくる黄斑部の中心窩には視細胞の錐体細胞が集中しており、最も良く見える部分。 この構造は後々の計算で使うので載せました。

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ちなみに錐体細胞は明るい所でのみ働きます。 月夜においては錐体細胞は働かず、光子1個でも反応する超高感度センサーなる桿体細胞が働きます。 そして桿体細胞は中心窩付近にはほぼいない。 つまり、暗い場所においては視線の中心よりその外側の方がよく見える…… この話はこんな理屈だったんですね

ぼやけるって何? 絞りの効果って? カメラの話になってきた。 レンズの作図で、上記の疑問を調べました。 ある物体にピントを合わせると背景の物体の輪郭がぼやけます。 これは背景の物体のある1点からきた光が網膜上で1点に集中しない為 点のはずが面として認識してしまう

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網膜上に映る面を例えば人の分解能より小さくしてしまえば、ピントが合っている様に脳は認識します。 これを手っ取り早くするには、光の束を小さくしてしまう=絞りを設けてしまうこと。 絞りがあれば被写界深度が大きくなり、ピントが合ったり背景のボヤけ具合も少なくなります。

ピープサイトにする意味とは 円の中心に視線が合わせやすいとかありますが、要は瞳孔より小さな穴によって被写界深度を大きくし、照星にピントを合わせても標的のボヤけ具合が少なくなり見やすくなる為。 ただどのぐらい見やすくなるのでしょう。 そこで過焦点距離を調べました

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ンフォーカスとか、無限遠までピントが合うとかで出てくる単語です。 前図の中で後方被写界深度の式を出しています。 無限遠、つまり後方被写界深度を無限大にする為にはどうすれば良いのか。 焦点距離、許容錯乱円、絞り値、ピントを合わせる被写体までの距離が絡みます。 条件は図を見てください。

過焦点距離の計算式に照星から目までの距離、目の焦点距離、人の許容錯乱円を代入すれば、照星にも何百m先の標的にもピントが合うピープサイトの穴径がでてくるじゃあないかと。  まずは目の焦点距離を求めました。 水晶体から網膜まで20mmに対して焦点距離は19.5mm……近っ!

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続いては人の許容錯乱円を求めます。 ランドルト環を使う視力検査によれば視力1.0の人の分解能は1/60度と角度で出ます。 つまり水晶体から網膜までの距離と分解能の三角関数で、視力1.0の人の許容錯乱円がでてきて、5.8μmとなりました。 視細胞は中心窩で2μm間隔なので妥当か

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という事で限定的に理想的なピープサイトの穴径はΦ0.2mmと相成りました。 注意点は、穴が小さすぎると光の回析でピントが合わなくなる現象です。 フレネルの回析の式より現象が起きるかどうかの判別式があったので、代入してみました。 回析が起こらない結果となりました。

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だったらもっも穴径を小さくしめも良いんじゃないか…… 実際は絞りで光量をカットしてるので、標的が暗い様に見えます。 あと戦闘においては穴径が小さすぎると視界が狭まるので実用的ではない。 そこで色んな状況で必要となってくる穴径を計算してみました。

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ラスト 狙いやすいように敵兵士の全身を視界に入れたいとか、標的全体を視界に入れたいってなるとある程度の大きさが必要。 ベストな穴径の値は、使用条件とかM1ライフルの設計を行ったスプリングフィールド造兵廠のノウハウなのでしょう。

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ピープサイトが続いた 照星にピントを合わせた時に標的がどのくらいぼやけるか、求めました。 図でいうEE'が網膜上に映る点Aの範囲です。一点に集中してないのでぼやけるので、このEE'の長さを三角形の相似を用いました。

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300ヤード(≒300m)先、10インチの黒丸の的の場合、ぼやーと見える標的の大きさは瞳孔では本来の大きさの5.7倍、ピープサイトを通すとどんどん本来の大きさに戻っていきます。 M1ガーランドのピープサイト穴径はφ1.8mmなので3.8倍となりました。

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ぼやけはグラデーションのように見えるので、外側の薄くなってる部分があります。実際の所、もう少し小さいと体感してるかもしれません

光量について 光量も暗い・明るいじゃよく分からんので、瞳孔やサイトの穴の面積比を出してみました。 φ1.8mmでは瞳孔の36%の光量となります。 さらに具体的な目安として、晴天時の太陽光に照らされた時の明るさ(ルクス)を%に応じて載せてみました。

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昼間は問題なさそうですが、夕方なんかではきついですね。 錐体細胞が反応しなくなると、錐体細胞しかない中心窩では物が見えなくなりますし……

ピープサイトを覗くと穴が大きく見える事への考察 何故か図の様に大きく見えますし、それについて原理を言及された資料を見た事がありません。 そこで網膜上にうつる照門の大きさを計算して比較しました。

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結果として、照星に目のピントを合わせた時に網膜に映る照門の大きさは、照門に直接ピントを合わせるよりも1.3倍大きくなります。 ただ体感的には2倍くらい大きくなっているので違和感はまだ残ります。 照門なりライフルの外形は大きくなってないように見えるので、疑問は残ります

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ピープサイトの穴が大きく見える件、個人的に納得できました!……ので報告します。 結論としては、照門の穴は網膜上に映っておらず、穴を通して見える視界の端、影として認識しているという事です。 まずは下の①図を。 照星、照門(の穴)、目の水晶体、網膜と並んでいます。

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照星に目のピントを合わせると、照星位置にある矢印の先端の点から反射された光は水晶体を通って網膜上に点として映ります。 この時にどのぐらいの視界を得られるか、②図へ。 青線で示したのは画角=視界の範囲です。この青線より中心軸寄りならば網膜に映ります。

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青線より外側ならば網膜に何も映らず、暗闇となります。 そして次に書く事を私は勘違いしておりました。 照門はどのように映るのでしょうか? ピープサイトを覗く時、サイトは黒く見えます。これを極端に言えば、サイトが光を吸収してしまいその反射光が目の網膜まで届いていない状態、つまり

つまり②図の様に照門の穴の淵から網膜上までの光の経路がない状態となります。 この場合、視界の端あるいは影の淵を照門の穴の淵として認識します。 つまり照門の穴を直接は見ていないのです! では照門に光を当てて網膜上に映したらどうなるか……③図を。

照門の穴の淵の1点から反射された光は赤線の様に通り、網膜上には面としてぼやけて映ります。このぼやけは元々見えていた視界の内側に侵入して邪魔する為に、穴が小さくなったように見えるのです。

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照門に光を当てる実験をして分かったのは、ピープサイトを覗いた通常の状態は②図であること。 また傍証として、サイトにフードをつけたり、表面にギザギザをつけて光の反射光を目に行かない様にしたり、ろうそく等の煤を付着させたりする実例は、ピープサイトを暗くする目的だったと説明できそうです

ピープサイトを覗いた時にサイトが暗ければ穴の淵が網膜に映らない。 だからこそ穴が大きく見える。 穴の淵が網膜に映らない発想に至るまで時間が掛かりました。 影というキーワードが無ければ、一生掛かったでしょう。

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