銃の反動と運動量保存則についての考察ver.2

 今この記事を開いた方は反動に関する以下の記述を見たことがあるだろう。

①弾が前進する反作用で銃は後方へ押される。
②弾丸発射時、運動量保存則によって銃は後退する。

前回の記事で②については、燃焼ガス圧による力積が同じことにより銃と弾の運動量は同じであることを示した。しかし、①に関しては未だ不明なままだった。この「弾が前進する反作用」とは何なのだろう?
 恐らく運動量保存則の観点から弾の運動量と同等の運動量で銃が後退することを指しているはず。ただ文字通りに「弾からの反作用」で銃が後退すると理解を試みる私は混乱した。銃と弾が接触しているのは弾側面のみであり、銃が弾から受ける力は摩擦の反作用、つまり銃身を前方へ引っ張る力だけだからである。いつ、どこで弾が銃を押しているのだろうか?弾が前進しながら銃を押しているのか?押しているのは燃焼ガスだろう。
 そこで銃と弾とガスを1つの物体系とし、各々の物体の運動量を計算を行い、整理してみた。

Ⅰ. 銃とガス圧と弾

 図1に各々の物体にかかる力を図示する。

図1. 力

 今回は真後ろに銃へ作用するガス圧を砲尾圧とし、弾底に作用するガス圧を弾底圧と分けた。これはガスの運動量を計算する為であるが、火器弾薬技術ハンドブックによれば実際に薬室後端と弾底の圧力に差が生じている。

弾丸が停止しているときは、薬室内の圧力は、どの場所でも同じであると考えても大きな問題はないが、弾丸が移動を始めると砲軸線砲口に沿って圧力の勾配が生じ、弾底に作用する圧力すなわち弾底圧は薬室の後端に作用する圧力すなわち砲尾圧よりも低くなる。

防衛技術協会(2012)、『火器弾薬技術ハンドブック』、サミット印刷、P.29

 専門家ではない私の解釈を説明する(図2)。
弾は音速なり超音速で銃口から飛翔するが、このときの砲尾圧と弾底圧が同じになるはずがない。砲尾側のガスは銃が動かない以上流速は0であり、一方の弾底は高速で動き流速も弾速と同等以上に流れているはずである。ベルヌーイの定理によればガスに動圧が生じている、かつ流速が弾速と同値ならば弾に動圧による力が働かないため、弾底に全圧(=砲尾圧)ー動圧分の静圧が働く。
 つまり燃焼ガスの圧力は一様でなく、圧力分布が存在し、砲尾圧>弾底圧である。

図2. ガス流速分布のイメージ

この勾配はラグランジェ圧力勾配モデルやピダック・ケント圧力勾配モデル等の流体力学、熱化学的考察から計算される。今回は私の力不足から詳しいことの説明ができないため、薬室後端の圧力と弾底の圧力には差が生じているとし、それぞれP1、P2とした。

Ⅱ. 運動量を求める

 登場人物と各力を考えたので、次に各々の運動量を計算してみる。

図3. 各物体の運動量

 運動量保存則が成立するならば、MV=mv+Cuとなるはずである。
 右辺を見てみよう。

図4. 右辺の計算

 右辺=mv+Cu=(P1-R3)t=MVとなり、運動量は保存されている

Ⅲ. 銃を後ろに押す力

 運動量保存則は作用・反作用の法則と密接している。言い換えと言っても良い。銃における運動量保存則が成立しているとなると弾の反作用は銃にも伝わっているのか?
 MV=(P1-R3)tの中に摩擦の反作用であるR3はあるが、「弾の反作用」であるR2の文字は存在しない。あるのは燃焼ガス圧の力であるP1のみである。
 つまり「弾が前進する反作用」で銃が後退しているのでなく、「燃焼ガスによって銃が押される」ことによって銃が後退しているのだ。

 燃焼ガスが弾の反作用を伝えていると言われるかもしれない。実際、弾が存在することで空砲よりも腔圧は大きく上がり、P1自体に影響を及ぼしている。しかし弾という存在がガス圧が上がる原因だとしても、銃を後ろに押しているのはガス自身である。空砲において軽くても反動を感じる理由も、ガスが押しているからだ。
 以上のことより、反動とは「弾が前進する反作用」でなく、ガスが銃を押すことによって生じるものとここでは一応の結論とする。

 言葉の揚げ足取りと自分でも思ってしまうが、ネットなり文書を見ていると、ガス圧による力と弾が前進する反作用が別の力と考えているものが見受けられる。銃を後ろに押す力はガス圧によるものしか存在しないことを強調したい。


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