時の流れ止まれし世界
想鐘 虎鷹
吾吾の棲む此の宇宙の真理つまり本質は、すべてが変わり行く事である、という。
ホワイトホールにはブラックホール、物質には反物質と言われるものが在るが如く、反宇宙即ちまったく変わらぬトポスは存在する、寧ろ、存在せねば道理に合わぬ。
チェリーマンは其れを発見した。
何れの御時かは、詳細は不明。
だが、彼は其れを見つけたのだ。
其の反宇宙に始まりがあったか否か、又、終わりが来るか否か、は誰にも、即ち、全知全能と言われる神にも与り知らぬ事である。
何故なら、神も自身が何故、存在し、何者かが自身を生み出したかは謎、要するに全知全能と言っても、人間の能力に比べての事故。
其の時止まれし世界は、恰も時間が凍結した様にすべての存在は静止していた。
処が、ある時、其の凍結が溶け始め、ゆるりゆるりと動き始める。
しかし、吾吾地球人の一年に相当する時の間が、一秒と換算される程、スローな舞妓の見てくれであったので、最初期は誰も氣づく由も無かった。
其処の生物の寿命は、最も長くて、其の反宇宙での一日。
果たして、長いのか、短いのか……
100億光年というものが、もし、食べられるものならば、人人にも如何なるものかの感慨も抱けよう。
吾吾、人間は体験外・概念外の事はイメージを抱けたとて、実感は出来ぬ。
其の反宇宙の住人とならぬ限り、其処での経験による感覚は得れぬ。
探検家チェリーマンは勇氣を鼓舞して、反宇宙へ飛び込んだ。
初めは、あまりにもスロー過ぎて、自身が生きてるのか否か、も判断が出来なかった。
だが、君はどんくらい、どんくらい……かも、計りかねるの時が流れて、漸く、自身は生きている、と実感が湧いて来た。
環境は人を作り、人は環境を変え、創造する。
最も此の世界で強力なるもの、其れは意志や意識と言われるものである。
チェリーマンは、此の反宇宙世界をもっとスピーディーなものにしたい、と念い動いた。
どのくらいの時が過ぎたかはわからぬが、すべての存在は徐徐に動きをはやめる。
チェリーマンは何者か、自身と対話し、行動をする存在を欲した。
すると、ブロッサムという女の如き存在が生じた。
「花は女か、男は蝶か」
チェリーには種がある。
だが、其の種を成長させるには土壌が要る。
花弁を散らし、二者は愛し合う──
「一はニを生み、二は三を生み、三はすべてを生んだ」
ブロッサムの生んだすべての存在は、反宇宙内すべてに探検に出かけ、踏査し棲みつく。
時を待ち(松)、其れは竹の如く伸び、生め(梅)の世となり、櫻は咲き誇る。
だが、咲いたものは散る、のが流れ。
花弁は少しずつ綻び、やがて、桃色の吹雪の時節となる。