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スズキという企業 スズキというマシン
スズキは日本の四輪メーカーのなかでは後発に入る。
鈴木式織機株式会社から鈴木自動車工業株式会社に改称したのは1954年。四輪量産車の発売は1955年のスズライトが初である。四輪メーカーとしてスズキよりも後発の企業は三菱自動車、三菱ふそうのみである。
企業としては大正9年(1920年)に設立。
創立100周年を迎えた2020年、MotoGPでチームエクスタースズキのジョアン・ミル選手が見事世界チャンピオンに輝いて、スズキの歴史に華を添えたことは記憶に新しい。
ちなみに日本最古の自動車エンジンのメーカーはダイハツである。明治40年(1902年)の設立で創立120年を迎えた。
現在日本における設立後100年超の自動車メーカーは全部で3社。ダイハツ、スズキと来て、さてもう一社はマツダだ。スズキと同じ大正9年(1920年)の設立である。
また話がそれるが、マツダの自動車開発は二輪車から始まった。日本の自動車メーカーで最も設立時期の早い3社のうち2社は二輪開発と関連がある。
ダイハツはそもそも産学連携の発動機製造企業としてスタートしており、スズキとマツダはそれぞれ織機メーカー、コルクメーカーとしてスタートしている。
僕がスズキでセールスをやっているとき、お客様によく言われたことの一つが
「スズキって、安っぽいよね。」
だった。
後発であるがゆえにスズキはコストパフォーマンスと独創性で勝負してきた。
すなわち同じ性能なら価格を安く。
製品としてどこにもないものを。
僕はスズキのことを学生時代の就活時期に自分なりに調べた。スズキとは、一言で言えば若者の味方なのだ。
お金はないが未來のある若い人に、マイカーをもつ夢を実現させたい。
初代アルトはその思いから生まれた。若者にあるのが可能性と野心だけの時代に、金持ちの中高年に近い生活レベルを実現させよう。親がかりでなければカロツーも買えないと某社が見向きもしなかった若い世代に、マイカーのある豊かな生活を。
結果として大ヒットし、同社の看板商品になった。
アルトは今も新型が発売されている。
ファミリーユースのワンボックスが流行った。
二百万円もするクルマは高額で、子育てに懸命な若年層世帯には手がでない。だが、夫婦二人子供二人の家族にアルトだけでは空間が足りない。
そこでワゴンRを作った。
僕が納めた、発売当初のワゴンRのお客様はほとんどが二十代から三十代の核家族。
実家に頼らず自力で生活をし、乳飲み子をかかえ、生活の質よりも節約をと、家族の楽しみも我慢して暮らすつましい人々だった。
広い空間、ハイパワーとまでは言わないがお出掛けに十分なエンジン。とても喜ばれた。こんなに喜んでもらえるなんて、と感動した。
みんな、必死で生きていた。バブル崩壊の余波が地方にも押し寄せ、自活する人々にとってクルマをもつということはそんなに甘いものではなかったころのことだ。
動力のついた乗り物を贅沢品から生活必需品に認識を改めさせたのはスズキの功績といっていい。
「スズキって、安っぽいよね。」
それが言える人は金持ちなのだ。
そう確信したのは某テレビタレントがジムニーを指差して
「すごいけど、ジムニーって貧乏臭いよなぁ。」
といったときだ。
その時、ジムニーは国産の名だたる高級オフロード車が次々とスタックし脱落していく過酷な悪路を、急勾配を、まるでなにごともなかったのように、とことこと走破して見せたのだ。
その姿をみての先の発言だった。
そのタレントは趣味人として世に知られたクルマ好き、バイク好きで、おしゃれな外車を乗り回す憧れの人だ。そんな人物が「すごい」と言ったのだ。
「勝った。」
と思った。
スズキとはそういうマシンであり、スズキとはそういうマシンを作るメーカーだ。
当時、見た目にカネのかかったクルマを求めるなら、スズキに乗るべきではなかった。おしゃれな雑誌に取り上げられるような見目麗しいハイソなクルマに乗りたい人が喜ぶクルマはスズキにはなかったのだ。
スズキのクルマは、つましく必死に生きる人々が、それでも豊かな生活を実感できるクルマだ。持っていることを他人に自慢するためのクルマではない。
似たような価格で売るクルマなら、その作り方は二通りしかない。
見た目に金をかけるか、中身に金をかけるか、だ。
「スズキは後者をとりました。それだけのことですよ。」
僕はそう言ってスズキをお客様に勧めた。
今はデザインもインテリアもとてもかっこよくなって、あのころのプラスチッキーな安っぽさはない。
あのころスズキを買ってくれたみなさんに、とても感謝している。みなさんのお陰でここまできたのだ。
そしてこれからもスズキを応援してほしいと思うのだ。
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